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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
東方巫女と『可愛い』。
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第4話 勝利のタコパ

「イっ、イオリさ―ん!!!!」


 無数の雷に打たれ、煙をあげるオレたちにタトラさんの悲鳴が届く。

 まずい。ついカッとなってやってしまったが、自分にもかなりのダメージがあった。オレはしびれる身体で回復魔法を重ねがけする。


「うぅ……い、痛いの痛いの……とんでけー……とんでけー……とんでいけー」


 最初はほとんど回復効果を感じられなかったが、徐々に1回の回復量が目に見えて増大してく。体力が無くなると可愛さを維持できないので、魔法の効果も弱まるってことだろうか。

 身振りもできないからそりゃそうかと思うが、ゲームのように回復魔法に頼ってピンチの時に一瞬で完全回復! は難しそうだ。


「痛いの痛いの飛んでいけー!! ……ふうぅ、死ぬかと思ったっ!!!」


 必死だったので何度重ねがけしたのか憶えていないが、最後の魔法を唱え終えるとほぼ元の身体の感覚に戻った。

 オレが額の冷や汗を拭って、空を見上げているとホカホカ湯気の立つタコ触手の隙間からトレットたちのか細い声が聞こえてくる。

 やべ、そう言えばトレットとマオも巻き沿いにしてたんだった。


「あぁ、光が見える。もうだめなのじゃ……」

「きゅぴぃ……」


 オレは慌てて触手の隙間から引っ張り上げると、回復魔法を再び連打する。こんなに頻繁に魔法を使い続けたら魔力的なものが枯渇するのではと思ったが、特にそんな様子もなくオレは魔法をトレットとマオに注ぎ続けた。


「痛いのとんでけー、とんでけー!!!」


 体力の回復した状態で使う回復魔法の効果は凄まじく、オレの回復時間の半分ほどでトレットもマオも元気になる。まだちょっと髪の毛がチリチリになっているが、命に別状はなさそうだ。

 オレは笑顔で二人に手を差し伸べる。


「トレット、マオ、無事か? 大変だったな」

「無事か?ではないのじゃ!!! お主ワシを何だと思っとるのじゃ!!! 今度こそ」

「きゅぴっ、きゅぴぃっ!!!」


 しかし、元気になったひとりと一匹は珍しくタッグを組んで抗議してきた。ちゃんと回復してやったというのに、 何がいけなかったのか。

 ……いや、オレがトレットの側だったら同じように文句を言うだろうけど。


「すまんすまん。セクハラエロダコがあんまりムカついたからついやっちゃった♥」

「可愛く言ってもダメなのじゃ!!! ……ん? なんじゃ、この匂いは」


 なおもプリプリと怒るトレットだったが、辺りに漂う香ばしい磯の香りに動きが止まった。オレは魔法によって完全に倒れたタコを見て答える。


「ああ、タコだからな。そのせいだろ。旨そうだよな」

「まさかっ! いくら匂いが良いからと言って、お主……その魔物を食うつもりなのか?」


 トレットがオレを見てちょっと引いた。あれ、タコを食べるってさっきまでの怒りが消えるほどの事だろうか?

 あっちの世界でも日本では普通に食べていたが、海外ではデビルフィッシュなんて呼ばれてゲテモノ扱いされていたりするから、もしかしたら内陸部の人間からしたらこっちの世界でもゲテモノなのかもしれない。


「そりゃあ、せっかくタコが取れたんだから食うだろ。あれ、魔物って食っちゃダメなのか?」


 よく考えたら、魔物はあまり食べた事がないな。もしかして種族的に毒があるとかなんだろうか。


「いや、そんな事は無いのじゃが……本当にそんな魔物がうまいのか? ワシを担いでおるわけではないじゃろうな?」

「なんでそんな事する必要あるんだよ。ほら、その証拠にマオも食べてるだろ」


 トレットと異なり、マオはちょっと怒っただけで早々に興味を大ダコに移し、触手にかじりついて勝利の宴を始めていた。


「ううぅむ、しかしこの見た目は」

「いいから食べてみろって、ほら」


 訝しむトレットの口にタコのかけらをねじ込んだ。一瞬、抗議の目線をよこすが、タコを噛むごとに落ち着きを取り戻していく。


「むぐっ!? ……もちゃもちゃ……確かに不思議な触感じゃが……もちゃ……まずくはないの……」

「トレットちゃん大丈夫? 身体におかしいところはない?」

「タトラさんも食べてみてください。ほら」


 トレットの反応を見て寄ってきたタトラさんにもタコのかけらを放り込んでから、そう言えば猫にタコを食べさせたら腰を抜かす、とか言われているのを思い出した。いや、あれはイカだっけ? ……まあ、タトラさんは猫じゃなくて虎だし、獣人なので多分大丈夫だろう。


