10話
さて、姫宮有栖という1つ年下の少女に頼られたところまでは良かったけれど、問題の原因を聞いたところまでは良かったけれど、俺はその問題を解決させるすべを何一つ持っていなかった。この問題を解決させられる知識もなければ、クラスメイトや両親に制裁を与える力もなかった。そもそも、制裁なんてものをやっても姫宮は喜んだりしないだろう。
とりあえず、ここは姫宮の望みを聞いておくことにする。望んでいない結果で物語が終わってしまうのは悲しく、辛いものだろうから。
「姫宮はどうしたいんだ?」
さっきから、机の上に座って足をぷらんぷらんさせている姫宮に訊ねる。
あれだけの過去の話をした後なのに、いつもの姫宮に戻っていた。これも、悲劇があったからこそ、今の心の強い姫宮がいるということなのだろうか。
「私がどうしたいか、ですか。そうですね、別にもう演劇がやりたいというわけでもないですし、心の声が聞こえなくなれば、それでいいかな、と思ってます」
簡単に言ったけれど、それが1番難しいことだと思う。心の声が聞こえるんです、聞こえないようにしてくださいなんてことを病院に言っても無駄だと思うし、生まれつきではなかったにせよ、そこそこの期間姫宮に宿っている超能力のようなものをなかったことにするなんて俺には思いつかない。
「うーん、もしかしたら精神的な問題なのかもな。病は気からっていうし、姫宮にその能力っていう言い方をするのもあれだけど、そういったものが発症したであろう原因も姫宮の精神が崩れたからだと思うんだよ……」
「仮に、そうだったとして、結局どうやったら治るんですか?」
「うーん、ポジティブになるとか?」
「それって自分に言ってます?」
そうだった。この子は十分心の強い子だったんだった。俺とは違うんだった。姫宮は呆れたような表情を浮かべている。何か案は出さなければ、こういう時、頼りになる人物と言えば。
そこまで、考えたところで、姫宮がおそらく俺の心の声を聞いたのだろう。
「分かりました。センパイにとって頼れる頼れるクラスメイトであるところの秋瀬センパイにも助けを借りましょう」
こうやって聞くと、秋瀬がなんだかとんでもない人物のように聞こえてくる。だけど、どうしたものか。秋瀬はなんだか朝話した時に怒っていたような気がしたから、今は話し掛けづらい。
「謝るチャンスじゃないですか!」
「いや、悪いことをした覚えはないんだけれど……」
「あの人の心の声はどうしてだか最近になって聞こえなくなったんですよ。だから、とにかく謝ってください」
そんなこともあるのか。改めて、秋瀬がただものではないことが分かってしまう。となると、俺も関係ないことを考え続けたりすれば、心の声を聞かれるのを阻止出来るのではないだろうか。必死に今日の夕食の献立のことを考えてみる。
「センパイ、心の声がうるさいです! 何も考えないでください!」
「思想の自由を奪わないでくれ……」
全力で怒られた。しかし、心の声を聞こえさせないようにする時に、良いアイデアかもしれない。
「それじゃあ、秋瀬を呼ぶしかなさそうだな。まだ学校に残ってるかな……」
俺は携帯を取り出して、秋瀬にまだ学校を出ていないなら、特別棟に来て欲しいというメッセージを送る。幸い秋瀬はまだ残っていたようで、分かったというメッセージが返ってくる。
「後は秋瀬を待つだけだな」
「秋瀬センパイと話すのは、初めてですね。たまに顔を合わせるぐらいで……」
「それで、姫宮の秘密を知ったって言うんだから、やっぱり秋瀬は凄いな……」
普通の人間の思考では、そんなこと考えつかない。考えつくはずもない。だが、秋瀬はそこに辿り着いた。やはり、尋常ではない。
秋瀬を待つこと、5分程度。
秋瀬はなんの迷いもなく、教室に入ってきた。
そして、教室中を見渡すと、にっこりと笑う。
「姫宮ちゃん絡みだね。分かった、話を聞かせてよ。それとも2人でイチャついているところを青山くんは私に見せたかっただけなのかなー?」
「イチャイチャイチャなんてしてません!」
「イチャついてなんかねえよ!」
姫宮と俺が同時に否定する。姫宮に至っては、いきなりの秋瀬の言葉に動揺したのか、イチャが多くなっていた。秋瀬は悪戯な笑みを浮かべると。
「おー。2人とも息ピッタリだねー。びっくりしちゃった!」
パチパチと手を叩く秋瀬。やはり、秋瀬の本音は分からないのか、姫宮も戸惑っている。
この空間を制しているのは間違いなく秋瀬だろう。
「冗談はこの辺にして、聞かせて貰おうかな? 姫宮さんが他人の心の声が聞こえるようになった原因を」
話が早い。秋瀬はどうやら、自分が呼ばれた理由さえも分かっているようだ。姫宮の顔を見ると、お願いしますと姫宮が俺に頼んでくる。
だから、姫宮に聞いたとおりに、俺は姫宮の過去の出来事を秋瀬に話した。




