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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
はじめての『可愛い』。
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第16話 森の賢者と異邦人

「――それで、お主は一体何者なんじゃ?」


 領主様に呼ばれた翌日。ゼフィーさんの乱入でうやむやになっていた約束のくまさんバーガーとリンゴパンのセットをしこたま作り、それを美味しそうに頬張っていたトレットが唐突に聞いてきた。


「何者って、どういう意味だよ」


 質問の意味がわからず聞きかえす。それは今までさんざん聞かれてきた事だ。しかし、オレがまともに答えたところで、それを理解できそうな人は居なかったし、相手の誤解を利用して「海の向こうの別の国からやってきた」で最近は通している。


「どういうもこういうも、そのままの意味じゃろ。今までワシが食べたこと無い料理を簡単に作り出し、可愛くて凶悪な武器を作り、挙げ句、あの魔法じゃ。あんなものワシでもそうホイホイ撃てるもんではないぞ」

「ふむ……」

「ワシの知る限り人間、いやエルフじゃろうが獣人じゃろうが、あのような所業ができるものなどこの世に存在せん。もう一度聞く、イオリ、お主は何なのじゃ? 本当に人間なのか?」


 そういうことか。「海の向こうからやってきた。詳しいことは自分でもわからない」で大概の人間は勝手に納得していたが、トレットはそうではないらしい。オレが普通ではない存在であると、その瞳は確信していた。

 こののじゃロリエルフ、歳と知識だけは無駄に多いようだし、ちょうど良い機会かもしれない。


「オレはただの普通の人間だよ」

「そのような戯言を」

「まあ待てって。オレはごく普通の人間だ。ただし、おそらくこの世界ではない世界の、だ」

「お主、この世界……プリティアの住人ではないと言うのか?」


 オレの望んだ反応がやっと返ってきた。世界の事をまともに聞ける相手が出来たのは嬉しいが、相手がトレットというのは釈然としないものがあるが。というかこの世界ってそんな名前だったのか。


「オレの話を信じるのか?」

「信じるも何も、お主がこの世界で普通に生まれた人間で、あのような所業をしたと言われるよりは、よっぽど真実味があるじゃろ」

「まあそう……なのか?」

「そうなのじゃ」


 トレットは今まで人への説明で一番のハードルだった問題を軽く流す。初めて、この迷惑エルフジジィが居て良かったと、不覚にも思ってしまった。


「お主は何の目的でこの世界に来た」

「それはオレが聞きたいよ。仕事から帰ってきて寝て起きたらこの世界に居た。しかも見た目が若返って男が気軽に女になるバカみたいな世界だったんだからな」

「可愛くなるのは普通じゃろ」

「普通じゃねぇよ!! 少なくともオレの居た世界じゃおとぎ話の中でしか聞いたこと無いわ!!!」

「ふむ、変わった世界もあるものじゃの」


 オレからしたらこの世界のほうがとんでもなく馬鹿げていておかしいのだが、それを突き詰めても文化の違いを見つける事にしかならないだろう。


「では、今までお主が作ってきたものはみな異世界の知識で作られているわけじゃな」

「まあそうだな。可愛いだけで強くなるような世界じゃないが、こっちよりは可愛いものに溢れていた……と思う」


 ブラック社畜時代には会社コンビニ家、会社コンビニ家のルーチンだけで、可愛いものも何も灰色の風景しか憶えていない。


「なんじゃ、曖昧な言葉じゃの」

「ここ数年――あっちに居た時のだが、その時は生きるだけで一杯一杯だったからな。仕事以外に意識を向けることなんてなかったんだよ」

「なんじゃ、プリティアよりも可愛いものが溢れておるならよっぽど栄えておるじゃろうに、殺伐とした世界じゃのー」

「まあな」

 

 日本とこちらの世界、どちらが幸せな世界かと言われると困ってしまうが、少なくともオレにとってはあの世界は生きづらかった。オレの口からあの世界はすばらしい、とはとても言えない。


