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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
人魔争乱と『かわいい』。
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第31話 消えた少年

久しぶりに訪れたアズマの街で、オレたちはクレープ屋を熱望する住民たちに捕まってしまった。

 皆悪意なく集まってきているので、無理やり押し通るわけにも行かず立ち往生することなってしまった。

 全く身動きが取れず難儀していると、誰かが近寄ってきた。


「イオリ……? あんたイオリかい!?」


 見ると、そこには見知った顔の、恰幅の良い犬耳のおばちゃんが居た。

 

「ペスさん!」

「ああ、やっぱりイオリだ!」


 おばちゃんは手を振りながらオレたちに近づいてくる。

 彼女――ペスさんは、フォクさんに仕える使用人だ。

 アズマの街にある別邸の管理をフォクさんの父親の代から任されていて、オレたちが会いに来たナールくんの面倒もずっと見ている。


「あんたたちどうして街に……っと、ここじゃ落ち着いて話せないね。ちょっと待ってな。ほらほら、どいとくれ! イオリたちは長旅で疲れてるんだ。用があるならゆっくり休ませてやったあとにしな!」


 ペスさんは声を張り上げ、人だかりを無理やりかき分け道を作ってしまった。

 人だかりをものともしない、おばちゃんパワーは凄まじい。

 ペスさんに先導されて、オレたちは無事ナールくんの暮らす屋敷まで移動する。

 屋敷でようやく一息つくと、皆の分のお茶を入れながらペスさんがオレたちに改めて尋ねてきた。


「それで、あんたちまたどうして街にやってきたんだい? また屋台をするなら、あたしも手伝ってやるよ」

「いや、今回はちょっと別の用事の途中で立ち寄っただけなんです。ちょっとナールくんの顔を見ておこうかと」


 ナールくんの名前を出した途端、ペスさんは表情を崩しうなだれてしまう。


「どうしたんです? ナールくんに何かあったんですか?」

「ああ、それがね……」


 ただならぬ雰囲気を感じ、身を乗り出すオレにペスさんはぽつぽつと事情を語りだした。


「事の起こりはあの影が空に現れてからのことさ。突然、国の各地でモンスターが暴れ始め、街を襲い始めたんだ。アズマの街にも」

「えっ、ここってモンスターの襲撃受けてたんですか!?」


 ペスさんの言葉に、オレは驚いた。まさかすでに街がモンスターに襲撃された後だったとは。

 街の様子が以前とまったく変わらないため、全然気づかなかった。

 他の街に比べて別段防備が備わっているわけでも無いだろうに、被害らしい被害が無いことを不思議に思っていると、ペスさんが苦笑しながらオレを見てきた。


「ああ、それはあんたたちのおかげだよ」

「おれたちの?」

「美味しい料理を作るために、可愛い装飾品を身につけると良いって皆に教えてくれたろ。それで、街では料理人だけでなく、やもめの兵士たちや主婦なんかも装飾品を身につけるようになってたんだ」


 ああ、なるほど。

 普段かわいい装飾品を身に着けない獣人だが、美味しいものを食べるためということで装飾品が広まったと。

 オレは単純にタトラさんの仕入れた商品を売るためにセールストークをしただけなのに、まさかこんなところで役立つとは思いもしなかった。


「街に侵入してきたモンスターを片っ端からフライパンでぶっ叩いたりしてね、兵士たちに随分感謝されたもんさ」


 元々種族的に可愛い獣人が可愛い装飾品を身につければ、そりゃ鬼に金棒だろう。

 事情も知らず街を狙ったモンスターに逆に同情してしまう。


「街は被害もほとんどなく守られたんだけどね、同じように王都もモンスターの大群に襲われていると商会の伝令から話しを聞いたぼっちゃんが、屋敷を飛び出して王都に向かっちまったんだ」


 重度のブラコンであるフォクさんとは比べ物にならないが、ナールくんも姉思いの子だ。

 王都に居る姉の危機を知らされて、居ても経っても居られなくなったのだろう。

 しかし、ひとりで街を飛び出すなんて無茶をする。

 父親を助けるため、オレを探してひとり旅をしたサリィと言い、この世界の子供はアクティブすぎないか?


「本来ならあたしが体を張って止めなきゃいけなかったんだ。それなのに……」


 ペスさんはエプロンを握りしめ、肩を震わせた。

 ペスさんにとってナールくんはただの保護対象と言うだけでなく、亡き同僚から託された子供でもある。

 

「商会を通じて坊っちゃんの捜索はしているけれど、モンスターの活動が活発で足取りもつかめないで居るのさ……」

「そうですか」


 ペスさんは、肩を落としたままそう締めくくった。

 気落ちする彼女の肩に手を乗せ、オレはナールくんの捜索を提案した。


「そういう事なら、オレたちがナールくんを探しましょう。ちょうど王都へ向かう予定でしたし」

「本当かい!!」


 オレの言葉にペスさんは顔を上げオレの手を握りしめる。

 ペスさんのプニッとした肉球に力が込められ、オレを見上げる目に涙が浮かんでいた。

 王都での話も重要だが、ナールくんも大切な友人だ。見過ごすことは出来ない。


「ええ、どこまで出来るかわかりませんけど」

「ありがとう! ありがとうイオリ!!!」


 ペスさんはオレの手を握りしめ、何度もお礼を言い続けるのだった。

次回

少年の捜索に名乗りを上げた主人公。

果たして彼は無事少年と再会出来るのか。


王都へ向かう伊織たちにモンスターが襲いかかる――

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