第4話 戦闘開始
「ペガス……ね。その名前、嫌いなのよねぇ。獣人みたいで。あたしの本当の名前はリプル=リージュ。覚えておきなさぁい」
ペガス、もといリプルは翼をはためかせながら空中で器用に胸を寄せ上げ、頬に手を当てた。
この世界ではあまりお目にかかれないエロさを全面に出したお姉さんだが、その視線はオレたちを狩ろうとする捕食者の目をしている。
「お前は城で拘束されていたはずニャ……」
オレはエロ魔族の動きを警戒しながら、口を開いた。
たしかにこいつは一度オレたちが倒して行動不能になったところを捕まって鎖に繋がれたはず。
と、その手に視線を移すとホバリングするリプルの手首には手枷が嵌められたままだった。
「ああ、これ? 獣人の拘束なんてたかが知れてるわぁ。あたしにとってはこんなものおもちゃ同然」
オレの視線に気付いたリプルは手枷をまるで飴細工のように簡単に捻じ曲げ壊すと、無造作に投げ捨てた。
相変わらず、見た目からは想像できない馬鹿力だ。
しかも今は外で相手は自由に空が飛べる状態。
うーん。まともに戦うとなるとあまり良い環境とは言えないよな。
室内で戦ったときでさえ、ケモミミ魔法少女にでもならないと苦戦した相手だし。
こいつが引き起こしたっぽい帝都の煙も気になるが、今は怪力エロ魔族をどうにかするのが優先か。
ここなら以前戦った城内と違って遮蔽物もないし、多少暴れても大丈夫なはず。
そうと決まれば先手必勝。オレはおもむろに片手でピースサインを作り、顔に近づけるとアイドルっぽくウィンクした。
「キラッ! ニャ!!」
掛け声とともにオレの瞳が光り、丘ひとつ消し去る光線がリプル目掛けて発射された。
「きゃっ!!」
しかし、オレの奇襲はすんでの所でかわされてしまい、光線は雲を突き抜け空の彼方へ消えてしまう。
っち、外れたか。
円形にぽっかり穴の空いた雲を呆然と見ていたリプルは、口を開けてパタパタと間の抜けた格好で羽ばたいていたかと思うと、突然オレに向かって怒鳴りだした。
「ちょっと急に何するのよ!! 殺すつもりなの!!!」
「大丈夫ニャ。お前は可愛いから当たっても死なないニャ。多分」
「嘘よ! 明らかに殺しに来てたでしょ! なんなのよその魔法の威力は!! 元はヒト種で獣人の格好になったと思ったらバカみたいな魔法をポンポン使ってきて、あなた本当に何者なの!!」
自分は明らかに復讐しに来たくせに、自分が殺されそうになって抗議するとは解せぬ。
人を殺そうとするならせめて自分も殺される覚悟を持っていてほしいものだ。
オレは殺そうとはしてないし、もし重症になったら回復魔法ぐらいはかけてやろうと思っていたのでそんな覚悟は無いのだけれど。
「ニャに者って、どこにでも居るごく普通の一般人ニャ」
「嘘ですね」
「嘘なのじゃ」
「ふたりともひどいニャ!!」
リプルの質問に正直に答えたのに、後ろからタトラさんとトレットの否定が入った。
こんな時になぜ仲間から背中を撃たれなければいけないのか。
「このっ……寄ってたかってあたしをバカにして……」
オレたちのやり取りに、リプルはおちょくられたと思ったのか紫色の肌を赤黒く変色させ、頭から湯気を出し始めた。
オレは真実しか言っていないというのに。
今にも襲いかかってきそうなリプルを前に、ただ荷馬車の上で突っ立っているだけではさすがに危ない。
オレはトレットにある確認を取る。
「トレット、ぴーちゃんって戦えるのかニャ?」
トレットの召喚獣である巨大シマエナガのぴーちゃんなら空中戦も可能だろうし、モフモフで可愛いのでリプルを倒すことは出来なくても、きっと戦力になるはず。
「争いは好まぬが、戦えば巨大スライムともいい勝負なのじゃ」
……え? それってオレたちより強くない?
モフモフで大きくて可愛いからきっとこの世界では強いだろうと思っていけれど、想定よりヤバいぴーちゃんの実力を知り、オレは一瞬固まってしまう。
というか魔王と戦う時に召喚してくれていたら、オレ魔法少女になって苦しむことも無かったんじゃ?
オレの視線の意味を察したトレットは、召喚魔法の準備として踊りを踊りならが嘆息した。
「あの時変身したお主の力はぴーちゃんでも足元に及ばないほどじゃぞ。魔王もそれだけ強大な存在なのじゃが……。まあ魔族の小娘程度なら敵ではないのじゃがなっ!!」
たしかにあの時は無我夢中でスーパーな感じに二段変身までして居たけど、そこまで可愛さに違いがあったのか?
どうも自分では自分の正確な可愛さというのは把握しづらいものだ。
それでもぴーちゃんが頼もしい戦力となるのなら、怪力おばけのリプルとも戦いようがあるというものだ。
オレは魔法で荷馬車の縁に居るマオを召喚して空に飛んでもらうと、今にも襲いかかってきそうなリプルに対して迎撃魔法の準備を始めるのだった。
次回
街道で魔族娘対主人公パーティの戦いが始まる。
唸る巨大シマエナガのくちばし、飛び交う主人公の光線。
悪魔娘は戦いを生き延びることが出来るのか――




