17話
「多分、それ間違ってるよ……」
ある人物に、私の青山くんに対する想いを話すと、あっさりと否定された。まあ、言ってしまうと、青山くんのことを嫌っている、雪代さんに、同じ嫌い仲間であることを伝えようとしたところ、ばっさりと切り捨てられてしまったというわけだ。
「どうしてそう思うの?」
私は訊ねる。理由もなしに、否定されては、やはり納得できないというのが、普通の人間の意見だと思ったからだ。私の意見は、よく分からない。
「なに? あんたら2人の間では悩みをあたしに打ち明けるのが流行ってるのか? そうじゃないんだとしたら、考えも、相談相手も間違ってると思うんだが」
どうやら、青山くんも雪代さんに何かしらの相談をしたようだ。私はともかくとして、青山くんはよく嫌いだと言っている少女に相談をしようとしたものだ。もしかしたら、青山くんには雪代さんに嫌われているという自覚がないのかもしれない。もっとも、私も雪代さんがどうして、青山くんのことを嫌っているのかは分からないけれど。
「えーと、青山くんはどんな相談をしたの?」
「そういえば、あいつの犯行現場もここだったな……」
今、私たちがいるのは校庭にある自販機のすぐ近く。
犯行現場。なんだか、青山くんの危険性が増したような気がする。いったい雪代さんに何をしたのだろうか。
「えーと、青山くんはどんなことをしたの?」
相談をことに変えるだけで、こうも意味が変わって聞こえるのか、と日本語の素晴らしさに感服する。
「確か、自分はこれからツッコミとボケ、どちらで生きていくべきかを聞かれただけだよ。だから、私はツッコミと答えておいた。それ以上のことは何もない」
青山くんはいつから漫才師を目指していたのだろうか。おそらくは嘘なのだろうけれど、あまりの雪代さんの無表情っぷりに、本当にそんなことを聞いたのだろうか、と信じてしまいそうになる。しかし、もしもその話が本当ならば、1つ問題が生じる。それは残念なことに、青山くんの周囲には、ボケ要員がいないということだ。強いてあげるならば、姫宮さんということになるのだろうか。結ちゃんは、なるべく青山くんには関わらないようにしているだろうし、ボケ担当としてもあまり機能しなさそうだ。アイスを目の前にした時だけは、分からないけれど。
「本当に、そんな話をしていたの?」
「さあね。本人に直接聞けばいいんじゃないか? まあ、もしもあたしが秋瀬だったら、あいつがどこで何してようが気にはならないけどな」
どこか含みのある言葉を雪代さんが投げ掛けてくる。だけど、そんなふうに言われても、私の心には何の変化もない。
「私も別に気になっているわけじゃないよ。今の私って何に対しても無関心だから……」
「ふーん。でも、本当にそう思ってるわけじゃないんだろ? 何に対しても無関心な人間がそんな辛そうにしてるわけないもんな……自分では気付いていないかもしれないけどさ、あんたの心は泣いてるよ」
私の心が泣いている?何も感じていないのに?