「お主は元の世界へ帰らぬのか?」

「帰る方法が無いってのもあるが、オレはこっちの世界のほうが性に合ってるらしい。今は戻れたとしても帰るつもりはないな」

「ほほぅ。それはあれか、気になるおなごでもおるということかの?」


 日本のことを思い出し、即答するオレを見てトレットは何を勘違いしたのか下世話なオヤジっぽい笑みを浮かべてにじり寄ってくる。

 傍から見ればマセガキが恋人の有無を聞いてくるノリだが、中身がエロジジィな分、身振が数段気持ち悪い。


「バカ!! なに勘違いしてるんだよ!!! オレは純粋にこっちの世界のほうがだな……」

「順当に考えるのなら、サリィかゼフィーのやつじゃな。しかし、ここ数日見とるだけじゃがふたりとも脈は無いしの。……はっ、まさかワシか!? いやー、獣なのじゃー!!! 襲われるのじゃー!!! 人間の仔など産みとうないのじゃー!!!!」

「おいっ! どうしてそうなる!? そもそもゼフィーさんやお前は男だろ!! なんで当たり前に候補に入れてんだよ!!! オレはノーマルだ!!! それに、男同士じゃ子供も出来ないだろっ!!!!!!」


 確かに初対面でゼフィーさんにときめいたのは事実だが、おっさんの姿を見た時点で淡い恋心は儚く散ってる。サリィもいい娘だが、自分に興味のない相手にグイグイ行ってどうこうするほどオレは肉食系ではない。のじゃロリ変態クソエルフは論外だ。考えつく限りの理論で否定するのものの、トレットから返ってきたのは衝撃の事実。


「できるぞ」

「え?」

「じゃから、子供はできるぞ。何を言っておるのじゃ?」

「…………なん……だと……」


 え、待て、じゃあこの世界では男同士で子作りしてるのか? もしかして今まで出会った女の人もやっぱり実は可愛い格好で姿を変えた男だったり、アーッ!!!!! の末に産まれたって事か!?


「可愛さを維持することが難しい人間ではあまり無いようじゃがの。エルフならばまれにある事じゃぞ」


 びっくりさせやがって。いや、可能性が数%でもあるならやはり衝撃的なことだ。もしかしたらオレの貞操も狙われるかもしれない。今まで以上に身の守りは気をつけよう。うん。


「と、とにかく、オレは別に好きな相手がいるとかそういった事は一切ないが、この世界はちょっと、いやかなり……大分馬鹿げてて理不尽だが、あっちの世界よりは楽しんでいて、静かに暮らせればいいと思ってるんだよ」

「なんじゃ、つまらんやつじゃのう。可愛いものが溢れているという異世界について聞きたいことは山程あるが、お主が悪意を持った存在ではないというのであれば、ひとまず安心じゃな。わからんことがあればワシに聞くが良い」


 こんな変態ではあるが、元の世界のことを話せる相手が出来たことは、オレにとって幸運だったかもしれない。どんなにゼフィーさんや町の人達と打ち解けることが出来たとしても、理解されない秘密を抱えたままというのは息が詰まるものだ。

 暖かい何かを胸の奥に感じ、オレは少しだけトレットに優しくしてやってもいいかと思うようになった。


「……それでじゃな、お主の居た異世界、可愛いものが溢れておるということは、美味しい料理もいっぱいあるんじゃろ!!! 後生じゃ!!! ワシにその料理を食べさせてくれ!!! もし食べさせてくれたら一晩ぐらいお主の相手をしてやっても良いのじゃ!!!」

「うるさい!!! 滅しろこの変態エルフ!!!!!」

「なんでじゃー!!!!!!」


 前言撤回。この残念のじゃロリエルフには一発キツイのをお見舞いして、性根を叩き直さなければいけない。オレはピコハンを振り上げ、腰にしがみついた小さな頭に躊躇なく振り下ろすのだった。


次回


異世界の秘密をはじめて打ち明けた主人公。

ふたりの絆は深まり、今まで以上にピコハンが乱舞する。


かの日の約定を果たすため、伊織の甘味が唸る――

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