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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
人魔争乱と『かわいい』。
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第26話 ファーストキスは夢の味?

 ――眠い。

 どれだけ寝続けても、より強力な睡魔が襲ってきてさらに一段深い眠りについてしまうような、そんな感覚がある。

 それは決して嫌な感覚ではなく、むしろとても気持ち良くてずっとこのままで居たいとすら思ってしまうものだった。

 どれだけの時間、心地よいゆりかごのような感覚に浸っていたのだろうか、唐突に熱くて柔らかい何かがオレの唇に触れた。

 ……ような気がする。

 同時に、遠くから誰かの呼ぶ声が聞こえてきた――


「……オリさん、イオリさん、起きてください!!」

「ん……あれ、タトラさん?」

 

 目を開けると、目の前にタトラさんの顔があった。

 なんだかボーッとする頭を振りながら、あたりを見回す。

 そこにはオレと同じくお寝ぼけまなこのエルフの子どもたちに、なぜか赤面して両手で口元を押さえるクーラさん、それに見慣れたのじゃロリとマオの姿があった。


「良かった。やっと起きました」

「あれ、オレはいったい……」


 心配そうにオレの顔を覗くタトラさんの様子に、何かトラブルでもあったのかと記憶を探りながら、オレは頭の脇に置かれたぴーちゃん枕を見つけすべてを思い出した。


「あー、これのせいか。可愛くしすぎたからかな……」

「まったく、お主は手間をかけさせよって。不注意にもほどがあるのじゃ」


 ぴーちゃんの羽毛をふんだんに詰め込み、ぴーちゃん型のまん丸枕を作ったオレは、知らない内に自分で枕を使って寝こけてしまっていたらしい。

 それも、まわりの反応を見るに、かなりぐっすり寝てしまったようだ。

 自分でもまさか記憶が飛ぶほど寝るとは思っても居なかったので、驚いている。

 ぴーちゃんの羽毛を使った事も恐らく要因のひとつだが、それに加えぴーちゃん型に可愛くしてしまったことで必要以上に枕としての性能が引き上げられてしまったようだ。

 トレットなどは腰に手を当て、若干怒っているような気もする。


「すまなかったな。オレはどれぐらい寝てたんだ?」

「時間はそれほど経って居らんのじゃ。半日程度かの」

「半日って、十分寝過ぎじゃないか」


 眠っていた時間を聞いて、さらに驚いてしまう。全く記憶にないぞ。

 と、そこでオレはタトラさんの反応がおかしな事に気づいた。

 寝ているオレを心配していたのは確かなのだが、それだけでなくなんというか、興奮しているような?

 ……以前ブラン様がぴーちゃんの羽毛に包まれて眠り続けてしまった時には、マオのキスで目覚めたんだよな。

 おぼろげに夢の中で唇に何かが触れたような気もする。


「……おい、オレはどうやって起きたんだ?」

「…………」


 嫌な予感がしてオレはトレット達を問い詰めるが、トレットは無言でプイっと顔をそむけてしまう。

 タトラさんを見ても同じように顔をそむけ、寝ぼけている子どもたちは無反応。

 クーラさんは頬を染め、なぜかマオも顔を赤らめている。

 あれ、これってもしかしてクーラさんかマオがオレに……?


「おいっ!! ほんとにオレはどうやって起きた!?」

「これに懲りたらもうむやみにおかしなものを作って警戒心なく使うことは控えるのじゃな」


 全然答えになってないトレットの言葉ですべてを察したオレは、膝から崩れ落ち自分の愚かさを呪った。

 うぅ、相手は誰だかわからないが、オレのファーストキスはついさっき奪われてしまったようだ。

 せっかく作った特製ぴーちゃん枕だが、完成早々封印が決まってしまった。

 さすがに廃棄するのはもったいないので、このままぬいぐるみとして愛でることとしよう。決して枕として使わないよう注意をした上で。

 その後、シンプルな長方形の飾りの無い枕を作ったところ、ちょうどいい感じに寝心地がよく、かつ寝過ぎたりしない高性能枕が完成した。

 改良型の枕はエルフの人々にも好評で、ぴーちゃんがたまに落とす羽毛はエルフの里で有効活用されるようになる。


「魔族に対応するための異種族連合ですか」


 ちょっとしたトラブルがあったものの、たっぷりと久しぶりの休養を取ったオレたちは、クーラさんに改めて現状の説明と、対魔族連合への協力をお願いする。


「もちろん、我らに異論はありません。トレット様、イオリ様の力となれるよう全力を尽くしましょう」

「うむ、頼んだのじゃ」


 元々エルフの里はトレットを慕うものしか居ないので、話はあっさりと済んでしまった。

 魔族は大昔に魔王を封印したトレットを目の敵にしているようだし、エルフにとっては魔族はトレットを狙う不届き者ということになる。

 今回の侵攻が無かったとしても、衝突は避けられない間柄と言えるだろう。

 エルフの里はトレリスの街にも近いから、防衛で協力をしてもらえれば心強い。

 ひとまず近隣で魔境に一番違いトレリスの街を防衛の拠点とするようお願いをして、オレたちは次の目的地へと旅立つことにした。

 エルフの住人に見送られながら、トレットがすぐ側で待機しているぴーちゃんを召喚して魔法陣から呼び出す。

 隣に居るのになんでわざわざ召喚するんだと言う話もあるが、ぴーちゃんは巨大すぎてどうしても目立つし、他の土地に滞在している間、ぴーちゃんをそこで待たせたりしているとトラブルの原因になりかねない。

 多少手間でも必要な時だけ召喚して、普段は森に居てもらうのが色んな意味で都合が良いのだ。

 オレたちが荷馬車に乗り、ぴーちゃんの背中へ移動しようとすると、エルフの子どもたちが駆け寄ってきた。


「イオリ、ボク皆を守るために頑張る!!」

「トレットちゃん! ボクも頑張るから!!」


 鼻息荒くそう宣言しているのは、以前オレたちにプロポースをした男の子たちだった。

 これは、あれか。惚れた女の子に格好いいところを見せて点数稼ぎしたいと言うやつか。

 なかなか微笑ましいことだ。その好意を向けている相手がオレとのじゃロリエルフじゃなかったらの話だけれどなっ!!

 この子たち、大きくなってからこの一件が黒歴史にならないと良いな……。

 エルフの間では男の子が一生に一度はトレットにプロポーズするのが一種の通過儀礼みたいになっているらしいけれど、クーラさんなんかは未だにその事を引きずっているようで、子どもたちがトレットにプロポーズしていると過去の自分を重ねて苦渋の顔になってしまうほどだし。

 今もクーラさんは荷馬車を見上げる子どもたちを何を言うでもなく、微妙な視線で見ていた。

 しかし、オレも子供の無垢な夢を壊すことは出来ず、お姉さん的な立ち位置で接してしまう。


「ありがとう。でも、無理はしちゃダメだぞ。大人の言うことをちゃんと聞いて、絶対ひとりで先走ったりしないようにな」

「そうじゃぞ。お主たちが傷つけば悲しむ者が居ることを忘れてはならんのじゃ」

「……うん」

「わかった!」


 少年たちの力強い返事を受けて、オレたちは次の目的地、獣人王国を目指し飛び立つのだった。

次回

エルフの里を発った主人公一行。

次なる目的地である獣人王国へと向かった彼らが目にしたものとは。


獣人王国に危険が迫る――

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