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キミの心  作者: 小日向ライ
第2章秋瀬蛍
23/38

22話

私たちは、ケーキ、ろうそく、クラッカーなどを買って、特別感を出すために、学校で誕生日(仮)を祝うこととなった。やはり泥棒は良くないということで、一応私の家からお金を取ってきて、レジに置いておいた。

私たちがいつも授業を受けている教室に来ると、勇人くんがケーキを見て考え込むような表情を浮かべている。

気になって、訊ねる。


「どうしたの?」


「いや、今言うのもなんだけどさ……そういえば俺って甘いもの苦手だったんだ」


「どうして今言ったの!?」


自然と肩が落ちる。買うときに気付かなかったのだろうか。気付いていれば、何か別のもので代用することもできたというのに。外もなんだか薄暗くなってきているし、この後外に出るのも危険だ。そもそも、この世界に朝や夜という概念があったんだということに驚かされる。


「まあ、せっかく蛍が作ってくれたんだ。食うよ」


「いや、私の手作りにされても困るんだけれど……普通に市販のものだよ」


私が勇人くんに食べさせる手作り料理が勇人くんの嫌いなものになるのはごめんだ。心の底から美味しいと思ってもらうことができなくなってしまう。だけど、私は料理に自信があるというわけではない。元の世界に帰ることができれば、練習してみるのも悪くないかもしれない。


「そもそも、この世界は夢なのかどうかが俺の中では曖昧なんだよな。夢だとすると味覚は感じられないだろうし……体温は感じられたけれど」


体温を自分で確認したことを思い出して、勇人くんは顔を曇らせる。この世界は夢とは少し違う。私の心が創りだしたものだ。だから、感覚というものが存在するのは、私が無意識のうちにそう望んだからだろう。自分のせいで勇人くんを苦しめることになっていると思うと、罪悪感を感じてしまう。


「ごめんね……」


「え? どうして蛍が謝るんだ? この世界に来てから、蛍ってちょっと変わったよな。なんていうか、説明しにくいんだが、女の子らしくなった? っていうのも失礼か」


言葉が見つからずに、頭を悩ませる勇人くん。

今まで隠してきた恋心を愛する気持ちを隠さずに接しているのだ。変わったといえばきっとそれだろう。私からすると、今のこの状況は服も着ずに町を歩いているぐらいに恥ずかしいのだけれど。


「ううん、それって可愛くなったってことだよね? 褒められて私は嬉しいよ」


「ん? 蛍が嬉しいならそれでいいか。あっケーキを早く食わないと冷めてしまう」


慌てて、ケーキの箱を開ける勇人くん。

どうやら、嫌いだとわかっていても、雰囲気を重視するらしい。


「ケーキはすでに冷めてるんだけれどね……」


皿にケーキを取り分ける勇人くんを遠目に見ていると、頬が緩む。そして、ふと窓の外を見る。

さっきまで、薄暗かった外は、いつの間にか真っ暗になっていた。夜になれば、あとは眠って元の世界に帰るだけ。この楽しかった1日は終わる。終わってしまう。互いが眠らずに過ごすことで、時間を先延ばしにすることはできるかもしれないけれど、そこまでの迷惑はかけるべきではない。だけど少しだけ。ほんの少しだけならわがままを言ってもいいのではないだろうか。考えていると、左目からなにかが垂れてくる。肌に熱さが伝わってきて、どうすればいいか分からくなる。勇人くんが私の方を振り向いて、驚いたような表情を浮かべてくる。


そして、勇人くんは口を開いた。


「蛍……どうして、泣いてるんだ?」


泣いている。そうか。私は今泣いているんだ。

つまり、目からでているものは涙。もう遅いかもしれないけれど、私は必死に涙を拭う。


「あっあれ? どうしちゃったんだろ……おかしいな。目に埃でも入ったのかな?」


誤魔化すように、笑ってみせるけれど、意思に反して、涙はとめどなく溢れてくる。

そんな私の元に、勇人くんが近付いてくる。


「……何かあったのか?」


「ううん。何もない。何もないんだけれどね……ねえ、勇人くん1つだけお願いを聞いてもらってもいい?」


私は勇人くんを見上げて、そう言った。

勇人くんは困惑していた。もしかしたら、私の気持ちに気付いたのかもしれない。


「な、なんだ?」


「私を……抱きしめてほしいの……」


勇人くんは何も言わなかった。まだ戸惑っているようだ。だから、私は言い訳をする子供のように訴える。


「そしたら、泣きやむからさ。いつも通りの私に戻るから……笑えるから。だから、だから……今だけ……」


そこまで言って、ようやく勇人くんが口を開いた。


「……それで蛍が助かるなら」


勇人くんは今、こんな状況でも、誰かを助けることを考えていた。好きや嫌いという感情を置き去りにして、人助けのために私の願いを聞くのだ。しかし、勇人くんはとても悲しげな目をしていた。それがどうしてなのかは分からないけれど、私にはその理由を聞く勇気はなかった。


「……助からないよ」


小さく呟いて、私は勇人くんの胸に飛び込んだ。




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