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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
はじめての『可愛い』。
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第2話 いつから夢だと思っていた?

2話目です。

「さあ着いたぞ、あそこがトレリスの街だ」

「わー……」


 草原をうんざりするほど歩き続けたオレたちは、小高い丘の上へとたどり着き、そこでゼフィーさんが足を止めた。彼は引いていたオレの手を離すと、ピッと指差す。

 その先には、木の板でできた柵に囲まれた街……街? 見たところ木造の家が立ち並び、地面は土がむき出し。中心地にはいくらか石造りの家もあるけれど、正直しょぼい。

 オレの感覚では田舎の村のような気がするが、家はたしかに多いし、好意的に考えればギリギリ街と言えないこともないだろう。うん。


「おい、今「うわっ、こんな貧乏臭いのに街!?」って思っただろう」

「そんなこと思ってません!!」


 街を観察する度テンションを下げつづけたオレを見て、ゼフィーさんの片眉がぴくんと跳ね上がる。街の外観は彼の地雷であったらしく、頼んでもいないのに街の魅力を力説した。


「たしかにトレリスは他の街に比べれば規模も小さいし家の質も幾分下がるだろう。だがっ! この街には都会にない魅力があるんだ!! 作物はうまいし、水もきれいで空気も澄んでいる!! ちょっと可愛いモンスターが他の地域より多く生息して危険はあるが、それだけだっ!! 都会の街にトレリスが負けているわけではないっ!!!」


 うわー、どうしよう。うまい空気と食べ物と水が魅力って田舎の鉄板売り文句だよな。

 未だに実感がないが、ゼフィーさんに無理やりつけられた兜のせいで少女? の姿になってしまったオレは、ただ歩くだけだったというのにここまでの道のりで結構消耗していた。

 ぶっちゃけ、街の規模とかこの際どうでもいいから早く中に入って兜を脱いで男に戻りたい。


「あの、トレリスの街が素晴らしいのはわかったんで、中に入りません?」

「む、そうか。わかってくれれば良いんだ」

「わーい。タノシミダナー」

「おい待て、勝手に行くんじゃない」


 白々しいセリフを吐きながら、逃げるように街の入口へ駆けていく。

 一応、街の入口には木製ではあるが門があり、二人の可愛らしい女兵士が立っている。オレが声をかけるよりも早く、接近に気づいた兵士が目線をこちらに移し、頭の上で止まった。


「ん……それは隊長の兜。貴様、何者だ!!」

「不審なやつだ。おとなしくしろ」

「あれ?」 


 一人が槍をこちらに向けて威嚇しながら、もう一人が門の中へ引っ込む。……これもしかして、やっちまったのかな。


「あのー、オレは怪しい者ではなくてですね」

「隊長の兜を被っている者が怪しくなくてなんだというんだっ!!」

「……確かに。って違いますっ、これはゼフィーさんが貸してくれたもので」

「嘘を言うなっ! 街の外で隊長がそんな危険な真似をするわけあるか!!!」

「ですからそれには理由があってですね」


 兵士と問答をしてる間に、増援がわんさか門から出てきて一瞬で取り囲まれてしまった。出てくる兵士は皆可愛くて、一瞬女に囲まれる展開ってちょっといいかもと錯覚しそうになったけど、これテレビでよく見た警察の不審人物応対と一緒だっ!

 このままでは牢屋へご案内コースだ。いくら夢とは言え、化け物に襲われて助けてくれたおねーさんがおっさんで失恋して、さらに無理やり女にされて、その上牢屋なんかに入りたくない。


「待て待て、そいつは怪しいやつじゃない。草原で私が保護したんだ」


 ジリジリと間合いを詰める兵士に圧迫されながら、どう切り抜けようかと考えていると、息を切らせて追いついたゼフィーさんが兵士たちを止めてくれる。


「ゼフィー隊長! ご無事でしたか!!」

「それで、この者は?」

「記憶をなくしているらしい」

「河井伊織と言います。草原でゴブリン襲われているところを助けてもらいました」


 兵士たちの包囲が解かれ、張り詰めていた空気が和らいでいく。「なんだ紛らわしい」とか「脅かしやがって」とか囁きが聞こえるけど自業自得なので受け入れよう。うぅ……。


「勝手に動くなと言っただろう。何かあったらどうするつもりだったんだ」

「はい、ごめんなさい」

「隊長、それでこの者の処遇は?」

「ひとまず私が身柄を与ろう。今日はもう遅い、イオリへの聞き取り調査などは明日に回せばいいだろう。イオリもそれで良いな」

「はっ!」

「はい、大丈夫です」

「では家へ行こうか。兜は返してもらうぞ」

「はい」


 ふう、ようやく男に戻れた。一息つくとすこし心に余裕が出たのか、周りにも目が行くようになる。

 街並みは丘から見た時の印象と変わらずしょぼ目だが、よく手入れされていて道端の掃除も行き届いている。ゼフィーさんの家へ向かいながら、雑談がてらふとした疑問を尋ねてみる。


