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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人の奴隷と『可愛い』。
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第28話 魔性のケモミミ

「……はっ!! ナール、ナールに耳がっ!!!」


 ベッドから跳ね起きたフォクさんの第一声はそれだった。

 可愛すぎる弟の姿を見て鼻血を出しながらぶっ倒れたにしては元気そうだな。

 ナールくんはフォクさんがぶっ倒れたのを見て動揺していたので自室でペスさんとトレットに見てもらっている。オレは回復魔法が使えるので、念の為フォクさんを寝かせて「痛いの痛いの飛んでいけー」と頭を擦っていた。


「落ち着いてください。身体に異常はないですか? 一応応急処置はしておきましたけど」

「そんな事どうでもいい! ナールにあんな可愛い耳が付いていたんだぞ!! ……まさか夢?」


 そんな事って。このまま夢で押し通しても良いのだが、何かの拍子に「やっぱり夢じゃない!!」と暴走されても困る。

 正直にケモミミカチューシャのせいだと伝える。


「あれは、オレが作った偽物の耳ですよ。……つけたらなぜか尻尾も生えましたけど。毛はタトラさんのを使ってるから、髪の毛と色が違ったでしょ」

「あれを君が? ……タトラの毛を使った、と言うことは私の毛を使えば私と同じ耳が!?」

「まあそうなりま――ちょっ、なに耳引きちぎろうとしてるんですか!!」


 オレの肯定の言葉を待たずに、フォクさんは自分の耳をひっつかみ思いっきり引っ張る。獣人の姿に一度なっただけに、耳の敏感さは身を持って体験した。そんな事したらオレなら痛みで失神する自信があるぞ。

 慌てて羽交い締めにして止めさせるが、抵抗がすごい。


「止めないでくれ!! 私の毛があればナールにも耳をつけてやれるんだろっ!!」

「早まらないでくださいって! 作るだけなら抜け毛で十分ですから!!! それに、ナールくんがケモミミを欲しいって言ったわけじゃないでしょ?」

「しかしだな……」


 さすがに無理やり耳を引っこ抜こうとはしないが、納得できない様子でフォクさんが耳をいじる。あんな敏感な器官を乱暴に扱って障害でも残ったらどうするつもりなんだろうか。


「ナールくんが望むならそれも解決策のひとつかもしれないけど、そうじゃないでしょ」

「うぅ……だが、私と同じ耳と尻尾が生えた可愛いナールが……」


 結局それか!! 


「とにかくナールくんが自分でケモミミを付けたいって言ったら渡せるようにカチューシャは作ってあげますから。適当な抜け毛だけください」

「わかった……」


 弟の事となると大分見境がなくなるが、本人がそれを望んでいないと言うことはさすがにフォクさんにもわかっているらしく、それ以上無理にナールくんに耳と尻尾を生やそうとはしなかった。

 フォクさんはしぶしぶではあるが首を縦に振り承諾した。自分から言った手前、ケモミミを作らないというのは無理だろうが、ナールくんの貞操が危なそうなので仮に出来ても渡すのがためらわれるな。


◆◆◆


「あー、疲れた」


 なんとかフォクさんをなだめて自室に戻ったオレは、肩をグリグリと回してストレッチする。

 屋敷は無駄に広いので、オレたちには狭いながらもひとり一部屋が割り振られている。なんでこんなに広いのかと疑問に思うが、昔はそれなりに宴会などに利用されていて使用人も多かったらしい。

 オレはナールくんから回収したケモミミカチューシャをいじりながら、どうしたものかと思案する。せっかく作ったに捨てるのももったいないし、かと言って獣人だらけの国で需要があるかと言えば、フォクさんのような特殊な事情の人がそうそう居るわけでもない。

 今の所、個人で遊びに使うくらいしか用途はないか。そんな事を考えていると、扉をノックしてタトラさんが入ってきた。 


「さっきは大変でしたね。お茶でもどうですか……って、イオリさん、何してるんです?」

「ああ、コレをどうしようかと思って」

「それって、前に小物作りたいからって持ってったあたしの毛で?」

「そうそう。つけるだけで耳だけじゃなく尻尾まで生えてきて獣人になっちゃうんですよ。……ほら」

「っ!!!!」


 ケモミミをつけてピコピコ耳を動かしてみると、唐突にタトラさんに抱きつかれた。

 あれ、前にもこんな風に抱きつかれた事なかったっけ?


「へっ、」

「かっ可愛ぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!!!」

「ちょ、タトラさん?」


デジャブを感じさせる気持ちいいけど苦しいふかふかの圧迫感に、動揺していると、タトラさんはおもむろにオレの頭に手を乗せ、タトラさんと同じ毛並みのケモミミを撫でる。

 ちょっとあなた、親兄弟にも触らせないっていう耳をまさぐってきてるんですが!?


「ステイっ! タトラさんステイ!!!」

「あぁ、この手触り素敵……」


 尋常じゃない興奮度合いのタトラさんにオレの言葉は全く届いていないようで、思う様人の耳をモフっている。助けを呼ぼうにもトレットはナールくんの部屋だし、フォクさんはもう帰ってしまった。

 タトラさんは耳をまさぐっていた手を下にずらし、ブンブン振り回している黄色と黒のストライプに手をのばす。尻尾はっ、今尻尾はまずい!!


「んなぁぁぁっっ!!!!」

「ふわぁ……すべすべぇ……」


 敏感な付け根を遠慮なく握られ、情けない鳴き声が勝手に漏れ出てしまう。

 肉球で押される度、力が抜けてタトラさんにしなだれかかってされるがまま尻尾をもてあそばれる。

 い、いかん。このままでは人しての尊厳とかそんな大切なものまで失ってしまう。


「なぁ、なぁんんっ……ていっ!!!」


 渾身の力を振り絞って、オレは片手だけ拘束から抜け出し、頭のカチューシャを投げ捨てた。

 一瞬にしてタトラさんに良いようにモフられていた尻尾は消失し、オレは少女の姿に戻る。 


「あれ、あたし……きゃぁぁっっっ!!!!!」


 正気に戻ったタトラさんは、自分のしでかした事にようやく気づいたのか顔を真っ赤にして逃げ出してしまった。

 だめだ。これは封印しよう。誰にでも効果があるわけではないと思うけど、獣人を強制的に興奮させてしまう禁断の道具だ。

次回


獣人の姿となるアイテムは獣人の心を惑わす魔性の道具だった。

主人公にケモミミは使いこなせるのか。


少年が伊織に語る物語とは――

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