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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人の奴隷と『可愛い』。
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第19話 『可愛い』対決

「……タトラさん、そろそろ時間です。行きますよ」

「は、はいっ!!」

「今のあなたなら、どんな可愛い相手が来ようと絶対に負けません。オレが保証します」

「イオリさん……あたし、必ず勝ってみせます!」


 オレの言葉にタトラさんは若干緊張気味に返事をした。オレはタトラさんの肩に手を……と言いたいが、背が届かないので腰に手を当て気合を注入する。

 この1週間、やれることは全てやった。考えつく限りの毛並の手入れ、悩みに悩んだ末完成した衣装、タトラさんを叱咤激励しながら伝授した必殺技。

 辛く厳しい特訓によって、タトラさんはどこに出しても恥ずかしくない、完璧に可愛い獣人美少女となっていた。

 その全貌は残念ながらマントに覆われており、今は顔しか見ることは出来ないが、マントの下にはオレとタトラさんの協力によって磨き上げられた可愛さの結晶が詰まっている。

 ほとんど手伝っていないはずのトレットが「見事なのじゃ」などと腕組みしながらさも自分が育てたかのように頷いているが、うざいので放っておこう。


「マオ、エフェクトは任せたぞ」

「きゅぴー!」


 マオは力強くひと鳴きして応えてくれる。

 マオも特訓の間ただ遊んでいたわけではない。タトラさんのパフォーマンスを最大限引き立てるため、虹色のキラキラブレスだけでなく、スポットライト的なビームブレスや、スモークブレスまで憶え、一緒に必殺技の練習を重ねていた。サポート役として重要な戦力となってくれるだろう。

 オレたちはそれぞれの顔を見合い頷きあうと、控室代わりに用意された天幕を出る。天幕の中より明るい日差しに一瞬目がくらみ、徐々に目がなれてくると辺りの風景がようやくはっきりと見えてきた。

 周囲では至るところに屋台のぼりが立ち、威勢のいい掛け声に屋台に並ぶお客の喧騒が合わさって騒々しいが活気のある空間ができあがっていた。さながらお祭りの様相だが、主役はタトラさんとキツネのお姉さんだ。

 クレープ屋台でのヘッドハンティング事件からちょうど1週間。ついに今日、対決の日を迎えていた。


「準備はもういいのかい?」


 周りの屋台から1段高い舞台に仁王立ちで待ち構えているキツネのお姉……えーっとフォクって言ったっけ。フォクがオレたちを見て声をかけてきた。


「ああ、お前を倒す準備はバッチリだっ!!!」


 オレは舞台のフォクを見据え、ビッと指差す。隣でタトラさんが「あの、そういうのは恥ずかしいのでちょっと……」と袖を引っ張ってくるが、控室を出た以上、戦いはもう始まっているのだ。気持ちで負けたら勝てる勝負も勝てなくなってしまう。

 ちなみに、フォクもタトラさんと同じく顔以外の姿を隠したマント姿。側には相変わらず護衛役の獣人のお姉さんが二人。対決の運営を買って出たアズマの街の露天商たちの提案で、それぞれ順番にマントを抜いでアピールをし、勝敗を決めようということになっている。

 勝敗はタトラさんとフォク、それぞれの判断に委ねられているが、明らかに負けているのに負けを認めなければ周りから総スカンを喰らい、商人としての面子丸つぶれという敗北以上に恐ろしいペナルティがあるため、公平な勝負ができるだろうという思惑だ。

 露天商の人たちも結構色々考えていてくれて助かる。たしかに、負けを認めなかったら勝負も何もあったもんじゃないからな。

 オレたちは司会進行役である犬耳のおっちゃんに促され舞台に上がり、フォクと対峙する。タトラさんもフォクもセコンドをつけてマント姿で仁王立ちでいると、商人というよりプロレスラーみたいだな。


「ふぅん。確かに毛並みは随分整えてきたようだな」


 タトラさんを一瞥して、フォクが片眉を釣り上げた。

 ふふ、この一週間磨き上げた毛並みはどこに出しても恥ずかしくない一級品の艶ともふ味を備えている。荷馬車の旅で汚れて満足に水浴びも出来なかった姿とは雲泥の差だろう。


「そっちこそ、随分用意をしてきたみたいだな。貧相な駆け出し商人相手に必死すぎないか?」


 マントに覆われて顔だけしか見ることが出来ないが、それでもフォクが対決に合わせて可愛さを磨いてきたことはひと目で分かった。透き通るような銀の髪を複雑に編み込み、キツネのお面を縁日で遊んでいるかのように斜めにかぶっている。

 これは衣装にも随分と趣向を凝らしていると思ったほうがよさそうだ。


「それだけ君たちを買っているということさ。欲しい物を手に入れるためなら全力を尽くす。別におかしいことじゃないだろ?」


 オレの挑発を軽く受け流し。フォクは不敵に笑う。

 っち、侮ってくれていたら楽でいいなと思っていたが、それほど甘い相手じゃないか。

 やはり正々堂々、正面突破でねじ伏せるしか方法は無いようだ。

 主役のひとりであるタトラさんを脇において静かに火花を散らすオレとフォク。司会のおっちゃんはオレたちを交互に見て、片手を上げると高らかに試合開始の宣言をした。

 

「双方準備は良いようだな。――それでは行商人タトラの可愛い対決っ!!! 開始するぞぉぉぉっっっっっ!!!!!!」

「きゅぴー!!」


 司会のおっちゃんの掛け声とともに、マオが天に向かって巨大な光る玉のブレスを吐く。

 光る玉は空まで上がると花火のように炸裂し、キラキラと光の粒子が会場全体に降り注いだ。


「「「「おおおおぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!!!!」」」」


 人々の熱い熱気のこもった歓声が会場を埋め尽くした。

 え、お前そんな技まで憶えてたの? オレそのブレス見たこと無いんだが。

次回


ついに始まった可愛い対決。

主人公たちの前に、狐獣人の真の力が解き放たれる。


伊織たちの努力は果たして狐獣人に通用するのか――

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