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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
はじめての『可愛い』。
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第21話 決戦3

「死ぬが良い!!!!」


 魔王が両手に持った小石を投げつけてくる。しかし、それよりも早くオレは呪文を唱え終えていた。


「お願いっ妖精さん、皆を助ける力を私に貸してっ!! クリスタルシャイニーパワー!! ドレスアーップ!!!」


 胸から虹色に輝くクリスタルが出現し、クリスタルから溢れた光が小石を弾き飛ばす。オレの身体がクリスタルの光に包まれると、シャイニーキュアーの衣装が光の粒子となって純白のドレスに再構築されていく。背中からは天使のような光の翼が生え、ピコハンも白と金の装飾が施された新しい姿に生まれ変わった。

 最後に、頭に金の可愛いティアラが形作られ、オレ、ううん。あたしは、決めポーズを取る。


「スーパーシャイニーキュアー!!! 皆の笑顔はあたしが守るっ!!」


 虹色の光が沢山のハートになって花火のように弾けて消えていく。その様子を呆然と見ていた魔王は、震える指で私を指差す。


「ばっ、ばかなっ!!! 二段変身だと!? それに、その純白のドレスはなんだ!!!! なぜっ、なぜそのような可愛いものが生み出せる!!!!!」

「えっと、クリスタルシャイニーから出てきた?」


 なんで? って言われてもそんな事あたしにはわからない。スーパーシャイニーキュアーになれるかは賭けだったんだから。

 妖精さんの力を借りたけど、この世界に本当に妖精さんが居るのかわからないし、クリスタルシャイニーが本当に出るとは思わなかった。

 でも、あたしはスーパーシャイニーキュアーになれた。もう魔王なんて怖くない!!


「なぜ疑問形なのだ!!! えぇい、そのような可愛いさをいくら持とうと我にかなうと思うなよ!!! 死ねっ!!!」

「きゃっ、」


 魔王は怒って襲ってきた。魔王の連続パンチに当たって、あたしは吹き飛んでしまう。受け身も取れず、そのまま地面を転がって倒れちゃった。


「ふふふっ、いくら見てくれを整えようと、しょせん人間よ。そのような脆弱な身体で我と戦おうなどと百年早いわ!!!」


 魔王は勝ち誇っているけど、あたしは何事もなかったように立ち上がって、土を払う。うん。傷ひとつないや。


「……やっぱり可愛く防御すると全然痛くないんだ。ホント、理不尽」


 可愛い攻撃が強いなら、可愛い防御も強いんじゃないかなーって思ってしてみたけど、ほんとに全然痛くないなんて、ホントに変な世界だな。


「ばかなっ!! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!!! なぜ我の力が通じぬ!!! 可愛さでこの我が負けるなどありえぬ!!! なぜ効かぬ!!! それほど可愛さに違いがあるとでも言うのか!!!」


 魔王はなんども攻撃してくるけど、パンチもキックもどんどん弱くなってる。攻撃で吹き飛ぶことも無くなって、ただ頭を手で抑えて丸まるだけで耐えられちゃう。


「あー、やっぱまだわかってないんだ」

「何のことだ!!! この我が!!! 最強の可愛さを誇る魔王が貴様のような人間にぃっ!!!!!」


 攻撃はどんどん弱くなって、最後には思いっきり振りかぶってるのに、駄々をこねてる子供のパンチのようにポス、ポスって軽い音しか出なくなっていた。あ、魔王ちょっと涙目になってる。

