第18話 ケモミミ取れた
ブラン様の報告に不信感を持っているらしい大臣ぽい幼女は、ブラン様が何も反論しないのを見て、さらに追い打ちをかけてきた。
「大体、魔王を退治したと言う者は王の召喚に一向に答えず、あまつさえ国境では我が軍に弓を引いたと言うではないか」
その言葉にビクン、と一瞬尻尾が立ってしまい、オレは慌てて自分の尻尾を押さえつけた。
今まで他の獣人を見て尻尾の感情表現が大げさすぎると思っていたけど、実際自分が獣人になると、制御のしようがないなコレ。
気のせいかもしれないけど、なんとなく跪くブラン様からオレに向けてのプレッシャーを感じる。
ブラン様には後でもう一度正式に謝っておこう。思った以上に苦労をかけていたっぽい。
大臣の追求に対して、ブラン様も説得する材料を思いつかないようだった。
ここでオレが何かを喋ったところで見たこともない獣人の戯言と一蹴されるだろうし、どうしたもんか。そう言えばトレットはなんだかんだで有名人っぽいし、こいつに説明させれば良いんじゃないか?
そんな事を思っていると、タトラさんが口を開いた。
「国王陛下、よろしいでしょうか?」
「なんだお前は」
「わたくしはパーズー帝国の使者。フィルデ氏族の長、タトラ=パンタ=フィルデです」
「獣人帝国の!?」
タトラさんの名乗りを聞いた大臣が唸る。
やっぱり帝国の氏族長というのはそれだけ影響力があるのだろう。ブラン様の時と異なり、大臣もタトラさんを無下に扱えない様子で口をつぐんでしまった。
まさかタトラさんが率先して発言するとは思っていなかったため、若干驚きながらも思わぬ方向からの助け舟に
「我が帝国にもすでに魔族が入り込み、国を転覆させようと画策していました。幸い、計画はイオリ……様の活躍により阻止できましたが、ブラン様のおっしゃるとおり、魔族の侵攻はすぐそこまで来ているのです。強力な魔族に対抗するには種族を越えた同盟が必要だと皇帝陛下はお考えなのです」
「し、しかし……」
タトラさんの言葉を否定することは、獣人帝国の主張を否定することになる。
大臣もすぐには判断がつかない様子で唸り続け、話は止まってしまう。
その時、突然扉が勢いよく開き、何者かが入ってきた。
「国王! ブランが謁見に来たというのは本当かっ!!」
振り返ると、ピンク髪の幼女が周りの静止も聞かずにズンズンとこちらに向かってきているではないか。
その姿に見覚えがあった。国境線でオレがピコっと昏倒させてしまった幼女将軍である。
幼女将軍はフレンドリーに両手を広げ、ブラン様を歓迎した。
「おぉ、ブラン!! よく来たな!」
「ブルニア様もお変わり無いようで。傷はもう大丈夫なのですか?」
「はははっ! あんなもの怪我のうちにも入らぬわ!」
にこやかに話すふたり。
あれ、幼女将軍とブラン様の関係ってもしかして結構親密なのか?
「ブルニア将軍! 王の御前ですぞ! それに辺境伯には内乱の疑いが……」
「お前、まだそんな事を言っておるのか。ブランがそのような事を画策する男では無いことなど俺も陛下も知っておるわ。国境での一件に関しても、結果として兵士にひとりの犠牲も出さず隣国の侵攻も抑えられたのだから気にするなと申してあるではないか。まあイオリの奴には今度会ったら再戦は申し込ませてもらうがな、はははっ!!!」
嵐のようにやってきた幼女将軍は、大臣の言葉を吹き飛ばす豪快さでなぜか大笑いする。
ブラン様の味方となってくれるのは大変ありがたいのだけれど、もう一度オレと戦いたいとか勘弁してもらいたい。
幼女将軍はブラン様の後ろに控えるオレたちに視線を向け、なぜかオレに近寄ってきた。
何も恐れのない真っ直ぐな瞳で見据えられ、思わずオレは視線を逸らす。
たっぷりオレを観察した幼女将軍は首を傾げとんでもないことを口にした。
「む……して、なぜお前は獣人の格好などしているのだ、イオリよ?」
「フニャ!?」
一度顔を合わせているとは言え、まさか獣人姿になっていることを一発で見破られるとは思っても見なかった。
他の人たちだってオレが伊織だと名乗ってから観察してやっと信じてもらえたというのに、何なんだこの幼女将軍。
「な、なんの事かニャー」
内心冷や汗をかきつつも、オレは平静を装いしらを切る。今はまだ幼女将軍がオレの事を疑っているだけで、完全にバレたわけではない。
なんとかその場をごまかそうとしていると、身体が自然と毛づくろいをしてしまう。
「将軍! どういうことですか!? イオリとは魔王を討伐した者の名でしょう!!」
「どうもこうも、この者はイオリであろう。なぜ獣人の姿をしているのかはわからんがな」
幼女将軍はオレが伊織であると確信を持っているようで、オレの下手な嘘などまったく信じていないらしい。
「まったく、このような精巧な耳など付けおって。……ふんっ!」
そう言って将軍はオレのケモミミを掴むと、力任せに引っ張った。
今までどんなに引っ張っても取れなかったケモミミカチューシャは、スポンと頭から外れ、オレは元のただの美少女の姿へと戻ってしまった。
「…」
「……」
「…………」
「………………」
突然変身したオレの姿に、周りの声が一瞬止まる。
そして、謁見の間に混沌が訪れた。
「ほう、頭飾りとなっているのか。相変わらずおもしろいことを考える奴だ!!」
「ブラン辺境伯!! これはどういう事だ!!!」
「こ、これは!!」
「オレの耳がぁ!!!」
「イオリさんの尻尾がぁっ!!!!」
「騒がしいのじゃ」
確かに一刻も早く元の姿に戻りたいと思ってたけど! なんでよりによって最悪のタイミングで元に戻ってるんだよ!!
次回
王の前でケモミミからただの美少女へと戻った主人公。
混乱する一同を鎮めたのは以外な人物だった。
伊織に対する王の裁きとは――