雪代さんはどこか私を可哀想だと言う目で見てくる。その瞳に、映る感情は、明らかに、愛ではなく、哀だった。どうして、私がそんな目で見られなければいけないのか分からなかった。
「私は今、とっても楽なの。何も悩まなくていいし、何も困らなくていい。それなのに、私の心が泣いているって……もし、そうだとしたら嬉しくて泣いているんじゃないかな?」
「はあ……そんな顔で私を見るなよ……あんたのことまで嫌いになりそうだ」
雪代さんの表情が、同情のようなものから、怒り、憎しみに変わったような気がするけれど、否、より具体的に言うならば、これは寂しさだろうか。もしかしたら、雪代さんもまた誰かの救いを待っているのかもしれなかった。
しかし、雪代さんの表情は分かっても、私は、私自身は今、どんな顔をしているのか分からない。
こういうときの為に、手鏡でも用意しておくというのが、女子高生としてあるべき姿なのかもしれないけれど、私がそんなことをしても似合わないだろう。
「嫌な思いをさせたなら謝るよ。ごめんなさい」
「あんたと話して1つだけ言わなきゃならないことができた」
言わなければならないこと。雪代さんが私に言いたくなるようなことなんて、そんなのは決まっている。間違いない。あれだ。
「もしかして、告白?」
「これは重症だ……ちょっとついてきな」
雪代さんは頭を抱える動作をとったあと、すたすたと歩きだした。私はそれに、特に躊躇することもなく、ついていく。
「どこに行くの?」
そう訊ねていた。ここで、何も気にせずについていくほうが不自然だ。だから、私は自然であろうとしただけ。
「ヒミツー」
無表情で、棒読みに言われたその言葉には何の魅力も伝わってこなかった。秘密という言葉は、もっと魅力を感じさせる言葉だったような気もするけれど、使う人次第で、こうも印象が変わるのか。歩いていると、私には雪代さんが向かう目的地の察しがついた。
「なるほど。雪代さんがどこに連れていこうしてるのか分かったよ」
「怖いのか?」
「ううん、全然」
そのまま、雪代さんは私を連れて、私のクラスの教室へと、迷うことなく、入っていった。
そんな姿が、私には少しだけ男らしく映る。
別に、恋愛感情が芽生えたとかそういうことではないのだけれど。そして、青山くんの前までいくと、私を指差し。
「ツッコミ、こいつがお前のことを嫌いらしい」
堂々と、そう言い放った。
「いきなり、教室に入ってきたと思ったら、俺の心を深く抉るようなことを言うなよ……てか、俺の名前はまだツッコミのままなのか」
「そして、あたしもツッコミが嫌いだ」
またしても、堂々と、雪代さんは青山くんに向けて言葉を放った。
しかし、それは言う必要があったのだろうか。
「なんだよ。 2人して俺をいじめにきたのか? 雪代に関しては、無表情のままだから、本気なのか、ふざけてるのか分からないんだけれど……いや、俺の呼び方からしてふざけてるな」
「そんなに改名したいのか? だったら、変態、加速していく変態、親しみを込めて変態、この3つの中からどれか好きなやつを1つ選んでくれ」
私は、この3つの選択肢の中に、違いなどあるのだろうか、と疑問に思う。これでは、青山くんが何を選んでも、どこまで行っても、変態ということになってしまう。しかし、どうしても選ばなければならないというのなら、私は親しみを込めて変態にするべきだと思った。ちなみに特に理由はない。
「どれも変態じゃないか! 悔しいがツッコミがマシに見えてきたよ……」
「ちなみにあたしのオススメは加速していく変態だ。なんだか、困難を乗り越えてしまいそうなそんな、力強さを感じる」
言われてみれば、分からないこともない。変態だけど、この人になら、身を任せられるという安心感がある。本当は、身を任せない方がいい存在なんだけれど。
「普通に、名前では呼んでくれないのか……」
「名前はこの前忘れたんだ」
「このままだと、話が進まないし、早く名前は決めた方がいいんじゃないかな?」
私はそう言って、話の先を促す。
雪代さんが何の目的をもって、私を青山くんのところまで連れてきたかは分からないけれど、少なくとも、こんな雑談を楽しむためではないだろう。
「いや、だから青山か勇人でいいだろ。蛍も悪ノリしようとするなよ」
「ん? 蛍? いつから、加速していく変態は秋瀬のことを下の名前で呼ぶようになったんだ?」
「自然と、その名前を定着させようとするな。まあ、俺が蛍って呼ぶようになったのは昨日からだよ。別にどっちで呼んでもいいだろ?」
そういえば、私が確認のために、青山くんのことを勇人くんと呼んだんだった。別にこれからそう呼んで欲しかったというわけではないのだけれど。昔の私ならともかく。
「そうだな。あたしは気にしない。さてと、秋瀬、逃げずに向き合えよ」
そう言うと、雪代さんは教室から出ていこうとする。それを青山くんが止める。
「おい、結局何しに来たんだよ」
「容量オーバーだ」
振り向かずに、私たちに手を振って、教室を去っていった。しかし、私に何と向き合えというのだろうか。向き合わなければ、ならないものなんて私には存在しないのではないか?
読んでくださりありがとうごさいます。
コツコツではありますが、まだまだ更新は続きますので、温かく見守って頂けると幸いです。