「それにしても、兵士って女の人もいるんですね」


 そう。オレを取り囲んでいた兵士は皆女の人ばかりだった。それも兜をかぶっていない人や、鎧も着ていない人がちらほら居た。

 兵士なんていういかつい仕事に可愛い女性がいるというのは珍しいと感じたのだ。別に悪いことじゃない。男ばっかりの職場より絶対いいと思う。むしろ羨ましい。


「何を言ってる? 兵士は全員男だぞ」

「はい?」


 もう何度目になるかわからない、かわいそうな子を見る目でオレを見つめるゼフィーさん。


「嘘だっ、全員可愛くてキレーな人ばっかりで」

「当たり前だ。兵士なんだぞ。可愛くなければ務まらんだろう」

「でっ、でも兜かぶってない人も居たじゃないですか!!」

「兜以外にも可愛い装備などいくらでもあるだろう。胸当てでも篭手でもズボンでも」

「じゃあ、あの眼鏡かけてた娘はっ!!」

「事務のやつか」

「ちょっときつめの感じだけど革鎧のエロカワなおねーさん!!」

「レンジャーだろ。装備でわかるだろうに」

「それじゃあっ! 兵士って男女でキャッキャウフフできる楽しい職場じゃないんですかっ!!!」

「兵士のような危険できつくて臭くて汚れる仕事につきたい女がいると思うか?」

「そんな……そんなのって……」


 一瞬で砕かれた理想の職場像。なぜ女の人をちょっといいなと思っただけでこんな仕打ちを受けなければいけないのか。

 何もかも信じられなくなったオレは、ゼフィーさんの街自慢を上の空で聞き流しながらただ鳩のように首を振って歩くだけの存在になった。


「ここだ。おーい、戻ったぞー!! ……イオリ、何をしてる?」

「……」


 ゼフィーさんが立ち止まり。つられてオレも立ち止まる。扉が開いて中から可愛い女の子が顔を出した。


「父上おかえりなさい!! そっちの人は?」

「草原でゴブリンに襲われていたので助けた奴だ。記憶喪失だというので一時保護した。今日は家に泊めるから、後で開いてる部屋に準備をしてくれ」

「わかりました!」

「こいつはイオリ。サリィ」

「サリィ=ラサスです」


 サリィさんは眩しい笑顔で手を差し伸べて握手を求めてきた。年は16ぐらいだろうか、父親のゼフィーさんに似た赤毛をきれいに編み込んでいて、民族衣装っぽい赤のスカートと黒いベストがとても似合っている。年相応の背丈で、体型は無駄な肉は無いのに少女らしい丸みがあって、健康的。

 太陽のように明るく、衣装を着替えたらそのままちょっとした元気系アイドルで通用しそうなまごうことなき美少女。

 街中にいれば10人の男が10人とも振り返る美少女! ……でも知ってる。さすがのオレも学習した。こんな可愛いんだから女の子のわけないんだ。


「もう騙されないぞ!! こんなに可愛いんだからどうせ君も男なんだろ!!!」

「失礼ね!!! あたしは女よ!!!」

「へぶっ!!!」


 笑顔で差し伸べられていたサリィさんの手は、そのまま軌道を跳ね上げオレの頬にクリーンヒットして振り抜かれた。ものすごい衝撃とともにふっとばされ壁に打ち付けられるオレ。

 サリィさんはぷりぷりと怒りながらどこかへ行ってしまった。

 オレたちのやり取りを見ていたゼフィーさんが、呆れ顔で倒れたオレのそばにしゃがむ。


「お前、急に何を言ってるんだ……?」

「だって!! ゼフィーさんや兵士の人たちよりずっと可愛いんですよ! あんなに可愛いのに女の子のわけないじゃないですか!!!」

「女が男よりも可愛いのは当たり前だろ!! 男が女に勝てるわけないんだから、言動に気をつけないとお前死ぬぞっ!!!」

「そんな理不尽なぁ……」

「はぁ、良いから今日はもう休め。部屋の支度は無理だが、自業自得だ。ほこりっぽいとか文句は言うなよ」


 立つことすらできないオレはゼフィーさんに抱えられ、空き部屋へ運搬される。そして放り投げるようにベッドへ降ろされ、そのまま扉を閉められた。

 あぁ、なんだか変な夢だったが、これで次起きたときにはちゃんといつもの灰色社畜人生がまっているんだ。……それはそれで嫌……だ……な…………


 ◆◆◆


――眩しい日差しを浴びて、オレは大きく伸びをする。

 意識はまだ半覚醒でぼんやりとしているが、身体はスッキリ爽快。


 「あー、なんだかいつもより良く寝た。夢は変だったけど身体はすこぶる調子がいいな!腰痛も無いし、思いっきり身体を動かした翌日のような」


 時間を確認しようと布団をはねのけ起き上がると、見知らぬ部屋に居た。木造? オレのアパートはボロいけどさすがに木造なんかじゃない。よく見ると布団も愛用のせんべい布団よりもさらにボロっちい穴あき布団。

 何度も首をかしげながら目の前の馴染みのない光景を見て……いや、待てよ。ここって確か夢の中で……


「おお、起きたかイオリ。もう昼になるぞ」


 それに思い至った時、扉が開き、夢の中で出会ったゼフィーさんが入ってきた。


あれ?




…………あれ?


次回、ようやく自分の身に起きた異変に気づく主人公。

気まずい朝食、突き刺さる絶対零度の視線。


伊織は挽回することができるのか――

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