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キミの心  作者: 小日向ライ
第2章秋瀬蛍
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20話

私は、有栖ちゃんと別れた後、寄り道をせずに家に帰った。そして、現在ベッドの上に座って、頭を悩ませている。

自分の失ってしまった感情を取り戻す気にはなったけれど、そのためには、おそらく再びあの世界に行かなければならない。

しかし、あのときは無意識でたまたまあの世界に行っただけであって、意識して、行くのは難しい。


「もしかしたら、私は無意識に勇人くんへの想いをなくそうとした? だとすると、今度はその逆で取り戻そうと強く想えば……」


私はベッドに寝転がり、目を瞑った。そして、勇人くんのことを考える。楽しいことや悲しいことを考えても、感情に変化はない。だけど、私は勇人くんのことを強く想い続ける。やがて、睡魔が襲ってきて、私はそのまま眠りについた。



自分がどこかに立っている感覚がして目を開く。そして、その目からは涙が溢れてきた。


「あはっ……どうしよう。心が痛くて苦しい。これが私の感情……」


目の前は涙で曇っていたけれど、今私がいる場所は正真正銘あの世界だった。人がおらず、私から感情を奪っていったあの世界だった。この世界に辿り着けたことで、閉じ込められていた私の感情が私の勇人くんに対する想いが戻ってきたのだ。溢れてくる涙。胸が締め付けられるような苦しみ。何故かそれが今はとても心地いい。

目的は果たした。後はこの世界で眠りについて元の世界に帰ればいいだけだ。


「蛍? どうして泣いてるんだ?」


背後から声が聞こえてきて驚く。振り向かなくても分かる。聞きなれた声。それはまさしく、勇人くんの声だった。

私は、泣いている顔を見られないように、手で顔を覆い、振り向かずに返す。


「勇人くん、どうしてここに?」


「うーん間違いなく、蛍だ。夢かと思ったけれど違うのか?」


おそらく、ここは私が無意識のうちに創造してしまった幻のようなものだろう。しかし、それを言ってしまうと、勇人くんは必ず原因を訊ねてくるだろう。何度も嘘をつくのは心が痛むけれど、まだ私の気持ちは知られたくない。


「私にも分からないんだよね……いきなりこの世界に迷い込んじゃったみたいで」


「蛍にも分からないのか……うーんなんだか凄く静かだけれど、人はいないのか?」


ここで、いないと言ってしまえば、私がこの世界を知っていたことがバレてしまう。私は涙を拭って、立ち上がり、恥ずかしいけれど勇人くんの方を振り向き、言葉を発した。


「探してみる?」


「そうしよう」


私たちは、それから、人を探すべく歩きだした。正直なことを言ってしまうと、この時間は無駄でしかないんだけれど、怪しまれるわけにはいかないので仕方がない。もしかしたら、この状況を作り出したのは、私が勇人くんともう少しだけ2人っきりになりたいという甘えからなのかもしれないけれど。

すると、少しだけ前を歩いていた勇人くんが口を開いた。


「なあ、蛍。今から変なこと言っていいか?」


「変なこと?」


気になって、訊ね返す。


「ああ。流して聞いてくれればいいよ」


言って、勇人くんが続けた。


「俺には、蛍になにがあったとかは分からないんだけどさ、なんていうか、これだけは言わせてくれ」


一瞬間を開けて、勇人くんが再び、口を開いた。


「おかえり……」


顔を合わせようともせず、ただ前を向いたまま勇人くんはそう発した。有栖ちゃんは、私に起こっている現象について勇人くんだけが分からないと言っていたけれど、そんなことはなかったのだ。勇人くんだって、私に何かが起こっていることは知っていた。だけど、あえて言及はせずに、私に判断を委ねた。私を信じてくれていた。そして、今私の顔を見たことで、私が問題を解決したことを悟ったのだろう。だから、私は前を向いたままの勇人くんは見えていないとは分かっていても、精一杯の笑顔で答えた。


「うん! ただいまだよ! 勇人くん」


後ろからだと、よく見えなかったけれど、勇人くんが少しだけ微笑んだ。そんな気がした。





「人はいないみたいだな。となると、俺たち2人だけってことか……」


しばらく歩き回って、誰1人として見つけられなかった私たちは、たまたまあったベンチに腰掛けていた。そこで、勇人くんが考え込むように呟いたのだった。


「そうみたいだね」


「蛍はどうすれば、ここから抜け出せると思う?」


訊かれて、私が最初抜け出したときのことを思い出す。

信じてもらえるかは分からないけれど、一応言ってみる。


「私たちは寝てこの世界に迷い込んだんだから、この世界でも同じふうに眠ったらいいんじゃないかな?」


「なるほど、分かった」


何の疑いももたれずに、信じられる。そして、勇人くんは目を瞑った。私は、しばらく横からその顔を眺める。すると、勇人くんが目を開いた。


「だめだ……まったく眠れない」


遠足の前日に小学生が言いそうな台詞を言い出した。特に、寝て何かが待っているというわけでもないので、楽しみなどはないのだろうけれど。しかし、勇人くんの台詞を聞いて、なんだか前回、普通に眠れてしまった私が恥ずかしくなってきた。


「えっと、じゃあどうする?」


「この際だ。少しはこの世界を楽しむのも悪くないかもしれない」


私がたった1人だったときに、考えはしたけれど、しなかったことを勇人くんが提案した。

ベンチから立ち上がり、私の方を向いて。


「行こうぜ、蛍」


「行くってどこに?」


私の問いに、勢いのよかった勇人くんが頭を抱える。


「どこでもいい。とにかく楽しいと思えるとこだ」


「そっか、そうだね。どうせなら楽しんで帰ろう」


私たちの世界に。私たちが出会った本物の世界に。






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