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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
はじめての『可愛い』。
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第3話 異世界、確定

前回のあらすじ

美少女を男と間違えてビンタされました。

「朝食の残りだが、まあ食え」

「はい」

「昨日は良く眠れたようだな」

「ええ」


 ゼフィーさんの質問に上の空で相槌を打ちながら、テーブルに出されたパンとスープを口に運ぶ。

 パンもスープも素材の味がよく分かるというか、それ以外の味がないというか、野暮ったいものだったが、昨日から何も口にしていなかったオレにとっては、十分美味しいものだった、と思う。

 確証がないのは、それ以上の大問題のせいで味を気にする余裕すら無かったからだ。昨日、といって良いのか未だに悩むところだけれど……とにかくキモカワゴブリンに襲われ、女のゼフィーさんに助けられた一連の出来事が、もしかしたら夢ではないかもしれない。

 思い返せば、最初に気がついた時の草原の手触りや匂い、今食べてるパンの味まで何から何まで夢とは思えない存在感がある。

 あまり気は進まないが、確認しないわけにもいかないよなぁ。ボソッとしたパンの最後の一切れを飲み込んだオレは、居住まいを正すと、意を決してゼフィーさんにお願いする。


「あの、ゼフィーさん。ちょっとほっぺた、つねってもらっていいですか?」

「ほれ」

「いだだだだだだっ!! 痛い!! 離してっ!!!」

「お前、何がしたいんだ……?」


 躊躇なくつねられ、涙目になりながら怪訝そうなゼフィーさんをジト目で睨んだ。確かにつねってくれとは頼んだけど多いっきりつねるか、普通。

 昨日、サリィさんにビンタされた時に気づいていればよかったんだが、たぶん、おそらく、認めたくないけれど、これは現実なんだ。

 一度そう納得してしまえば、受け入れるしか無い。可能性は低いと思いながら、頭の中でゼフィーさんへの質問事項を必死で考える。


「それで、何か思い出したか?」

「あの、日本とかアメリカとか中国とかロシアとかインドって聞いたことあります?」

「なんだそれ、何かの呪文か?」


 答えは予想通り。俺だってゴブリンが居たり、急に男が女になるふざけた事象が起きたなんて聞いたことがない。それこそアニメや漫画の世界だ。


「ですよねー……もちろん地球とか知らないですよね」

「チキュウ?」

「ええ、地球の日本って言う島国にオレ居たはずなんです」

「聞いたこと無いな。島ってあれだろ、湖に浮かんでる。随分と小さなところに住んでたんだな。あんなとこほとんど人なんて住めないだろ」

「いや、もっと大きいですよ。周りが海に囲まれてて……」

「あー、海、海な! 聞いたことあるぞ。塩辛くてバカでかい湖!!」


 そうか、海も見たことないのか……。見たところ、移動手段も動物がせいぜいだろうからなぁ。外国どころか、地球じゃないどこかに来てしまったことは確定だ。

 幸い、言葉は通じるようだけど、手元にあるのは気づいたときに着ていた木綿っぽいゴワゴワの生成り服だけ。右も左もわからず、どうしたものかと考えていると、ゼフィーさんも同じくお悩みのようだった。


「うーむ。イオリ、お前は海の先から来たということだな」

「まあ、そうみたいですね」


 性格には海どころか世界が違うんだけど、バカ正直にそんな説明したら頭がアレな奴に思われてしまう。オレだったらそんな危ないやつ即座に街から放り出すな。


「帰る宛は」

「それどころか、ここだとまず生きていけません……」

「だよなぁ。うーん……」


 二人で顔を突き合わせ思案するものの、うんうんと唸るばかりでいい案は思いつかない。しばらく首を捻っていたゼフィーさんが大きくため息を付くと、ポンと膝を叩いてオレを見据えた。


「イオリ、落ち着くまで家においてやる、それでどうするのか身の振り方はお前が決めろ」

「良いんですか!?」

「街の治安のためにも、このまま放り出すわけにもいかんだろう」

「あ、ありがとうございます!! ありがとうございますっ!!!」


 このまま放り出されるとばかり思っていたオレは何度も頭を下げゼフィーさんにお礼を言う。治安のためなんて言っているけど、身元不明の人間の保護なんてどう見ても管轄外。それなのに、厄介者を引き受けてくれるなんて優しい人だ。


「無論、ただというわけにはいかんぞ。家にいる間、雑用はしてもらうし、もし街に住むなら相応の礼金はいただく。あと娘に手を出したら足の先から切り刻んでゴブリンのエサにしてやる」

「もちろんですっ!! というか、オレじゃサリィさんになにかしようとしても返り討ちにあって生きてませんよ」

「それもそうだな。はっはっはっ!!!」 


 サリィさんの怖さは昨日、身にしみてわかっている。無造作に腕の振り抜きだけでビンタされたのにまだ首が痛いんだから。

 ゼフィーさんはひとまず生活するにも生活品が必要だろうと、お金まで貸してくれるという。何から何までお世話になって申し訳ないが、他に頼れる人もいないのでありがたく甘えさせてもらおう。

 ゼフィーさんはこのまま今日は街を案内してくれると言うが、その前にやっておかないといけないことがある。ゼフィーさんにサリィさんの居場所を聞いた。今は自室にいるそうだ。

 部屋の扉をノックすると、半眼ジト目のサリィさんが顔を出す。当たり前だが、むちゃくちゃ機嫌が悪くていらっしゃる。


「……何?」

「サリィさん、昨日はすみませんでした!!!!」


 開口一番、謝罪とともに土下座をかます。

 理由はどうあれ、初対面の女の子に失礼な態度を取ってしまった。しかも、一時的とはいえ、ご厄介になる、命の恩人のお宅の娘さんにだ。ここは精神衛生上、禍根を残さないためにも、誠心誠意の謝罪一択!! これでダメなら一度だけ大ぽかをやった時、取引先で披露した三回転ジャンピングを……


「もう良いよ。記憶喪失で混乱してたんでしょ。父上がそう言ってた」

「ゼフィーさんがそんなことを……」

「あと、サリィで良いよ。同い年ぐらいでしょ?」

「ああ、うん。ありがとうサリィ!」

「よろしい!」


 呆れ顔でサリィさ……サリィは笑っていた。どうやら許してもらえたらしい。本当は一回りぐらい違うのだけれど、身体も若返ってるみたいだし肉体年齢はそう違わないのだろう。たぶん。

 理屈は全くよくわからないけど、見た目で性別がわからない場所なんだから、これからも気をつけなければならない。

 サリィへの謝罪を済ませて戻ると、鎧を着込んだ女姿のゼフィーさんが待っていた。


次回、はじめての異世界街中散策。

相次ぐ異世界ギャップに悩む主人公。

否応なく求められる可愛さ。


伊織が導き出した答えは――

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