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キミの心  作者: 小日向ライ
第3章夏色小春
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25話

俺と夏色小春の出会いは衝撃的なものだった。

驚かざるにはいられなかった。衝撃的なのは出会いだけではない。夏色のすること全てに俺は驚かされた。行動1つ1つが理解不能で対処不能だ。夏色ほどに取り扱い説明書が欲しいと願った人間は他にいない。関わらない方が正しいのかもしれない。だけど、もし関わらない方が正しいというのなら、俺は間違っていても構わない。そもそも、俺の人生は間違いだらけだ。今さら、正しい道を選ぶ気にもなれない。だから、俺はまた間違える。



6月になり、世間は梅雨に入ろうとしていたそんなある日。有栖と蛍の問題が解決されたことに、安堵していた俺は、放課後の校内をぶらりと散歩していた。予定や用事なんてない。本当にただ、廊下を歩いていただけ。そんな落ち着いていた俺の心は目の前の光景を見て、一気に冷静さを失った。最初から冷静さなんてものが俺に存在していたかは怪しいけれど、とにかく俺は慌てた。


だって、目の前に窓から飛び降りようとしている1人の少女の姿があったのだから。確かここは3階の廊下だったはずだ。ここから飛び降りれば、無傷では済まないだろう。だから俺は、必死に駆けた。相手の気持ちなんて考えずに俺は全力で駆けた。


「間に合……え!」


咄嗟にそんな言葉が漏れる。手が届くであろう距離まで近付いて、俺は手を伸ばして、少女の腕を引っ張った。少女の体重の負荷が掛かり、床に尻もちをつく。その後に、少女も短い悲鳴とともに俺の上に乗っかってきた。


「ぐはっ!」


負荷が一気に押し寄せてきて、俺もまた短い悲鳴をあげた。だけど、大怪我するかもしれなかった事態を尻もち程度で済ませられてよかった。


すると、少女がこちらを振り向き、睨んできた。


「いきなり何をするんですか! 危ないじゃないですか! ぶっ飛ばしますよ!」


「危ないはこっちの台詞だ! 死ぬ気か!」


少女は理解できないとても言いたげな表情を浮かべて立ち上がった。そして、俺の方を指差し。


「こはるはあなたのことが大嫌いです!」


出会って、数秒で嫌われた。どうやら、名前は小春と言うらしい。紫色の髪はともかく、顔立ちはお淑やかそうなのに、吐かれる言葉は暴言ばかりだ。外見と性格が一致していないという人は少なくはないだろうけれど、この子の性格は外見とあまりにも違いすぎて予想がつかない。


「俺にとっては好きも嫌いも一緒みたいなもんだから、別にいいけどさ。自分の命は大切にしろよな」


「自分の命? 何の話ですか」


訝しげな視線を向けてくる。見るからに、自殺を目論んでいたとかではなさそうだ。そもそも自殺をするつもりなら、屋上から飛び降りる方が確実だろう。では、なぜこの子は窓から飛び降りようとしていたのか。


「さっき窓から飛び降りようとしてただろ? 普通に考えたら大怪我ものだぞ」


「単純に家に帰ろうとしただけですよ。窓から飛び降りた程度で大怪我とかあなたはどれだけ貧弱なんですか……」


あまりにも自然と発された言葉に俺の常識が間違えていたのかと、不安になる。少なくとも俺は、家に帰る時に窓から飛び降りるという手段を使っている人を知らなかった。


「階段を降りるみたいな感じで、窓から飛び降りようとするなよ……えっとこはるって言ったか? こはるがどんなふうに思ってるのかは分からないけれど、やっぱり周囲が見たら心配するからさ」


「周囲って?」


変なところに反応される。


「いや、ほら友達とかさ」


その一言にこはるが考え込む。そんなに難しいことを言ったつもりはないのだけれど、何にそんなに悩んでいるのだろうか。それとも、もしかすると、こはるも有栖のように友達に裏切られたとかそういった事情を抱えているのだろうか。


「友達……あーこはるは確かその友達っていうのを作らなきゃいけなかった気がする」


「作らなきゃいけないってことはないだろ……別に無理して友人関係を作ろうとしなくなっていいんだ。あんまり無理すると疲れるだけだぜ」


有栖のことを知っているからか、俺もまた人間関係に対して、慎重になっている部分があるのかもしれない。しかし、話を聞く限りでは、今のこはるには友達がいないということになるのだけれど、それは俺の勘違いで、この後何人もの友達がこはるを囲んで帰っていったりされると、俺はとても恥ずかしいことを口にしたことになってしまう。


「じゃあ、あなたでいいです。こはるの最初の友達はあなたでいい」


なんだか、凄く妥協された感じだけれど、友達第1号に指名された。


「友達ってそんなふうにできていくもんじゃない気がするんだけれど、それはまあいいや。じゃあ友達として聞かせてもらうけれど、どうしてこはるは窓から飛び降りて家に帰ろうなんて危険な真似をしようとしたんだよ」


俺のその疑問に対して、こはるは疑問そうな表情で返してくる。


「危険? 単純にわー近道発見したー。ラッキーぐらいのノリで飛び降りようとしたんですけれど。階段を何度も降りるよりは効率的かと」


「そんな理由!? 素直に階段を降りろよ……俺が心配するだろ」


「あなたに心配されても嬉しくともなんともないんですけれど……というかさっきから馴れ馴れしいです。友達をやめてください」


出会って数秒で嫌われて、それから友達になってすぐに友達をやめて欲しいと提案されていた。今まで、関わってきた人たちの中で、1番関係がコロコロと変わっている。


「意外と心にくるものがあるからその辺にしといてくれないか?」


「なんですか、こはるの言葉がそんなに心に響いたんですか? 案外ちょろいんですね」


「傷付いてるんだよ!」


勘違いって怖い。俺の言い方が悪かったかもしれないけれど、自分の発した言葉を思い返して、相手の心に響くと思えるなら、それはすごい感性だ。


「ところで、こはる、あなたの名前知らないんですけれど……」


「ああ、そういえば言ってなかったな。俺の名前は青山勇人だ」


「こはるも改めて、夏色小春です! 1年です」


こはるは可愛らしく微笑んだ。どうやら、生意気だけではなく、可愛らしい一面も持っているらしい。1年ということは有栖と同級生か。有栖ならこはるのことを知っていたりするのだろうか。


「なあ、こはる、姫宮有栖って知ってるか?」


とりあえず、こはるに訊ねてみる。


「分からないですね。そもそもこはるは自分のこともよく分かってないんです」


「自分のことが分からない? それってどういう意味だ?」


出会って、初めてこはるは悲しげな表情を見せる。


「こはるは、今までの自分のことが思い出せないんです……」


そう言ったこはるの姿はとても儚げに見えた。









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