第29話 魔族の暗躍
対魔族連合への協力を要請するため、獣人王国へとやってきたオレたち。
しかし、エルフの里から最も近い街を訪れてみれば、無数のモンスターが大挙して街襲っている真っ最中。
なんとかモンスターを退け、混乱する街の警備兵を落ち着かせると、オレは街の襲われた原因について聞き取りをはじめた。
「本当にあの巨大な鳥はもう居なかったのか?」
「ええ、きっと通りすがりだったんでしょう。影も形もありませんよ」
兵士の言う鳥とは、オレたちが移動につかった召喚獣のぴーちゃんなわけだが、それを話すとさらに混乱しそうなので、適当に話を合わせて本題に入ってもわらなければ。
「それより、何故街がモンスターに襲われていたんです?」
「わからん。なんの前触れもなく、奴らは突如として街に襲いかかってきたんだ」
取り合えず身の安全を保証された兵士の人は、犬っぽいケモミミを垂れさせると、どかっと腰を地面に下ろした。
突然の襲撃に対応してだいぶ精神をすり減らしていたのだろう。疲労の色が濃い。
ふむ、やっぱりモンスターの襲撃は原因不明か。
オレたちの中で一番この世界の事に精通して居るであろうトレットが原因はわからないと言っていたので、想定の範囲内の答えではある。
裏を返せばトレットですらわからない異常事態が発生していると言えるので、より問題が深刻になってしまったわけだが。
「まさかこの街までモンスターの群れに襲われるとは、王国はどうなってしまうのだ!」
「ちょっと待て、え、もしかしてモンスターに襲われたのって、この街だけじゃないのか!?」
頭を抱える兵士の言葉に、オレは思わず取り乱してしまった。
「ああ、空に怪しい影が浮かんでから、王国の各地でモンスターの襲撃が相次いでいるんだ。周辺の都市や中央に応援を呼ぼうにも、どこも自分のことで手一杯で増援の余裕なんてない。あんたたちが来てくれなかったら街は壊滅的な被害を被っていただろう。改めて感謝する」
「あ、ああ……」
頭を下げてくる兵士に適当に相槌を打ちながら、オレは脳内で情報を整理する。
魔族の宣戦布告のあとから同時多発的に獣人王国でモンスターの襲撃が多発しているのなら、原因はおそらく魔族だろう。
トレットですら知らない現象偶然起こるとは考えにくいし、規模もでかすぎる。
なにより、人の集落をピンポイントで狙うなんて自然に起こるわけが無いだろう。
問題は、襲撃が獣人王国全体に広がっていることと、魔族がどうやってモンスターを操っているのかという点だ。
獣人は種族的に何もしなくても可愛いとは言え、戦闘要員となると数は限られる。
タトラさんのように可愛いリボンを身に着けて可愛さを高めれば、話はまた違ってきそうだけれど、獣人は装飾品を好まないらしいのでそれも難しいだろう。
そして、元凶だと思われる魔族に関しては、現状まったく手の打ちようがない。
原理はわからないが、仮に遠距離――たとえば魔境から操っているとしたら、原因を止めることは不可能だ。
ただでさえ魔族の侵攻で各国が右往左往している時に、魔境へ人員を割く余裕なんてどこにもない。
これは、結構やばいかもしれない。
考え込むオレを見て、兵士がおずおずと声をかけてくる。
「なあ、あんたたちさえ良ければ、このまま街にとどまって警備を手伝ってくれないか? もちろん、報酬は支払う!」
かなり切羽詰まった様子で、兵士の人は懇願してきた。
モンスターの襲撃がかなりこたえたのだろう。他種族を下に見る傾向の強い獣人がここまでするなんてよっぽどのことだ。
しかし、オレたちも目的があって獣人王国へやってきたのだ。残念ながら期待に応えることは出来ない。
「手助けしたいのはやまやまなんですが、オレたちは王都を目指してるんです」
「そうか……」
肩を落とす兵士に、オレは続けてある提案をする。
「代わりと言ってはなんですが、モンスターに対抗する作戦ならお教え出来ると思いますけど」
「本当か!! ぜ、ぜひ教えてくれ!!」
退魔の魔法でモンスターを退けたとは言え、それはあくまでも一時的なもの。
時間が経てば恐らく再びモンスターは街を襲うだろうし、対抗策ぐらいは一案として伝えておかないとオレとしても心配だ。
「まず、住民に可愛い装飾品を身に着けてもらって、出来る限り可愛くなってもらいます。獣人にとっては抵抗感のあることかもしれませんが、身の危険を考えれば安いものでしょう。このリボンなんて手軽に作れるのでおすすめですよ。ひとつお譲りするので、ためしにつけてみてください」
「ああ……こ、これは!? 女になっているじゃないか!!!」
リボンを渡された兵士は、言われるままリボンを耳につけるとケモミミ美少女に変身した。
獣人でも可愛い格好をすれば美少女に変身するのだが、男が可愛い装飾品を身につける文化のない獣人にとっては、驚きの光景だろう。
周りでオレたちのやり取りを見守っていた他の兵士からもどよめきが聞こえてきた。
「ええ、それだけ可愛くなっているということです」
「確かに、自分の中に今までにない可愛さを感じるな……」
ケモミミ美少女になった兵士は、体の感覚を確かめるように手を開いたり閉じたりを繰り返している。
「リボンの作りは単純なので、見本を見せて職人や裁縫が得意な人に頼めばすぐに作れるでしょう」
「ああ、この力があれば戦える者も増えるだろうな」
「それと、街の防壁ですが、壁に色を塗って可愛くすればより強固になるはずです」
「壁に色を?」
「塗料が少なければ、絵を描くだけでも効果があるので。ほら、この荷馬車みたいな感じです」
「なるほどな。防壁を可愛くか……補修にあわせてすぐに取り掛かろう!!」
自分たちと街の住人の命がかかっているためか、兵士の人は簡単にオレの案を受け入れてくれた。
これで、急場しのぎにはなるだろう。
「何から何まですまない。王都へ向かうということだったが、是非今日は街に滞在してくれ!」
「いや、気持ちはありがたいですが、オレたちは先を急ぐので……。リボンの事はできれば他の街にも伝えてもらえますか」
「そうか。では王都での用事が済んだらぜひまた街に立ち寄ってくれ。改めて街を挙げて歓迎させてもらう」
「ええ、その時はぜひ」
美少女となった兵士と握手を交わし、オレたちは住民を怖がらせないよう、荷馬車で街から離れると、十分に距離を取ったところで再びぴーちゃんを召喚した。
次回
王国各地で発生するモンスターの襲撃。
主人公たちは襲撃を食い止めることが出来るのか。
獣人王国に可愛い文化が広がる――