第65話 虹色に輝く空
さて、勢いよく号令をかけたは良いものの、どうやって破壊すれば良いんだろう。
戦力としては国ひとつどころか、大陸中を敵に回しても勝てそうなんだけれど、魔導砲には魔法を吸収されてしまうため、ただ攻撃するだけでは破壊は不可能だ。
いっそ、3人分の力を合わせて障壁を生み出し、魔導砲の威力をすべて受けきったあとで封印してしまうと言う手は使えないだろうか?
それか、砲口を誰もいない空へ向けてしまうとか……色々と思っていると、マオ……じゃなかった魔王が話しかけてきた。
「イオリ、我が力で魔導砲を空へ打ち上げる。あれは無尽蔵に魔力を溜め込むが、限界以上の魔力を注がれれば勝手に崩壊する! お前たちの全力を叩き込め!!」
をを、まさか魔導法の破壊方法まで知ってるとは、さすが魔王! 伊達に魔族の親玉に祭り上げられてたわけじゃないな。
破壊方法さえわかっていれば、あとは実行あるのみ。
「トレット、魔法少女に変身したんだからそのまま飛べるね?」
「誰に言っておるのじゃ! お主の魔法でできることがワシに出来んはず無いじゃろう!!」
「言ったなぁっ! それじゃあ遅れないでよっ! マオ……魔王! やってっ!!」
トレットの返事を受けて、オレは魔王に合図した。
「はぁぁぁぁっっっ!!!! 闇よ! 我が身を覆い力となれっ!!」
叫びとともに生まれた闇が魔王の体を包み込む。
闇に包まれた魔王の肌に竜のような鱗が生まれ、手足、それに悪魔っぽい尻尾まで竜のそれへと変化した。最後に背中から魔王の体の数倍はある巨大な翼が生えて、魔王は竜人魔法少女とでも言うような姿へと変身した。
「きゅっぴぃぃぃぃぃぃっっっっっっ!!!!!」
竜人化した魔王は、マオの時のような鳴き声をあげながら、魔導砲へ向かっていった。
そして、魔導砲を掴むと全身に力を込める。
地面を割く轟音とともに魔王は地面ごと魔導砲を持ち上げ、翼をはためかせるとゆっくりと飛び上がった。
何という馬鹿力。魔法少女になった魔王が本当に敵にまわらなくてよかった。
っと、見とれている場合じゃないな。
オレは慌てて魔法で飛び上がり、魔王を追いかける。
トレットもオレに続いて魔法を発動させた。
飛び去るオレたちを、地上に残されたタトラさんとリプルたちが見上げて叫ぶ。
「イオリさん!」
「魔王様!!」
「タトラさん待ってて。絶対、皆無事に戻ってくるから!!」
オレはタトラさんたちに手を降ると、魔王を追いかけ速度を上げる。
小山ひとつ分ほどをはありそうな魔導砲を持ち上げているというのに、魔王の飛行速度は全速力で飛ぶオレと殆ど変わらない。
まさか翼の力だけで飛んでいるわけじゃないだろうけど、一体どうなっているのやら。
魔王を追って飛び上がったオレたちはぐんぐん高度を上げていき、雲を突き抜け、さらにその先へと向かう。
空の先、星に手が届きそうなほど高く飛び上がった所でようやく魔王は上昇を止めた。
あたりを見渡せば、雲どころか塵一つ無い澄んだ空間。
これって成層圏だろうか? それとも異世界だから別のなにかなのだろうか?
とにかく、生身ならとっくに死んでいそうな場所なのにオレたちが普通にしていられれるのは、おそらく魔法少女に変身しているからだろう。
下を見下ろせば、白い雲の合間から青みがかった大陸が見えた。
初めて見るこの世界の全貌にちょっと感動していると、魔王が魔導砲をぶん投げ叫ぶ。
「イオリ、トレット=タル、今だ、お前たちの可愛さ、ありったけの魔力を叩き込めぇっ!!」
言われるまま、オレは残ったすべての力を振り絞って最後の必殺技を繰り出す。
「いっくぞぉっ!! ハイッパァーシャイニー!! プリズムッ! ビィィームッ!!!」
「ワシに命令するでない! 森よ! 力を貸してほしいのじゃ!! シャイニー! エルヴンッビーム!!」
「闇よ! すべてを包み込め! ダークプリズムッビーム!!!」
オレたちの放った必殺技は互いに混ざり合い、煌めく光の束となって魔導砲を包み込んだ。
魔導砲はその光を次々と吸収し、輝きを増していく。
ここまでは前と同じ。しかし、今回はオレひとりの力じゃない。
3人の魔法少女の力を合わせた、膨大な魔力の本流を受け続けついに魔導砲の限界が来た。
魔導砲がひときわ強く輝いたかと思うと砲身に亀裂が入り、次の瞬間、魔導砲は爆発し粉々に砕け散った。
爆発した魔導砲の破片は光の粒となって地表へと降り注ぐ。
光の粒ひとつひとつが色とりどりの輝きを放ち。まるで流星群のように光の尾を描いて落ちていく様はとても幻想的だった。
青みがかった地表へ落ちる光を見つめ、オレは思わずため息を漏らした。
「綺麗……」
「うむ」
「さあ、見とれている場合ではない。残された時間も少ないのだ。皆のところへ戻るぞ」
魔王に促されるまでもなく、力を使い果たしたオレたちは落下するように地面へと落ちていく。
次回
魔導砲の破壊に成功した主人公たち。
彼らは人々の待つ地上へと帰還する。
大陸を救った伊織を待つ運命とは――




