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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人の奴隷と『可愛い』。
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第7話 獣人の奴隷

「……獣人って、男のままの人多いんだな」

「そりゃあ、可愛いからじゃろ」

「うん。たしかに可愛ければわざわざ女の姿になることもないわな」


 獣人の街へ入るため、オレたちは門前に並ぶ人の列に加わった。並び順はオレとトレットそれにマオ、そのすぐ後ろに手続きの順番を譲ってくれたタトラさん。当然というか、その殆どが荷馬車や巨大な荷物を背負った旅商人風の人たちで、全員獣人。

 種族や年齢、性別は様々でイヌ、ネコ、ウサギ、シカ、ウシなどなど、いろんなケモミミが勢揃いだ。ケモ比率もタトラさんのようにケモミミ尻尾で、手や足も毛に覆われたタイプの人もいれば、ケモミミ尻尾以外はほぼ人間と同じ人、果ては2足歩行だけれど顔までほぼ動物な人までいる。

 あまりムキムキマッチョな野性味あふれる獣人が居ないのは、やっぱり可愛くないと生き残れないから自然淘汰された結果だろうか。

 あ、あのほぼ犬の人可愛いな。おっちゃんっぽいけど、モフらせてって言ったら変態扱いされるんだろうな……惜しい。

 オレが列に並ぶ獣人を見ながらエアモフりに勤しんでいると、あっという間に順番が回ってきた。

 そう言えば昔、日本で一回だけ猫カフェに行った時も、昼寝してる猫を眺めるだけで時間が過ぎてたな。懐かしい。

 あの時の猫たちも良かったが、獣人の観察はまた趣が異なって良いものだ。

 そんな事を反芻していると、門の兵士が怒鳴ってくる。


「次! 早くしろっ!!! お前……人間とエルフか。まあいいだろう。通行料を払えばこの街は通行可能だ。領主様に感謝しろよ」


 なかなかいけ好かない感じの兵士だが、こんな所で事を荒立てるほどオレは短気じゃない。

 面倒事を避けるためにこうして獣人の街まで来たんだから、冷静に対処しようじゃないか。


「はいはい。通行……りょ……」


 オレは腰のあたりをまさぐり……手が空を彷徨う。そう言えばオレ、金を持っていなかった。

 最初から無一文だったわけじゃない。トレリスの街を出たときにはそこそこの路銀を用意していたのだが、エルフの里に向かう途中で荷物と一緒に紛失して、エルフの里で用意してもらった旅支度に金が入っていなかっただけだ。

 エルフって普段金使わないもんな。そりゃ用意してくれてるはずもない。


「……おい、トレット、」

「ワシがそんなもの持っとる訳無いじゃろ」


 金を持ってないか聞く前に返答された。わかっていたけどこののじゃロリホント頼りにならねぇ。

 オレたちのやり取りを眺めていた兵士は段々と苛立ち、ついに毛を逆立たせ激昂する。


「貴様ら、まさか通行料も持たずに街に入ろうとしたのか? 人間の分際で獣人をバカにするとはいい度胸だな!!」


 獣人の兵士が手に持った槍を構え、殺気を放つ。あ、これ、もしかしてヤバい状況じゃないか?

 さすがに命までは取らないだろうが、牢屋に打ち込まれるぐらいはありそうだ。

 オレとトレットが本気を出せば負けることはないとしても、騒ぎを起こせば間違いなくお尋ね者になって獣人の国を歩くことはできなくなる。


「待ってください!!!」


 どうやって切り抜けようかと考えていると、タトラさんが兵士とオレたちの間に割って入ってきた。


「なんだ、お前は?」

「あの、この人達のお金は……その……」


 タトラさんは必死にオレたちをかばってくれるが、尻尾は丸まってるし、足は震えているし、ものすごく無理をしているのがわかる。

 これは、諦めて逃げたほうが良いか? 獣人の街に入れないのは残念だが、このままだとタトラさんにまで迷惑がかかってしまう。

 オレは肩に乗っていたマオを呼んで懐にしまうと、トレットに目配せをした。

 トレットは無言で頷き、いつでも行動できるよう身構える。こいつ、こういった時だけ物分りが良いのはなんなんだ。


「ん? お前が通行料を払うというのか? わかっていると思うが、他種族の通行料は獣人の10倍だぞ」


 え、高くね? いや、人間の国での通行税の金額も知らないけど、10倍ってかなりボッてないか? 当然というか、あまり裕福そうでないタトラさんはあわあわとうろたえるばかりなので、二人分の通行料を支払う余裕は無いらしい。

 これはもうしょうがない。

 トレットに肩を軽く叩き、オレたちが逃げ出そうとしたまさにその時、意を決したタトラさんがまくしたてるように兵士に叫んだ。


「そ、それは……この人達はあたしの奴隷なんです!!! まだ日が浅くて手続きをよくわかってなかっただけですっ!!!」

「奴隷? ふん。そうならそうと先に言え。商品なら積荷と一緒に荷台に乗せておけ、紛らわしい」


 兵士はめんどくさそうに舌打ちすると、ぶっきらぼうにタトラさんに獣人ひとりとオレたちを含めた積荷の通行税を請求して、タトラさんが差し出した金を受け取る。

 あれ、えっと……解決してしまった?

 知らぬ間に奴隷となったオレたちは、荷馬車に乗せられて無事、街へ入ることが出来たのである。

次回


獣人の奴隷となった主人公とほか1名。

無一文の彼らに残された道とは。


伊織の商人としての道が開く――?



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