第3話 怒りの豪雷
「何しておるのじゃー! はやく助けぬかー!! ウネウネがっ! ウネウネが絡みついて来るのじゃぁ!! ああぁっ!?」
触手に絡まれたトレットは宙吊りにされて無駄にセクシーなポーズとなっているが、元の姿を知っているだけに、その姿がダブって見えてあまり直視したくない光景を醸し出している。
「イオリさん! 大変です早くトレットちゃんを助けないとっ!!」
「うーん、そうなんですけど……よし、トレット! ちょっとしびれるかもだけど、我慢しろよ!!」
タトラさんに急かされて、渋々オレはトレットを視界に入れないよう、なるべく視線を広く持ちながら魔法のポーズを取る。
あまり可愛くしすぎると大変な事になるから適度に可愛さを調整して……。
「このっ触手めどこを触って……イオリ、お主今何といったのじゃ!?」
「キューティーサンダー!!」
雲ひとつ無い青空が一瞬光ったと思った瞬間、落雷は狙い通り触手に落ち、轟音でトレットの悲鳴がかき消えた。
落雷の後には赤みを増した触手と、感電して伸びているトレットが確認できる。
「よしっ!」
「……このっ、「よしっ!」ではないわっ!!! ワシでなかったら絶対大変なことになっとたぞっ!!!」
狙い通り触手を退治したオレはぐっとガッツポーズを取った。感電して痺れているはずのトレットが顔だけ上げて文句を言ってくるが、それだけ元気なら問題ないだろう。
「まあまあ、これで魔物は退治できたんだし、お詫びにうまい魚料理を作ってやるって」
「ホントじゃろうな。こんな苦労をしたんじゃから、よほどうまい料理を作らねば許さんのじゃ」
「きゅぴー」
身体を痙攣させながら、口だけはよく回るトレットと掛け合いをしていると、空からおりてきたマオが湯気の立つ触手をかじり始めた。
オレもちょっと旨そうだと思っていたが、躊躇なくいったな。触手は結構美味しいらしく、マオは器用に前足で触手を抑えながらグイグイと噛みちぎっては歯ごたえを楽しんでいる。
魚だけでなく触手も持ち帰って料理してみよう、そんな事を思いながらマオの食事風景を眺めていると、突然タトラさんが叫んだ。
「っ! イオリさん!!」
「なんで……すぁっ!?」
声が聞こえると同時に、オレの足元に触手が砂場から唐突に生まれ絡みついてきた。こいつまだ生きているのか!?
触手はトレットとマオも拘束し、海辺から巨大な何かがせり上がってくる。
「これは……まさか!!」
「キュキュキュー!!!!」
濡れたゴムをこするような鳴き声を上げて海から出てきたのは、赤い大ダコだった。それも、リアルなタコではなく、たこ焼きのマスコットに使われそうなつぶらな瞳のブサ可愛い系のタコ!!
先程倒した触手はこの大ダコの足の一部だったのか。
触手を傷つけられた大ダコは怒り、縛り上げたオレとトレット、それにマオに絡みついてベタベタと粘液を塗りたくってくる。
肉体的ダメージはほとんど無いが、生臭くてとても気持ち悪い。
粘液でテラテラにされながら、オレは残ったタトラさんの姿を探した。タトラさんは今水着しか装備していない。そんな状態でこんなタコの餌食となったらっ!!!!
「タトラさんが危ない!?」
「イオリさん! 大丈夫ですかっ!!!」
しかし、期待……じゃない。予想に反し、タトラさんは無傷で突っ立ていた。
「……タトラさん大丈夫そうですね」
「はい。ごめんなさい。助けに行きたいんですけどあたしじゃ何も力になれなくて」
「あ、いえ。大丈夫じゃないけど、大丈夫です。危ないんでそのままの距離でいてください」
「はい!」
なぜかタコはタトラさんには指一本触れず。オレとトレットを執拗に攻撃? してくる。
――そう言えば、魔物の情報を収集している時、気になることがあった。魔物の討伐隊に編成された街の警備隊で被害にあったのはなぜか男たちばかりだったという。その時はそもそも警備隊に女なんてほとんどいないし、たまたま運が良かったと言う話だったが……
「こいつ……もしかして男しか狙わないのか!?」
「キュキュッ、キュキュキュキュッ!!!」
あざ笑うかのように大ダコが身体を揺らした。タコはうねうねと触手をオレの身体に這わせ、吸盤を使って体中を揉んでくる。このっ、ヘンタイ大ダコがぁぁっっ!!!!
「えと、イオリさん頑張ってくださいー」
安全だと知ったタトラさんは、少し離れた場所から声援を送ってくれる。
不用意に近づかられても困るから正しい判断なんだけど、なんだけどもっ!!!
「イオリ! 助けるのじゃ!! もうぬるぬるはいやなのじゃぁー!!!」
「きゅぴー!!!」
無駄にテカテカとなったトレットとマオが助けの声を出しているが、こっちもそれどころではない。
いくら抜け出そうとしても弾力があり、ヌルヌルととっかかりのない触手は掴むこともできないし、ピコハンを振るおうにも腕も拘束されていて振り舞わすことすらかなわない。
水の中ならいざしらず、まさか陸地で海の魔物にこんなに苦戦するとは思いもしなかった。
オレたちが抵抗できないのを良いことに、調子に乗った大ダコは段々と大胆になり、ビキニアーマの中にまで侵入しようとしてくる。
触手がブラを剥ぎ取ろうとした時、オレの中で何かがキレた。
「このっ、調子に乗るなこのクソダコめぇぇっ!!! キュゥゥゥッティィィィ」
「なっ、待つのじゃ!! 今そんな事したら……」
「サンダァァァッッーーーーー!!!!! 乱れ打ちぃっっ!!!!」
トレットの停止も聞こえず、オレの放った魔法の雷は幾筋もの光の刃を生み出してオレたち共々エロ大ダコを貫いたのだった。
次回
触手、もとい大ダコに自爆覚悟の魔法を放った主人公。
身体を駆け抜ける痺れに眠っていた何かが目覚める……のか?
生還した伊織たちを待つものとは――




