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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人の奴隷と『可愛い』。
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第24話 弟は天使!

「話はわかったんで、ともかく一度弟くんと話してみたいんですが、どうすればいいでしょう。ここから王都までだとやっぱり結構遠いですか?」


 フォクさんは今はアズマの街にいるが、銀の尾先商会の本部は王都にあるという。当然、フォクさんも普段は王都で商売をしているのだから、弟のナールくんも王都にいるんだろう。

 王都がどこにあるのか知らないが、前にタトラさんにざっくり聞いた地理ではアズマの街は王国でも端に位置するらしいので移動だけでもかなりの日数がかかるかもしれない。

 しかし、フォクさんの答えは意外なものだった。


「それなら心配ない。ナールはアズマの街で暮らしているんだ。王都で一緒に暮らそうと言っているんだが、自分が王都に居るのは私のためにならないからと、頑なにアズマの街を離れようとしないんだ」


 弟の話になるとフォクさんは感情を素直に表に出すようで、しょんぼりと耳を垂れ下げ落ち込む。

フォクさんの話ではまだ10歳そこそこのはずなのに、なんとも大人びた考え方だな。軽く引き受けてしまったが、可愛くしてハイ解決! ってわけには行かないかもしれない。


「なるほど、じゃあちょっとお願いがあるんですが、どこか調理場を貸してもらえませんか? あとできればなんですが、材料で用意してもらいたい物があって……」

「ああ、その程度なら倉庫にあるからすぐに用意できる。調理場もここのもので良ければいつでも使えるが」


 結構無茶を言ったつもりなんだが、フォクさんは事も無げに快諾してくれた。さすが大商会。資金力も商品の品ぞろえも半端ない。

 トレリスに居た時の感覚で言えば贅沢すぎる気もするが、フォクさんが用意できると言っているのだから遠慮なく使わせてもらおう。


「そうですか。じゃあ早速お願いします」

「それは構わないが、一体何をするんだい?」

「それは見てからのお楽しみです。弟くんと仲良くなるおまじない、ですかね?」


 訝しげなフォクさんに、オレはいたずらっぽく微笑みを返した。


◆◆◆


 準備を整えたオレたちはフォクさんに連れられ、アズマの街の一等地にある別邸へやってきた。

 周囲の建物に比べ――それでもトレリスのゼフィさんの家と比べたら倍はでかいが――大きさはそれほどではないものの、大商会の会頭の別邸だけあって、建物全てに高級感が漂っていて、調度品ひとつとっても高価で可愛らしいものが揃っている。

 雑貨を取り扱う旅商人のタトラさんにしてみたら、お宝の山に囲まれているようなものなのだろう。キョロキョロとあたりを見回して、しきりに調度品に近寄っては観察している。

 全くそういった目を持たないオレとトレットはぼっーっと前を行くフォクさんのあとを付いていき、屋敷の角に当たる扉の前で立ち止まった


「ナール、私だ。入るぞ」

「はい、姉さま。お待ちしてました」


 ノックとともに声をかけるフォクさんに、扉の中から鈴の鳴るような愛らしい声返ってきた。

 フォクさんが扉を開き、声の主が姿を表す。

 ――天使が居た。ふわふわのすこし癖のあるフォクさんと同じ色の銀髪で、瞳は黒目。線が細く華奢で真っ白な手足。中性的な顔立ちは男とか女とかそんな性別を超越した神秘的性を感じてしまう。どこかのエセのじゃロリエルフ美少女とは異なり、正真正銘、まじりっけなしの本物の超の付く美少年。

 その手のお姉様方が見れば黄色い声をあげて愛でる姿が容易に想像出来てしまう。

 正直、フォクさんからいくら可愛いと力説されても、ただブラコンなだけで、実際にはそれほど可愛くないんじゃないかと思っていたのだが、これは確かに掛け値なしの誰がなんと言おうと美少年だ。

 あまりに整った顔立ちで、可愛いと言うよりは彫刻細工のような浮世離れした魅力を感じてしまう。


「あの、……オレたちがどうこうする必要ないんじゃ」

「だから、何度も言っているじゃないか」


 予想の斜め上を行く弟くんの容姿に、オレは思わず情けない顔でフォクさんを見た。

 フォクさんの悩みがようやく少しだけわかった気がする。すいません。ちょっと舐めてました。


「姉さま、今日はどうしたんですか?」


 弟くん、いやナールくんは小首をかしげて尋ねる。それだけの動作なのに背後に花でも咲き誇りそうで怖い。

 

「ああ、それなんだがな。この屋敷の新しい使用人を雇ったので紹介をと思ってな。皆、挨拶を」

「使用人見習いのタトラと申します!!」

「ナール様、奴隷のイオリと申します」

「同じく奴隷のトレットじゃ」

「きゅぴー」

「……こいつはマオと言います」


 いきなりナールくんに自信をつけさせに来ました、では相手も警戒するだろうと言う話になり、オレたちは新しい屋敷の使用人という事になっている。


「え、でもこの屋敷にそんなに人手はいらないですよ?」

「そう言うな。ペスももう年だ。いつまでもひとりでは大変だろう。それにイオリは人間だ。お前の話し相手にもなってくれるだろうさ」


 別邸で暮らしているのは基本的にナールくんと話に出てきたペスという名前の犬獣人のおばちゃんのふたりだけだという。

 基本的な家事以外仕事らしい仕事も無く、フォクさんが街で泊まる時など仕事が増え、手が回らない時には商会の支部から増援が来るので、通常はペスさんひとりでも十分回っているらしいが、口実にはもってこいだ。


「そうですか。そういうことなら、皆さんこれからよろしくおねがいします。ボクはナールと言います」

「ナール様、これ、よかったらどうぞ。オレの作ったお菓子です。お口に合えば良いんですが……」


 オレは手に下げていたカゴから包を取り出す。人間、なんだかんだ言って第一印象が重要だ。ナールくんからどんな話を聞くにしても、まずは信用してもらわないといけない。食べ物で釣るのは安直かもしれないが、それだけにどんな相手にも一定効果が見込めるというものだ。

 一応子供の好きそうなお菓子を作ってみたが、気に入ってもらえるだろうか。

次回


美少年と対面した主人公。

そのあまりの愛らしさに、彼は性別を超えた胸の高鳴りを感じた。


伊織の性癖は持つのだろうか――

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