表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
はじめての『可愛い』。
20/246

第18話 復活の魔王

 いつもと変わらない、何もないが代わりにのどかで平和だったトレリスの街は、突如として現れた魔王を名乗る影に騒然となる。

 山程の大きさのソレが一体何なのか、知るすべを持たない人々は困惑し、逃げることも隠れることも出来ずただ呆然と立ち尽くし、影を見上げる。

 オレも例外ではなく、どう反応すれば良いのかすらわからずに影を見上げていた。

 そして、フルーツパフェで至福の世界へトリップしていたトレットとサリィが、ようやく異変を察知して外へ飛び出してきた。

 トレットは影をひと目見て驚愕の表情を浮かべる。


「なっ、まかさかあやつは!?」

「知ってるのかトレット!?」

「あやつは……魔王っ!!! 太古の時代、この大陸を支配し、生きとし生けるものを恐怖の底へ落とした恐怖の存在じゃ!!!!」

「なんだって!?」


 魔王、そんなものまでこの世界には居るのか。しかも話を少し聞いただけなのに、かなりやばい事がわかる。なにより、普段どんな自体に陥っても、どこか余裕を残していたトレットが本気で焦っている。それが何よりも事態の深刻さを物語っていた。


「ふはははっ!! どれほどこの時を待ちわびた事かっ!!!! 地上の空気、日の光、何もかもが懐かしい……今一度、我がこの地の全てを手に入れる時が来たのだっ!!!! まず手始めにこの地を我が支配地とし、すぐに大陸全土も取り戻してみせよう。忌々しいエルフも人間も、逆らうものはひとり残らず縊り殺し、大地を血の海としてくれる!!!!!」


 魔王はオレたちのことなど歯牙にもかけず、独り封印を脱した喜びに震え、怨嗟の言葉を垂れ流す。その言葉のひとつひとつがまるで人の魂を鷲掴みにし、心の底から震え上がらせる力を持っているようだった。

 何にかの住人が圧力に耐えきれず気を失っていく。トレリスの街に、徐々に恐怖と混乱がが伝搬していく中、数名の兵士を連れたゼフィーさんが息を切らせて駆けて来た。


「トレット殿!!!! あやつは一体なんなのです!!!!」


 その表情は不安をたたえ、自分の予想を否定して欲しい。そんな風にも見えた。


「ゼフィーか、あやつ本人が言っておるじゃろ。魔王じゃ。間違いなくな」

「っ!!! まさか伝説の魔王が本当に存在していたとは……」


 ゼフィーさんの表情が一層険しくなる。伝説のって事は伝承か何かで魔王の恐ろしさを知っているのだろう。


「それよりも、まずいぞっ!! あやつにはワシの可愛さも通じんかったのじゃ!! 今すぐ街から住民を避難させねばならん!!!」

「お前が!? ……って、それってすごいのか? それに、見た目は全然可愛くないんだが」


 街の住民やゼフィーさんたちの深刻さとは裏腹に、オレはイマイチ危機感が持てないでいた。

 理屈の上では、先程からトレットやゼフィーさんが嫌というほど事態の深刻さを言葉と態度で教えてくれている。だが、確かに魔王を名乗る影は恐ろしくはあるのだが、それを言ったらワイバーンだって怖かったし、一番ははじめてであったキモカワゴブリンがオレにとってはダントツで怖い。

 可愛いさが強さである世界で、普通の怖い姿をした存在がそれほど驚異になるとは思えなかったのだ。

 しかし、トレットはオレの甘い考えをものすごい剣幕で否定する。


「馬鹿者っ!!! あのようなまやかしの外見に惑わされるでないっ!!! 真の姿となった魔王の可愛さは生物の枠を超えておる!!! その可愛さは神々に匹敵するとまで言われとったんじゃぞ!!」

「マジでか……」

 

 それって、めちゃくちゃやばいんじゃないか? トレットはともかくとして、神様と比べられるほどの強さなんて、その気になればこの街ひとつ、簡単に吹き飛ぶって事だよな?

 ようやく、事態の深刻さがわかってきたオレは、自分の魔法で丘が一瞬で消失した光景を思い出し、それを街の未来の姿と重ね合わせて身を震わせる。

 今までも何度と無く命の危険にさらされてきたが、今回は別次元のヤバさで間違いない。

 ゼフィーさんや、ゼフィーさんに付いてきた兵士の人は絶句し、サリィも不安そうに服の襟元を握る。


「しかしなぜじゃ。あやつはその強大な可愛さ故、太古にエルフ、獣人、人が協力し、多くの犠牲をだしながらこの草原に封印したはずっ!!! 封印の塚でも消失せんかぎり復活するはずが無いというのに、一体なぜなんじゃ!!!」

「トレット殿、その封印の塚とはどこにあるのです!!!」

「たしかこの街のすぐ近く、ちょうど小高い丘が……あっ……」


 トレットは何かを思い出したように言葉をつまらせ、視線を泳がせる。街を一望する小高い丘。

 ――それは確かに存在していた。だが、少し前、ある不幸な事件によって、丘は跡形もなく吹き飛び、今はクレーターとなっているのだ。

 思い沈黙が辺りを包む中、何も合図があったわけでもないのに、皆の目線がオレに降り注いだ。


「オレのせいかぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」


次回


魔王復活の秘密を知らされた主人公。

衝撃の事実に、彼の心は激しく揺れ動く。


伊織はストレスでねじ切れそうになる胃を救う事ができるのか――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