第63話 魔王再臨
スーパー魔法少女モードになったオレの必殺技が吸収されるなんて、全く想定していなかった。
呆然とするオレに対し、仲間の四天王にボコられ潰れたヒキガエル状態だったシェードが顔だけを上げ高笑いをはじめた。
「ふふふ、ふははははっ!!! ヒト種の勇者よ。我ら魔王四天王を倒した可愛さ、悔しいが認めてやろう。しかし、その可愛さが仇となったな!! 魔導砲はすべての魔力を吸収し打ち出す決戦兵器!!」
「そんなのありかよ!!」
拳を握るオレを嘲りながら、シェードは話を続ける。
「まさか魔族100人が数日がかりで補充する魔力を一瞬で生み出すとは、まったく恐ろしい可愛さだ。貴様たちが無事ということは1射目は防がれたようだが……勇者よ、お前のおかげで即座に――しかも1射目とは比べ物にならぬ威力で打ち出せそうだぞ? さあ、貴様の可愛さで街が滅ぶ様を指を咥えて眺めるがいいわ!!」
なんてことだ、こいつが言ってることが本当だとすれば、オレたちが焦ってしたことは全部無駄……それどころか魔族の手助けになったってことかよ。
シェードから告げられた事実に、オレは一瞬力を失い、倒れそうになった。
だが、ここで手をこまねいていたら今度こそ本当に街の人々が魔導砲の餌食になってしまう。
「くそぉっ、諦めてたまるか!!」
なんとか気力を振り絞って踏ん張ると、オレはハイパーピコハンを振りかぶって魔導砲に叩きつけた。
手がしびれるほどの硬い手応え。しかし、魔導砲には僅かな傷ができただけだった。
「イオリ、力を貸すぞ!!」
「わ、わたしもやります!!」
いつの間にか衝突のダメージから回復したトレットとタトラさんが立ち上がり、オレの側に駆け寄ると、攻撃に加わる。
トレットは魔法で生み出した蔓を振るい、タトラさんは肉弾戦で魔導砲を殴りつけた。
だが、やはりいくら攻撃を繰り出しても巨大な魔導砲はわずかに傷がつくだけで破壊など到底できそうにない。
「あー、もう見てられないわね」
「本来なら人間どもの手伝いなど絶対にしない所だが……」
「これも魔王様のお食事のためなんだからねっ!!」
攻撃を繰り返すオレたちを見かねたリプルたちが、文句を言いつつ重い腰を上げ魔導砲へ襲いかかる。
本気を出した3人の攻撃は凄まじく、オレたちの数倍の速度で魔導砲へ攻撃を加え表層を削っていく。
こんなのとまともに戦ったら、スーパーモードになった今でも勝てるかわからない。
完全な味方ではないとは言え、この状態で敵対していなくて本当に良かった。
オレたちもリプルたちに負けるわけにはいかないな。
「トレット、タトラさん、一緒に!!」
「わかったのじゃ!」
「はい!」
ふたりに合図をするとオレはピコハンをトレットに手渡し、ピコハンを持ったトレットをオレが後ろから抱え、そのオレをタトラさんがさらに抱え込んだ。
力を注ぐとピコハンは数倍に膨れ上がり巨大なハンマーに変化し、オレたちは巨大ピコハンを振り上げると魔導砲に叩きつける。
「いっくぞぉー!! ハイパーピコピコハンマー!!」
「なのじゃぁぁぁっっ!!!!」
「えぇぇっっいぃぃっっ!!!」
インパクトの瞬間、大地を揺るがす衝撃が当たりを揺らし、衝撃で舞い上がった土煙があたりを覆う。手には確かな手応えがあった。
……だが、土煙の晴れた後には虹色の輝きを放つ魔導砲の姿が現れる。
必死で魔導砲の破壊を試みるオレたちを、シェードはあざ笑った。
「無駄だ無駄だ、魔導砲には我ら魔族の技術の粋が集められている。どのような攻撃を受けようと破壊などされるわけがないっ!!」
どうする、どうすれば魔導砲を破壊できるんだ……。
このままシェードが言う通り、トレリスの街が破壊されるのを指を咥えて見てる事しかできないっていうのか。
ゼフィさん、サリィ、クーラさん、チューリさん、ブラン様、エルフの子どもたち、市場の人々……今も街で避難をしている皆の顔が脳裏に浮かび、何もできない自分の無力さを呪った。
何か、何でも良い魔導砲を止める方法を教えてくれ!!
その時、突如としてマオの体が黒く光り輝く。
「きゅぴぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!」
甲高い咆哮とともに黒い光に包まれたマオの姿が、みるみるうちに膨れ上がり人の形へと変身していく。
オレはその姿を以前見たことがある。
忘れるはずもない。悪魔を思わせる羽と尻尾、頭の角。もちっとした褐色幼女ボディのそいつは、マオの本来の姿――魔王だった。
「ふぅぅ……ようやくだ。イオリ、貴様の封印は中々に手強かったぞ」
「なっ、ま……魔王!?」
ゆっくりとオレの方を向いた魔王は、口端を歪め静かに笑った。
以前から封印されているにしてはおかしな行動が多かったが、まさか自力で封印を解いて元の姿に戻るなんて。
「このお方が魔王様!?」
「なんと可愛らしいお姿」
「すごい。本当に魔王様なんだ……」
リプルたち魔王四天王3人組は、魔王の姿を見て感激に打ち震えている。
「さあ、我を封印してくれた礼、たっぷりと返させてもらうぞ!!」
魔王は手を天にかかげ宣言した。
復活するにしても、よりによってこんなタイミングですることないだろう。
魔導砲の発射が目前に迫っているというのに、魔王まで復活するなんて……これもう積んでないか?
次回
魔導砲発射を前に復活した魔王。
絶体絶命のピンチを果たして主人公は切り抜けられるのか。
闇の光が新たな力を呼び起こす――