 あたしはため息をつきながら、困惑してる魔王にたずねてみた。


「あのね、殺すとか腸をスライムに食べさせるとか可愛いと思う? 怖い顔して殺そうとするのって可愛い?」

「…………はっ!!!!!!!!」


 やっぱり気づいてなかったんだ。必死になって、怖い顔になればなるほど魔王の攻撃は弱くなってた。つまり、そういう事なんだ。


「可愛いが強い世界なんだから、「殺す」とか「死ね」とか「恐怖で世界征服」とか可愛くないことしてて、強くなれるわけ無いんだよ!」

「馬鹿なっ!! 殺し合いの中で殺意を持たぬことなどできるわけが……」

「だーかーらー、そんな怖いことしちゃダメって言ってるの、めっ!!!」


 額を指先で押すと、魔王が吹き飛んで地面に倒れた。小さな子をいじめてるみたいで気がひけるけど、ちゃんと教えてあげないと戦いは終わらない。


「ぐはぁっっっ!!!!! 指先ひとつでこの我が!!!! なぜだっ!! なぜ貴様は殺意を持たぬ!!!」

「命の取り合いとかあたしはするつもりないし、というか無理だし。でも魔王もこのままだと危ないよねぇ。まずはピコハンで……」

「まてっ!!! なんだその可愛い武器は!!! 振りかぶりは!!!」


 あたしは可愛くなったハイパーピコハンを両手で振りかぶって、魔王に叩きつける。


「悪い子にはお仕置きだよ! えーい!!」

「ぐぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!!!」


 魔王の悲鳴が辺りにこだまする。でもやっぱり魔王だけあって、ハイパーピコハンでも一撃で倒すことは出来ないみたい。


「……セリフも可愛くすると威力倍増とか、絶対この世界作った誰かっておかしな人だよね。そーれ! もう一回お仕置きなんだからっ!!!」

「まてっ!!! もうやめろっ!!! やめてくれぇっっっっ!!!!」


 まだまだ元気いっぱいの魔王に、あたしは連続でピコハンを振るう。そのたびにピコっ、ポコっと可愛らしい音がなって、ちょっと楽しくなってきた。


「……あの魔王が一方的に殴られている。なんというやつだ」

「あれ痛いんじゃよなぁ。あんな可愛い姿になった上で、いちいち可愛いセリフまで一緒に放つし、やはりあやつ鬼じゃろ……」


 外野がうるさいけど、今は気にしない。っていうか、ハイパーシャイニーキュアーに変身してからずっと驚いて何も言えなくなってたのに、やっと反応したのがそれってひどい。

 ちゃんと数えてなかったけど、50回以上? ピコハンで叩かれた魔王は、息も絶え絶えに地面に倒れて動けなくなっていた。

 これなら最後の魔法も成功しそう。


「そろそろいいかな? 悪の心を光の力でお掃除しちゃうっ!! シャイニーブルーム!!」


 ハイパーピコハンをくるくる回すと、ピコハンが光って魔法のほうきになる。魔法のほうきで踊るように魔王の周りに魔法陣を描いて、仕上げに地面を叩くと、魔法陣から光が浮かび上がって魔王を包み込んだ。


「ぐあぁぁぁぁっっ! ばかなぁぁぁぁっっ!!!」

「お掃除完了!」


 ほうきを一振りすると、魔王を包み込んでいた光がぐーっと膨らんで、弾けて消えていく。


「トレット殿、あれ…………もしかして魔王が倒れたのではないか?」

「……何じゃろう。命をかけて住人を守ろうとか、世界の破滅とか言っておったのが馬鹿らしくなってきたのじゃ」


 呆然とした様子でゼフィーさんとトレットがこっちを見ている。

 せっかく魔王をやっつけたのだから、もっと喜んでもいいのに。あたしは、消えていく光の中から残っていた小さな塊を拾うと、両手で抱き抱えてふたりに駆け寄った。


「ゼフィーさん、トレット、もう大丈夫だよ! ほらっ!!」

「きゅぴー」


 あたしは腕に抱いた小さな塊をふたりに差し出す。そこには、チョコレート色の小さくてきゅぴきゅぴ可愛い鳴き声をあげるぬいぐるみみたいなミニサイズのドラゴン。


「なんじゃこやつ!?」

「魔王の手下か!!」


 身構えるふたりに、あたしは説明する。


「あー、この子、魔王。その姿に封印したの」

「なんじゃと!? そのようなことできるわけ……確かに魔王じゃな」


 ミニドラゴンになった魔王をトレットは抱きかかえると、持ち上げて下から見上げてみたり、背中の小さな翼をひろげてみたり、色々確認していた。その間に魔王に何度かかじられていたけど、甘噛だったみたいで気にもしていなかった。


「とどめはささなかったのか?」

「言ったでしょ、殺すとか殺されるとか可愛くないって。まだちょっと可愛いけど、そのぐらいならスライムぐらいの可愛さしか出せないはずだよ」


 ゼフィーさんは剣に手を置き、警戒は解かずにいるけど、ミニドラゴンの姿になった魔王にはもう危険は無いし、あたしには殺せない。そして、できればふたりにも無理やり魔王を殺すなんて可愛くないことはして欲しくないんだ。

 ふたりともミニドラゴンの魔王を見つめ怖い顔をしていたけれど、わたしの言葉で毒気が抜けたみたいで、呆れながらも受け入れてくれた。


「まったくお主は……」

「見た目はベビードラゴンみたいだが、確かにこの程度の可愛さであれば対処もできるだろう」

「大丈夫。ふふふ、魔王も、もう悪いことしちゃダメだよ!」

「きゅぴー!!」


 魔王は返事の代わりにひと鳴きする。これでめでたしめでたしだ。


「ところで、」

「?」


 トレットが何気なくあたしの顔を見つめ、聞いてきた。


「お主なぜさっきから言動まで可愛くなっておるんじゃ? 普段あれだけ可愛くなっても口調を変えぬくせに、どういう心境の変化なんじゃ?」

「…………はっ!!!!!!! あたし、なんであたしなんて言ってるの!?」


 まって、じゃない!!! 待て!!!!! これはどういうことだ!? あた……ちがう!! オレ!! オレはなんでこんな可愛い喋り方してるんだ? スーパーシャイニーキュアーになった辺りからたしかあたしになって……


「スーパーシャイニーキュアーのせいかぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」

「なんじゃい! 急に叫びよって、驚かすでない!」

「きゅぴー」


 正気を取り戻し、自分の行いを振り返ってオレは頭を抱えた。ハイパーシャイニーキュアーになったオレは、自分でも意識できないほど自然に心身ともに可愛くなっていたらしい。

 なんだ、あのキャピキャピした仕草は!!!! いくら外見が可愛いからと言っても、あんな事死んでもオレがするはずないのに!!!!!


「ああああああ…………オレはなんてことをぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!」


 思い出すだけで死にたくなるレベルの行為の数々に赤面してオレは転げ回る。決めた。シャイニーキュアーは封印しよう。もう街が壊滅する危険なんて無いんだ。一刻も早く元に戻るぞ! 直ぐにっ!! そこでオレは重大な事に気づいた。


「……あれ、コレ、どうすれば元に戻るんだ?」


次回


ついに魔王を封印し、街に平和をもたらした主人公。

平和の戻った街で伊織は新たな生活を始めることとなる。


かわせか! 第一部エピローグ!(予定)

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