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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人帝国と『可愛い』。
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第53話 勝利の代価

 オレの連続肉球パンチを受けて気絶した宰相は、ロリっ娘小悪魔の姿から元のお姉さん悪魔風の姿へと戻った。

 コウモリ獣人になっていた時も気絶してこの姿になったのだから、お姉さん姿が本来の姿ということだろう。

 これだけ痛めつけれ当分自力で動くことなど出来ないだろうが、一応逃げられないよう適当な布を使って縛っておく。


「これで良し、ニャ!」


 パンパンと肉球、もとい手を払うとタイミング良く魔法少女の変身が解け、ただのケモミミ美少女の姿へ戻った。

 今までのこともあるし、しばらく魔法少女のまま元に戻れなくなるんじゃないかと思っていたのだが、どうやら杞憂だったようだ。

 宰相が動かないことを確認したラビ様が、恐る恐る寄ってきてオレを見る。


「本当にイオリ、なのだな」

「そうですニャ」

「そなたには一体どれだけ驚かされれば良いのだろう。あの夜、出会った娘に良く似ていると思っていたが、まさか本当にそなただったとは」


 ラビ様から妙な視線を感じる事はちょくちょくあったし、多分怪しまれているんだろうなとは薄々感じていた。

 宰相に怪しまれないためとは言え、ラビ様に獣人化の事を秘密にしていたのだ。オレは素直に謝る。 

 

「黙っていてごめんなさいですニャ。でもラビ様を騙すつもりはニャかったんです」

「良い、わかっておる。別に責めているわけではない」


 その言葉を聞いて、小さな胸のつっかえが取れた気がした。

 自然と気が緩み、顔にも笑みが浮かんだ。


「それにしても、ラビ様、演技がオーバーリアクション過ぎますニャ。本当に意識が飛んだのかと思ってひやひやしましたニャ」

「いや、演技ではないあまりの美味しさに意識が一瞬飛んでいたのだ。兄上たちに悟られずすんで良かったが、あれには余も内心生きた心地がしなかったぞ」

「ニャンですと!?」


 お子様ランチを食べてからリアクションまでの間が空きすぎていると思ったが、まさか本当に気絶していたとは。

 あれ、でも試食の時には気絶しなかったよな? 自分ではわからなかったが、本番とそんなに味に違いがあったのか。

 うーん、やはりまだ可愛い料理には謎が多いな。単純に可愛くなれば気絶しないってものでも無いとすると、何度も食べて味に慣れるしか無いのか。

 ひとり考え込んでいると、ちょんちょんと背中を誰かが突いてくる。

 振り向くと、トレットが何か言いたげな目線でオレを見ていた。


「何ニャ? トレット」

「イオリ、ガーデニアでの一件に関して聞くのではなかったのか?」


 ああ、そうだった。オレのそもそもの目的は、獣人帝国でガーデニアと隣国との戦争を煽っている存在を探し出す事だった。

 今までの言動から考えても本命は宰相だよな……。オレはふん縛った宰相の頬を肉球でペチペチと叩く。

 何度か叩いていると、首を揺すって宰相が目を開いた。

 状況が飲み込めないようで、宰相はせわしなく目線を動かしていたが、手足が拘束されている事に気づくと、観念したのか急におとなしくなる。

 頃合いを見計らって、宰相に詰問した。


「さて、ニャ。宰相、お前ヒト種の国に、ガーデニアにちょっかいを出したんニャ? 目的はニャンだったんだニャ!!」

「ふぅんあなたあの国の関係者なの……。うふふ、そんな事教えるはず無いじゃない。それよりもすぐに拘束を解きなさい。そうすれば教えてあげないこともないわぁ」


 宰相は顔だけを上げてオレを睨んでくるけれど、身体はオレの攻撃で骨抜き状態、しかも手足を縛られているのでまったく威圧感がない。

 この期に及んで高慢ちきな態度を取れるのには恐れ入るが、オレにとって必要な情報はすでに得られた。理由を言えないという事は、即ちガーデニアにちょっかいを出したこと自体は肯定したも同然だ。


「そうかニャ。なら、お前を倒せばやっぱりもうガーデニアにちょっかいを出す奴はいないってことニャな!」

「ちょっと! なんでそうなるの!? そこはもっと理由を聞くために交渉するところでしょ!!!」


 いい笑顔でそう結論づけたオレに、何故か宰相は慌て始め喚いている。

 しかし、オレが知りたかったのは事件の真相ではなく、獣人帝国の中で糸を引いている者を見つけ出し、二度とバカなことを出来なくする事だ。

 ラビ様が知らないと言っていたのだから、宰相の言葉は自分が首謀者だと自白したに等しい。


「オレの目的は別に必要ないニャ」

「ま、待ちなさい! あたしに何かあれば魔族を敵に回すことになるのよ。あなたにその覚悟はあるの!?」

「どうせ自由にしたら城から逃げ出して復讐するに決まっているニャ。今更だニャ」


 聞くことも聞けたし、宰相にはもう一度おやすみいただこう。

 力を貯めるように、オレはグリグリと腕を回す。


「何なのよあなた!! なんで腕を回してるの、待って、嫌、肉球はもう嫌ぁっっ!!!」


 拘束され、無防備な状態で肉球パンチを受けた宰相は無事気絶した。

 一連の騒動の首謀者も倒せたし、これでガーデニアが戦争に巻き込まれるような事もなくなるだろう。

 オレが心の中で一息ついていると、今度はタトラさんがちょんちょんと背中を突いてきた。


「イオリさん……」

「どうしたんニャ、タトラさん?」

「あの、言いにくいんですけど……口調が戻ってないです」

「……フニャ!?」


 タトラさんに指摘され、初めてオレはその事に気付いた。

 たしかネコ語になったのは魔法少女になってからで、今は普通の獣人姿。

 にも関わらず確かにオレはずっとネコ語のままだった。

 嫌な予感を感じながらも、オレは努めて冷静に事態を考察する。


「落ち着け、落ち着くんだニャ。オレ!! まだ慌てるような時間じゃニャい。きっと耳を取れば口調もとに戻る……ニャ!? な、なんで耳が外れないニャ!?」


 ケモミミカチューシャを取ろうとしたのだが、ケモミミはまるで初めからオレの頭に生えていたかのようにぴったりくっついて、どれだけ引っ張っても全然取れない。

 え、まさかオレはこのまま美少女の上、獣人として暮らさなきゃいけないのか?


「な、ニャンでだニャ!? 魔法少女からはすぐに戻れたじゃニャいか!! なんでなんニャー!!!」


 オレの魂の鳴き声に答えを出してくれる者はだれもいなかった。


次回

ガーデニアと獣人帝国の危機を救った主人公。

帝国を旅立つ彼に、白ウサギがかける言葉とは。


伊織のケモミミは元に戻るのか――

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