第27話 親子の衝突
ハリさんの願いに応え、オレは巫女さんたちへの可愛さ指導なんてよくわからない役を引き受けてしまった。
できればこんな役は適当に終わらせてさっさと目的の米を仕入れて帰りたいのだが、一度引き受けてしまった以上、2、3日様子を見て「もうオレに教えられることはないです、それじゃ!!」なんてのも難しいよなぁ。
「ありがとうございます。ご協力感謝いたします」
オレの心の葛藤をよそに、ハリさんは小さな頭を上げ少しだけ口元をほころばせた。
物静かな幼女のはにかみのようでもあるが、元の姿がわからないとは言え子持ち男性が微笑んでいると思うとどうしても脳内でマイナス補正がかかってしまう。
微妙な笑顔をオレは返し、具体的な話に移ろうとした。
しかし、そこで今まで沈黙していたルリが突然頭を上げハリさんに反発する。
「父上っ、何度も言ってますけどボクは大陸の人間に教えてもらう可愛さなんて無いですっ!!」
「ルリ、お前はまだそんな事を」
なんとなくだが、ルリがオレたちに突っかかってきた理由がようやく少しだけ分かった。
要するに、ルリは自分は十分可愛いから他人に教えを請う必要なんて無いと思っていて、ハリさんはそうは思っていないと。
それで出会ったときからルリは何かとオレたちに突っかかってきていたわけか。
正直、内輪のゴタゴタはオレたちが来る前に解決しておいて欲しかった。
拳を握り自分を見つめるルリに、ハリは瞑目してきっぱりと否定する。
「これは国としての決定だ。宮司として私もその決定を正しいと思っている。お前ひとり駄々をこねても変わらない。それに。この方々の可愛さは都まで一緒に同行してきたお前が一番良くわかっているだろう」
「それは……確かにイオリさんたちは可愛いですけど、ボクのほうがもっと可愛いですっ!」
ふたりは見合ったままどちらも一歩も引きそうにない。
オレとしてはまったくどうでもいいので、早く話を進めたい。しかし、このままじゃそれも難しそうなので、問題を先送りにすることを決めた。
「ハリさん、話はわかりました。巫女の人たちへの指導ってすぐにってわけじゃないですよね? オレたち長旅で疲れてるんで、先に休んでもいいでしょうか?」
「イオリ殿、承知いたしました。それでは外に控えるメノに寝所までご案内させますので、詳しい話はまた明日」
無言のお見合いを続ける親子を放置して、オレたちは部屋を出る。
部屋の外にはここまで道案内をしてくれていた巫女のお姉さん、メノさんが立っていて部屋の中の会話を聞いていたのか、そのまま寝室へと案内してくれた。
「あの、イオリ様」
「はい?」
寝室の前まで来た所で、それまで無言だったメノさんがオレに話しかけてくる。
「ルリは気の強いところがありますが、素直ないい子なんです。どうか仲良くしてあげてください」
「はあ、」
なんと返事をしたものか、曖昧な言葉で頭をかいていると、メノさんはそのまま一礼して去っていった。
メノさんが居なくなるのを確認したオレは、部屋に入り用意されていた布団に流れるような動作で倒れ込む。
「疲れたーーーーー!!!!」
ベッドではなく床に敷かれた布団の久しぶりの感触に、疲弊していた精神力がちょっとだけ回復する。
この国は一々生活様式が和風で落ち着く。どうせなら面倒な用事を抜きにして来たかった。
そうすれば心ゆくまでこの世界では不可能と思っていた色々なものが発見できるだろうに。
布団に身を委ね、足をばたつかせるオレを見てトレットが嘆息する。
「今回は自業自得じゃの。無闇矢鱈と自分の力を振る舞わしたからじゃ」
「イオリさんらしいですけどね」
「ぐぅ……」
二人の冷静なツッコミにぐうの音しか出せないっ!!
「それでどうするんじゃ」
「どう、って言ってもなぁ。何をしたら良いのか全くわからんし」
「この国の人達がなぜ可愛さを求めるのかもわからなかったですしね」
タトラさんの言葉に、オレは顔を布団に埋めたままま首を縦に振った。
詳しい話を聞く前にルリとハリさんの親子喧嘩? が始まってしまったので結局国の危機が何なのかも聞けてないんだよな。
ルリは別としても、巫女さんたちに可愛さを教えるってのも具体的に何をすれば良いのか。
ぱっと見では皆見た目はそれなりに可愛かったし、リボンなんかのアクセサリーを作ってもあまり可愛さに変化がなさそうなんだけれど。
そもそも、なぜ行く場所行く場所トラブルに巻き込まれるのか、オレとしてはただ平穏に、目立つことなく日常を過ごしたいだけだと言うのに理不尽すぎるじゃないか。
これまでの出来事を思い返しながら答えの出ない思考を巡らせていると、身体は思った以上に疲れていたのか、そのまま意識は布団に溶けていった。
次回
可愛さを伝授するため、巫女たちと顔わせをする主人公。
主人公は無事役目を終え、米をゲットできるのか。
伊織のまわりを小さな影がつきまとう――




