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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人の奴隷と『可愛い』。
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第9話 お金を稼ごう

「ともかく、金がない!!!」


 タトラさんのなんちゃって奴隷となる事が決まった翌朝。開口一番オレはそう言い放った。

 

「なんじゃ、朝っぱらから。ざわざわ言わんでもわかっておる事じゃろ」

「だったらもうちょっと危機感を持てよっ!!!」


 寝ぼけまなこでトレットが文句を言ってくるが、今は悠長にしている暇はない。エルフの里ならいざしらず、獣人の国で一文無しでは何も出来ないではないか。

 いくら可愛くなっても、先立つものがなければ生活が立ち行かない。世知辛いがそれが事実だ。


「というわけで、タトラさん!! 料理屋を開きたいので屋台の準備金貸してください!!! お金はすぐ倍にして返しますし、売上の1割……いや2割ぐらいなら渡しますからっ!!!!」


 オレはトレットと同じく寝起きのタトラさんに土下座で借金のお願いをする。

 なんだかオレ、こっちの世界に来てから土下座ばっかりしてる気がするな。


「そんな、大丈夫ですから。イオリさんの料理なら絶対繁盛するからお金も貸しますし、売上もいりませんよ」

「ありがとうっ!!!」


 タトラさんは半分寝ぼけながらも、パタパタ手を降って快く借金を受け入れてくれた。うぅ、やっぱりいい娘だなぁ。


「きゅぴー」


 オレたちが話していると、マオが目を覚まし大きく伸びをした。

 部屋の配置は、一番奥のベッドにタトラさんが眠り、その枕元にマオ、オレとトレットが雑魚寝。タトラさんはひとりだけベッドで寝るなんてと遠慮していたが、金を払っているのはタトラさんなんだし、こっちこそベッドで寝るわけにはいかないと押し切った。

 そもそも、オレとしては男女で同じ部屋で泊まるのはどうかと思ったが、金もないのにそんな事は言い出せるわけもなく、タトラさん的には気にならないようなので好意に甘えている。まあ、トレットもオレも今は女の格好だしな。男のままなら仲良くなったポニーと一緒に馬小屋のお世話になっていた所だ。

 ちなみに、ご主人さま呼びはタトラさんが恥ずかしがってコミュニケーションが全く取れなくなるので、封印している。


「それじゃあ、屋台は借りるとして、……食材と燃料が必要ですね」

「ああ、水と燃料は大丈夫です。魔法でどうとでもなるんで」

「えぇっ、イオリさん魔法まで使えるんですか!?」


 オレの言葉にタトラさんが驚いた。あれ、知らなかったっけ?


「野宿の時にも魔法で料理してたけど……ああ。ちょうど居なかったか」

「そうだったんですか。てっきりトレットちゃんが用意したものばっかり思ってて」


 タトラさんは尻尾を立たせたまま目を何度も瞬かせている。人間が魔法を使う事って、そんなに驚くことなんだろうか。


「というか、獣人は魔法って使えないんですか?」

「使える人も中にはいますけど、種族的に獣人はあまり魔法は得意じゃないです。身体を動かす事は得意なんですけど……。やっぱり魔法はエルフが一番ですし、人間も獣人よりは得意ってぐらいできちんと魔法を使える人はごく僅かだと思ってたから、驚きです」


 言われてみれば、トレリスの街で魔法を使える人間てあまりいなかったような気もする。でも、今までの感じからすると、トレリスの街が田舎だからって事も考えられるんだよな。


「そうなのか?」


 わからないことはわかる奴に聞くのが一番だ。餅は餅屋。魔法の第一人者が隣りにいるんだからとトレットに聞いてみた。


「うむ。魔法は己の中の可愛さを高め放出する術。エルフの専売特許じゃからな。とはいえ、焚き火程度の火や鍋の水を出す程度の簡単な生活魔法なら、人間でもそれなりの数の使い手はおるのじゃ。ワシと同等以上に魔法を使いこなすこやつは特別じゃがの」

「エルフと同じぐらい魔法が使えるなんて、本当にイオリさんってすごいんですね……」


 タトラさんの目がどんどん尊敬の眼差しになってきて、落ち着かない。

 オレはそんな大層な存在ではないので、キラキラした目線を送るのはやめて欲しい。


「えーっと、それじゃあオレは人前であんまり魔法は使わないほうが良いって事ですね」

「そうですね。魔法が使える人間の奴隷なんて居ることがわかったら大騒ぎになると思います」


 オレは無理やり話題の軌道を変える。屋台でオレが魔法を使うのはNGになってしまった。


「やっぱり、燃料も用意しなくちゃですね」

「いえ、大丈夫です。こいつにやらせるんで」

「なんじゃと!? なぜワシがそんな事をっ!!」

 

 急にお鉢が回ってきてトレットが驚いているが、経費節約のためにも絶対に手伝わせてやる。それに、オレだけ働いてこいつを養うとか絶対お断りだ。


「嫌じゃ! ワシは街を散策するのじゃ、誰が店の手伝いなんぞ……」

「まかないでおやつ3食。それとは別に食事を出してやろう」

「っ!! おやつは可愛いやつじゃろうな!?」

「当たり前だ。そいつを商品にするんだからな」

「ぐぅ……わかったのじゃ」

「きゅぴー!!」

「わかったわかった。マオも手伝うんだな」


 食い意地の張ったエルフの説得は簡単で助かる。マオもなにかやる気を見せているので、マスコットにでも使うとするか。

 そんなわけで、オレたちは急遽、獣人の街で屋台を開くことになった。


次回


目先の金欠を脱出するため、屋台の出店を決意する主人公。

果たして、どのような料理を作るのか。



伊織の料理が獣人を唸らせる――

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