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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人の奴隷と『可愛い』。
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第4話 第一獣人発見

「トレット様、イオリ様、どうかお気をつけて」

 

 旅支度を整えたオレたち2人と1匹を、里のエルフ総出で見送ってくれる。

 森で無くした寝具などもクーラさんが用意してくれたので、準備に抜かり無い。


「トレットちゃん、いっちゃうの?」

「やだー、もっとあそぼうよー」

「なに、しばしの別れじゃ。すぐ帰ってくるからの、その時また一緒に遊ぶのじゃ」

「つぎはまけないからね!! かったらトレットちゃんおよめさんになってっ!!!」

「ふふふっ、良いじゃろ。次まで精進するんじゃぞ」


 すっかり人気者になったトレットは、子供たちに囲まれて別れを惜しんでいる。

 トレットに恋心を抱いてそうな子も居るが、早まるな。そいつは見た目幼女だが、中身は君の親よりずっと年のジジィだぞ。

 小さい時の微笑ましいお約束イベントのはずだが、なぜかエルフの中に遠い目をしたり、苦虫を噛み潰したように顔を歪めたりしている人が居るんだが、身に覚えでもあるのだろうか。

 他人の黒歴史には触れぬが吉と、若気の至りを思い出しているエルフたちを無視してクーラさんにお礼の挨拶をと思ったら、思いっきり沈痛な面持ちで目頭を指で押さえていた。

 クーラさん、お前もかいっ!!!

 エルフの里の人々がトレットに強く出られないのって、自分たちの祖先とか偉いとか以上に、存在が黒歴史生成器になってるからじゃないか?

 他人事ながらエルフの里に不安を抱いていると、ようやく立ち直ったクーラさんが包みを渡してきた。


「イオリ様に教えて頂いたくまさんバーガーです。皆で協力し作りましたので、夜にでもお食べください」

「ありがとうございます。……うん。ちゃんと可愛いですね」


 オレは包みを少しめくって、くまさんバーガーの出来を確認する。

可愛い料理はエルフの里でも革命的だったようで、またたく間に広まってくまさんバーガーは里の主食にまでなっていた。


「おぉっ、くまさんバーガーなのじゃー!!」

「きゅぴー!!!」

「おい、晩飯を今食べてどうするんだよ!! マオも盗み食いしようとするな!!!」


 食べ物の匂いを嗅ぎつけてやってきたトレットが小包に手を伸ばすと、マオも競うようにクチバシを突き出してくる。

 魔の手がくまさんバーガーに届く前に、オレは小包を素早く背中の旅袋に入れた。こんなところで食べられたらまた里での滞在時間が伸びてしまう。

 オレたちのやり取りを生暖かい目で見守っていたクーラさんが、思い出したように一言付け加えた。


「ああ、そうだ。また里に立ち寄りになられる時にはぜひ、ぜひ! かならず!! イオリ様もご一緒に!!! なに、遠慮など無用です。我々はいつでもイオリ様の事を歓迎いたしますからっ!!!!」

「ええ、その時はよろしくお願いします」


 クーラさんの言葉に、エルフの大人たちは何度も頷いた。

 苦笑しながらオレたちは里を出発する。目指すは獣人の住む街。

 里のエルフたちは、とてもいい笑顔で見送ってくれて気分がほっこりする。なんだかんだ言って、里に来てよかったな。

 ……耳をそばだてると「トレット様が滞在したのに食料がこんなに残るなんて!!」とか色々聞こえてきたが、いい感じの別れの雰囲気をぶち壊さないためにも聞かなかった事にしよう。

 


