プロローグ
Twitterでつぶやいたネタを元になろう版として連載します。
区切りの良いところまでは毎日更新を予定。
――目を開けるとそこは見知らぬ草原だった。
確か、昨日は連日の残業でフラフラになりながらベッドに倒れ込んで、そのまま寝て……。
「まだ夢でも見てんのか? まあいいや。それならそれで」
夢の中だからなのか、妙に身体が軽く、不思議に思ってしげしげと自分の身体を見てみると、なんだか全体的に活力があるというか、肌にハリがあるというか。
「若返ってる?」
鏡が無いからわからないが、心なし声も幼くなっているような気がするし、夢の中ならそうおかしくもないか。
でもどうせならこんな殺風景な草原じゃなく、学校で同級生の女子との甘酸っぱい青春を見せてくれればいいのに。
決して、アニメとゲームと即売会とバイトにまみれた灰色の学生生活に後悔があったわけではないけれどっ! でも!! 夢でなら都合よく、趣味が一緒で机くっつけながら昨日のアニメの感想を言い合うとかそういうのがさぁ……。
「なんで夢なのにこんな味も素っ気もない所に!!!」
「ぎー」
「なんだよ、今ちょっと考え事してるんだから静かにしてくれ! ……ぎー?」
背後からする聞き慣れない鳴き声に振り返ってみると、そこにはオレの腰ほどの背丈で緑色のズングリムックリした小人? のような生き物。
見ようによっては「キモかわいい」とか女子高生にウケそうな外見だが、手に持った無骨な棍棒と空腹のためか垂れ流されるヨダレが本能的にピンチを告げている。
「つまり、なんだ。これはオレがこいつの飯になるってことか! あはははっっっ!!!」
「ぎぎぎっ!!!」
オレは怪物とひとしきり笑いあうと、一目散にその場を逃げ出した。怪物は一瞬ぽかんとした後、棍棒を振り回してオレを追いかけてくる。
「誰が食われてたまるか!!!」
「ぎー!!!!」
怪物は頭から湯気を出しながらぴょこぴょことコミカルに走る。にもかかわらず、全速力で逃げるオレにピッタリとくっついて全然距離が縮まらない。それどころか、徐々に距離を詰められているようだった。
「なんで夢でこんな怪物に追いかけられなきゃいけないんだっ! そんなにオレの脳みそはオレが嫌いなのかよ!!!」
「ぎぎっ、ぎー!!!」
ヤバイッ、ヤバイヤバイヤバイッ!!!! 怪物はどんどん距離を縮め、何度か振り回した棍棒が服をかする。背後に迫る殺意で一瞬身がすくみ、その拍子に足がもつれオレは地面にダイブ。
「ぐえっ!!」
「ぎっぎっぎっ……」
夢のくせに転んだ痛みも肺が裂けそうな息苦しさも妙にリアルで嫌になる。もう一度逃げようにも身体が限界で立つことすらままならない。
息を切らせ寝返ったオレを見下ろす怪物は、あざ笑うかのように小躍りをして棍棒を振りかぶった。
(夢の中ですらオレはこんな扱いなのか)
迫りくる棍棒に、もうだめだと目をつぶったその時、
「大丈夫か!?」
「ぐぎゃー!!!」
誰かの声と怪物の悲鳴が聞こえた。目を開けてみると、そこには切り捨てられたぬいぐるみのような妙ちきりんな怪物とファンタジー世界に出てきそうな鎧をまとった女の人。
「武器も防具も持たずにこんなところで何をしている! 死にたいのか!!」
バカみたいに呆けているオレに、女の人は手を差し伸べてくれた。兜から覗くその顔は日本人離れした可愛らしくキレイな元のオレと同じぐらいの年代――今のオレからしたら年上のおねーさんだった。
篭手ごしでもわかるほど細い手は、握ってみると意外な力強さでオレを引き上げる。
「あの、オレ……じゃない私は迷子……というか、ここ、どこなんでしょう?」
「ここはガーデニア王国、北部のトレリスだが」
「トレリス。トレリス?」
まったく聞き慣れない地名に首をかしげていると、おねーさんは心配そうに顔を近づけ、オレのデコに手を当てた。あ、おねーさんいい匂いがする。夢なのに匂いがリアルなんて、さっきの化物から逃げてた時はなんの罰ゲームかと思ったけど、これはちょっといいかも。
オレが内心ドキドキしていると、おねーさんは気にした様子もなく腕、脇、足とさするように触れてくる。なんだろうこれ、すごく良いぞ。
おねーさんの息遣いが感じられる距離でのスキンシップだなんて、生まれてはじめてだ。
一通り身体をまさぐったおねーさんはオレから離れると思案顔になる。
「怪我は大したことがないようだが。ふむ、記憶喪失か……。しかたない。街まで連れて行ってやるから付いてこい。とはいえ丸腰のままでは危ないな。この兜を貸してやろう」
そう言っておねーさんは兜をオレに手渡す。そしておねーさんは一瞬で髭面のおっさんへと変わったのだった……。
次回、恋心散る。
伊織は(精神的に)生き延びることができるか――