「えっ、もぐもぐ……ホントだ。すこし硬いけど、もぐ……噛んでると旨みが中から出てくる……」


 しばし無言でタコを堪能するふたり。まだ食感に慣れないようで延々とかけらをかみ続けている。

 オレは二人を見ながらそういえば街の人への連絡が必要だと思い出した。


「それじゃ、オレ街の人達呼んできますね。エロダコもどうにかしないといけないし」

「待ってください!!」

「?」


 踵を返し街へ戻ろうとしたオレを、タトラさんが慌てて止めた。何かと思っていると、チラチラオレの身体を見ながらもじもじと尻尾をいじり始めた。


「身体を洗ってください!! そのままはその……」

「うぇっ!?」


 タトラさんに言われて、改めて自分たちの状態を観察したオレは変な声を上げてしまった。

 エロダコの粘液で体中ぬらぬらテカテカな上、ビキニアーマーは戦闘のせいでズレて今にもぽろりといきそうだ。

 このまま街に戻ったら変態扱いは免れないだろう。

 オレは慌ててビキニアーマーの位置を正し、洗浄用の水を作り出して自分とトレットの身体を念入りに洗った。

 くそっ、あのエロダコめ、倒されてなおこんなトラップを残していくとは……今度同種に出会ったら殲滅してやる。


◆◆◆


「おーい、おばちゃんーおーい!!」

「おや、あんたたちは昨日の。どうしたんだい? 昨日も言ったけどどんなにねだられても魚は売ってやれないよ?」


 市場に戻ったオレは、魚屋のおばちゃんに声をかけた。向こうもオレの顔を憶えていたらしく、申し訳無さそうに昨日と同じセリフを言う。

 しかし、今日の用事は魚ではない。


「そうじゃなくて、海の魔物を退治したから皆に伝えてほしくて」

「何言ってんだい! そんな事出来るわけ無いだろ。街の警備隊の獣人が束になって勝てなかった魔物をあんたたちだけでどうこう出来るわけ無いだろ!!」

「まあまあ、これを見て」

「なんだいこれは……随分太いね。こいつはタコ? それにしてはこの太さ……まさか!?」


 オレの差し出したタコの足の一部を見て、次第におばちゃんの顔色が変わっていく。


「あっちの砂浜にあるから、嘘だと思うなら一緒に来てよ。オレたちだけじゃ持ち運べないし、そのままにしたら腐って大変だから」

「ちょ、ちょっと待ってな!!!」


 おばちゃんは市場の人たちに声をかけ、ぞろぞろと漁場へ移動する。そして、退治された大ダコを見ると、皆歓声を上げてそのまま宴に突入した。

 市場の人間が多かったためか、自然と大ダコを囲んで人々が思い思いにタコ料理を作り、騒ぎを聞きつけてやってきた人たちに振る舞う。

 焼きダコ、煮ダコ、タコサラダ……たこ焼きが無いのが残念だが、それはまた明日以降オレが作ればいいだろう。

 いつの間にか酒まで入って上機嫌となった街の人たちはそこかしこで飲めや歌えの大騒ぎでそれは夜が更けても一向に終わる様子はなかった。


「まさか本当に海の魔物を退治してるなんて、あんたたちすごいんだねぇ!!!」

「人間の嬢ちゃんがあんな巨大な魔物を退治したって? 嘘だろ」

「嘘なもんかい! あたしゃしっかりこの子が退治した魔物の触手を持って来たのを見たんだから!!!」

「まあいいや、魔物は間違いなく倒されたんだからな、嬢ちゃんたちも飲め飲めっ!!!」


 オレたちはと言うと、町の住人、とくに魔物の被害を受けていた市場の人たちにもみくちゃにされていた。

 そんな中、ふと、おばちゃんが小声になってオレに聞いてきた。


「でも、良かったのかい? 成り行きで皆食べちまってるけど、あの魔物を退治したのはあんただろ、」

「ああ、どうせオレたちだけじゃ食べきれないんで、気にしないでください。なんでしたら、漁が再開されたらちょっとだけ分けてくれればそれで良いんで」

「……あははははっっ!!! 欲のない子だねぇ!! 任せときなっ!! あたしがとびきりのやつを取っといてやるからさっ!!!」


 オレの背中をバンバン叩き、おばちゃんは豪快に笑う。どこの世界でも可愛さを超越しておばちゃんが強いのは世界の真理だろう。


次回


大ダコを退治し、ようやく海辺の街に平和が戻る。

そして主人公は待ちに待った、念願の魚を手に入れるのであった。


港街に香ばしいタコの匂いが立ち上る――

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