◆◆◆


 森の中の移動は、思ったよりスムーズに進んだ。

 最初の反省を踏まえ、無駄に騒がずきちんと息を潜め、動物を見つけたらなるべく刺激しないよう、迂回しながら小走りで駆け抜ける。

 不意にウサギさんなどに遭遇し危ない場面もあったが、一匹だけならどうにかなる相手だから、命の危険を感じることもない。

 そうして、トレリスの街からエルフの里までとそう変わらない時間で、オレたちは森を抜けることが出来た。

 森の先には人が頻繁に行き来しているのか、舗装はされていないが、地面むき出しの広い道が延々と続いている。


「これが街道か」

「うむ。話にあった獣人の街は――こっちじゃ……」


 トレットが街道の先を指し示そうとしたところで、誰かの悲鳴が聞こえた。


「きゃー!!!!」


 切羽詰まったその声に、オレたちは身構える。


「あっちじゃな! ゆくぞ!!!」

「おいおい、お前が言うのかよ。別にいいけどさ」


 声のした方角へトレットが走り、少し遅れて後に続く。

 オレもゴブリンに襲われたところをゼフィーさんに助けられている。誰かが危ない目にあっているのなら、助けなければ。


「きゅぴ、きゅぴー!!」

「マオ、そっちか。でかした!!!」


 オレの懐から這い出て飛び上がったマオがクルクルと旋回して、場所を示してくれる。そこで何かが起こっているという事だ。

 マオが飛び回る真下にたどり着くと、複数のゴブリンが荷馬車を襲っていた。

 ゴブリンか。いつかのリベンジにもってこいだっ!!

 

「トレット、荷台を頼む。残りはオレが追い払う」

「わかったのじゃ!」

「萌え萌え……ファイヤー!!」


 やや可愛さを調節して、オレは魔法を放つ。ハート型に形作った手からピンクの炎が打ち出され、荷馬車近くの地面で炸裂して花火のような破裂音を出す。

 ゴブリンたちは突然の爆発に驚いて、荷馬車の事など忘れた様子で散り散りに逃げ出した。

 あの様子ならもう襲ってくる事は無いだろう。

 トレットは荷馬車に乗り込み、手綱を引いて暴れる馬を落ち着かせている。

 荷台には悲鳴の主が頭を抱えてプルプル震えていて、声をかけるとゆっくりと辺りを確認するように立ち上がった。

 ……デカイ。男の時のオレと比べても頭3つ分は大きいんじゃないだろうか。

 さらに言うと背だけじゃなくて、お胸も大変におデカイ。背の高さ相まって、スイカが2つ胸にくっついているようだ。

 しかし、それ以上に目を引いたのはその外見。頭は黄色い毛並みに黒の縞模様。胸元には白いフサフサの毛。――そう。それは紛れもなく虎のケモミミ獣人だった。


「危ないところを助けていただき、ありがとうございました。あたし、商人のタトラって言います!」


 頭を下げるとぴこんと耳が立った。おぉ、本当に生のケモミミだ。

 あれって、やっぱり毛並みはもふもふなんだろうか。ツヤツヤで綺麗な毛並みだしな。

 ……想像してたら我慢できなくなった。言うだけならタダなんだし、ちょっとお願いしてみよう。


「怪我が無いようで良かったです。それで……すみません。突然こんな事言うのも失礼なんで、もしよかったらでいいんですけど……」

「なんでしょう?」


 タトラさんは小首をかしげる。身体はデカイのに、仕草は子猫のように可愛い。


「耳、触らせてもらえません?」

「ひゃ、みっ耳ですか!? で、でもあたしたち会ったばかりだし、そんな事言われたの初めてでっ!!!!」


 ……あれ、なんだか反応がおかしいぞ? 確かに、いきなり身体に触りたいとか失礼かなとは思ったが、なぜタトラさんはもじもじ尻尾いじってるんだろう。

 意味がわからず、タトラさんにも聞いたらまずそうなのでトレットに解説してもらおうと横を見たら、何故か距離を置かれている。


「お主、こんな若い初対面の娘に耳を、しかも野外で触らせろとかドン引きじゃぞ……」


 トレットがまるで汚物でも見るかのような視線を向けてくる。オレの不用意な一言は、物理的な距離以上に心理的な溝を作ったらしい。


「待ってっ!!! よくわからないけど誤解だっ!!!! オレは動物の耳とか尻尾が好きだから、ちょっと触らせて欲しいと…………あの、トレット、タトラさんなんでさっきより真っ赤になってんのっ!? お前もなんでさっきより距離ができてるのっ!?」

「話しかけるでない変態。このような色情狂じゃったとは見損なったのじゃっ!!!」

「尻尾……初めてで尻尾触るなんて……はわわわわ……」


 言葉を重ねれば重ねるほどドツボにはまっていく。中身がジジィでも、幼女にクズを見る目で見られると精神的にクるものがあるぞっ!!!

 タトラさんも頭から湯気出してうつむいたまま固まっちゃったけど、そんなにマズかったの!?

 これどうしたら誤解が解けるんだ!? 

次回


憧れの獣人との出会いを果たした主人公。

初対面でとんでもないセクハラをした汚点をはたして彼は挽回できるのか?


獣人と伊織の絆が試される――

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