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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人の奴隷と『可愛い』。
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第34話 少年の決意

 激怒しているフォクさんの後ろから、ナールくんとタトラさんが慌ててやってきた。本当に何があったんだ?

 おろおろするナールくんと、総毛立って威嚇してくるフォクさんには話が通じそうにない。比較的落ち着いているタトラさんに何事かと視線を送ってみると、本人も理解出来ていない様子ではあるが、説明してくれた。


「フォクさまがお部屋にやってきたんですけど、ナールくんがフォクさまに旅商人になりたいって言って、そしたらこれで……」

「あー、」


 大体わかった。おそらくナールくんに理由を聞いたフォクさんが、会話の中で旅商人になりたいと思ったきっかけがオレだと知ってこっちに怒りの矛先を向けたんだろう。完全に見当違いな上、八つ当たりも良いところなんだが、今はまともに話せる状態ではない。

 ひとまずフォクさんは置いておいて、ナールくんに言葉の真意を聞かねばなるまい。


「ナール、なんで旅商人になりたいんだ?」

「おいっイオリっ! 今は私の話を……」

「待ってください。頭ごなしにナールに何を言っても反発しますよ。嫌われたいんですか?」

「ぐぅっ!!」


 オレの「嫌われる」の一言で大ダメージを受けたフォクさんがうめき声を上げながら膝から崩れ落ちた。少々可愛そうだが、これ以上話がこじれると面倒なのでそのまましばらくじっとしていてほしい、

 ナールくんに視線を戻すと、言いにくそうにポツポツと話し始めた。


「それは、お金が一杯必要だから……」

「金なら私がいくらでもっ!」

「だめっ! ボクが、ボクがちゃんと稼がないと、稼いだお金じゃないと意味がないのっ!」


 一瞬顔を上げたフォクさんが即座にナールくんに否定され完全に沈黙した。ナールくん、対フォクさんの攻撃力が半間無いな。


「なるほど」


 服の裾を握りしめ、真剣な表情で訴えるナールくんにオレは頷く。

 ナールくんの真意はわからないが、自分のために何かをしたいようだ。それも、他人に頼ること無く自分の力で成し遂げたい事があると。

 そんな目標がナールくんにできた。それはとても素晴らしい事だと思う。どんなに幼かろうが、これだけ真剣に考えた末の何かだ。それに関して応援こそすれ、オレがいちいち何かを言うのは違うだろう。

 ただ、そのための手段は問題だ。


「じゃあ、なんで旅商人になりたいんだ?」

「それは……ボクは獣人じゃないし、獣人の街でまともな商売なんて出来ないから」

「それで旅商人と。ナールは別に旅がしたいわけじゃないんだよな?」

「うん。本当は店舗を持ったほうが安全だし、仕入れにお金がかかっても旅商人より多くの商品が扱えるから、きちんと商売をすれば利益も沢山出ると思う。でも資金もない人間で子供のボクが獣人の街で商売をするのは難しいから、だから……」

「お、おう……」


 ……あれ、めちゃくちゃちゃんと考えてるな。てっきり見本となる身近な相手がタトラさんだったから、とかだと思ったけど、獣人じゃない事のリスクを考えてか。

 わかってたけど、ナールくんはめちゃくちゃ頭が良い。だからこそ、自分の置かれている状況を冷静に判断して居るわけだが……。簡単に旅商人は危ないぞ、とか脅しをかけようと思っていたが、この調子だとあまり効果がないだろうな。

 かと言って、いくら可愛くても屋敷の外の世界を知らないナールくんがそのまま外に出たらどんな目に合うかわかったものじゃない。


「ナール、旅商人はとても危険なんだ。タトラさんだって旅商人の時にはモンスターに襲われて、もう少しで死ぬところだったんぞ。身を守るすべを持たない人間が出来る事じゃない。フォクさん……じゃなかった、さまが心配する気持ちもわかるだろ?」

「うん……」

「……だから、まずは街で屋台でもやってみたらどうだ?」

「……でも、ボクは」

「獣人の全部が全部、人を見下してるわけじゃないさ。フォクさんやお父さんだってナールやお母さんに酷い事をしなかったんだろ?」

「うん」


 姉弟仲が良好だったのは幸運だった。ずっとナールくんの事をフォクさんが気にかけていたことは無駄ではなく、ちゃんとナールくんの心には届いているのだ。

 獣人への劣等感を持っていても、ナールくんの中に嫌悪感はない。ナールくんが自信を失った原因はわからないが、屋敷の外でいろんな獣人と触れあえばきっとその感情も薄れるはずだ。


「旅商人になったって、獣人との付き合いはなくならない。屋台なら開店資金は少なくて済むし、資金をためて店を持つことだって不可能じゃないぞ」

「……イオリ、わかったよ」


 ダメ押しで屋台の利点を語るオレに、不承不承ながらナールくんは頷く。

  もちろん獣人の街で屋台から店持ちになる事も並大抵の努力では無いだろうが、旅商人で危険な目に合うことを考えれば随分マシな選択だろう。

 

「そう言うわけなんで、フォクさま、ナールに屋台をさせてやりたいんですけど」

「……ヤダ!」


 ナールくんとの話を終え、突っ伏していたフォクさんに話を振ると、駄々っ子のような答えが返ってきた。


次回


少年の決意を受けた主人公。

しかし、狐獣人の答えはまさかの拒否。


伊織たちは狐獣人の説得をする事が出来るのか――

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