第31話 虹色の輝き
巫女さんたちのダンスレッスンに勝手に参加しているトレットとタトラさんだが、ふたりとも巫女さん以上に飲み込みが早い。
タトラさんは獣人だけあって動きのキレが素晴らしく、柔軟性もあるのでひとつひとつの動作が流れるようにスムーズだ。トレットに至っては、踊りだけでなく歌もハミングで再現してしまっている。
「お前、踊れたんだな。歌もうまいし」
「踊りも歌もエルフの嗜みのひとつなのじゃ。お主の踊りや歌は少し変わっておるが、ワシにかかれば造作も無いことなのじゃ」
「性格以外ほんとハイスペックだな」
知識は豊富で頭がよく、多芸で一応見た目だけ見れば誰もが目を奪われるであろう美幼女。字面で列挙するととんでもない超人に思えるのに、トレットと言うだけですべての利点を合わせても残念になるのはどうしたものか。
「何を言っておるのじゃ、ワシほど可愛くて親しみやすい存在なぞこの世界には他におらんじゃろ」
のじゃロリ変態エルフは心底怪訝な顔でオレにそう言った。
うん。トレットはやっぱりトレットだ。
トレットとタトラさんは別として、ダンスに勤しむ巫女さんたちを観察していると、いくつか問題があることもわかってきた。
ひとつは服装。巫女服は確かに可愛いが、激しい踊りや歌をこなすには袴も振り袖も丈が長すぎる。
もし日本のダンスを本当に踊るのであればどうにかしたほうが良いだろう。
とは言えアニメの衣装をそのまま再現は難しいだろうし、一番手っ取り早いのは巫女服の改造だろうけど、そんなことして良いんだろうか。
宗教的な何か意味があるのなら、むやみに巫女装束をいじるのはダメだろうから、その辺は宮司のハリさんに聞いたほうが良いかもしれない。
そしてもうひとつが舞台装置、楽器はまあ巫女さんたちの使ってるものでアレンジしてもらうとして、音響と照明はどうしたもんか。
無いなら無いで出来なくはないが、照明があったほうが映えるのは間違いない。
「照明なぁ。しかし、この世界に都合よく照明になるものなんて無いし……」
「きゅぴ?」
オレが悩んでいると、ずっとおとなしくくっついてきていたマオが顔を覗き込んでくる。
「ああ、巫女さんたちのコンサート……儀式をもしするなら光で照らしてあげると綺麗になるんだよ。ほら、お前がタトラさんとフォクさんの対決の時ブレス吐いてくれただろ。あれをもっと大規模にして、この舞台全体を照らすような事が出来ないかなって考えてたんだ」
マオに言った所でどうなるものでもないが、自分の考えを整理するには丁度いい。
と、オレは思っていたのだが、マオは別の受け取り方をしたようだ。
胸を張って自分に任せろと言わんばかりにひと鳴きした。
「きゅぴ!!」
「え、出来るの? マジで?」
まさかそんな事出来るとは思わずマオに聞き返すと、証拠を見せるとばかりにマオがブレスの準備動作をし始める。
いつもより多くの息を吸い込み、長い貯めのあとマオは思いっきりブレスを吐き出した。
「きゅぴぃぃぃぃっっっっ!!!!!」
「おー、すごい綺麗だな」
マオのブレスはその小さな体から生み出されたとは思えないほど広範囲に吹き出し、虹色の光で舞台を照らした。
その幻想的な光景に、ダンスレッスンをしていた巫女さんたちまで思わず動きを止めて見とれている。
だんだん感覚が麻痺している気がするけど、マオの可愛さってもしかして成長してる? 毎回出来ることのレベルが拡大してる気がするんだが。
それとも、元々このくらいのことなら出来たのか? 可愛さで言えばスライムぐらいだと思うのだけれど……いや、スライムもよく考えたら脅威だし、出来てもおかしくはないのかもしれない。
ブレスを吐き終わったマオは誇らしげにオレを見てきた。
言葉が通じなくても褒めろと態度が言っている。
「ああ、すごいすごい。もし本当に必要になったらよろしく頼むな」
「きゅぴー!!」
頭を撫でてやると、マオは目を細め笑った。
マオを褒めていると、メノさんがオレに駆け寄ってきた。まあ予告もなしにドラゴンがブレス吐いたら驚くわな。
「イオリ様、さきほどの光は一体」
「ああ、驚かせてすみません。アイドルの活動に必要な照明をちょっと試しただけなんで気にしないでください」
「あれが照明!? アイドルとはそれほどの可愛さが必要なのですか……」
フォローをしようと思ったのだが、逆にメノさんは考え込んでしまった。
これで気おくれてしまっては、せっかくマオが頑張ったというのに、無駄になってしまう。
「えーっと、可愛い衣装も着るし、みなさんがアイドルになったら照明よりももっと可愛くなれますよ」
「そうですね。あいどると言うものをまだ私たちは甘く見ていたのかもしれません。一層努力をし、必ずやあの輝きに負けない可愛さを身に着けてみせます!!」
メノさんの言葉に、周りの巫女さんも同調し変な気合の入り方をしてしまったが、多分いい方向に向かったんだろう。多分。
オレは懐のマオを撫でつつ、そう自分に言い聞かせた。
そうこうしていると、舞台に巫女さんのひとりがやってきて、ハリさんの準備が整ったと伝えてきた。
ずいぶん待たされたが、やっと本題に入れそうだ。
次回
宮司と二度目の対面を果たす主人公。
彼らを前に宮司は何を語るのか。
彼の口から伝えられたこの国の危機とは――




