第52話 誕生! ケモミミ魔法少女
光に包まれたオレは、一瞬のうちに魔法少女へと変身する。
しかも、ただ魔法少女に変身するだけでなく、獣人化した耳や尻尾にまで本来無いはずのピンクのリボンが装着されていて、本来のシャイニーキュアーとは別の新しいケモミミ魔法少女になってしまっている。
変身が終わると、身体がひとりでに動き、決めポーズを取ってしまう。
「皆をいじめる悪い子はー、シャイニーキュアーがゆるさニャイ!!!」
決めポーズとともに光が弾け、キラキラと細かな粒子となって消えていった。
……ん? ニャイ?
自分の体をよく見てみると、なんかポージングも手招きしてるネコっぽい。
可愛い魔法少女になったのは間違いないのだが、ケモミミが加わったことでなんだかおかしな事になってないか。
「ふニャ!? ニャンで言葉が変にニャッってるんだ!?」
思考はまともなはずなのに、言葉として実際に口に出すと語尾がベッタベタなネコ語になっている。
慌てて口に手を当てるのだが、なぜかその手は肉球がとても柔らかい。とうか全体的に手が猫型グローブでも付けているかのようにネコ度が増していた。
感覚は自分の手そのままで、グーパーグーパーと開いたり閉じたりしても思った通り動く。
まさかラビ様のように二足歩行のネコになったのかと身体を見てみると、手足だけモフモフの毛並に覆われて、ケモ度が上がっているらしい。
オレが自分の身体の変化を確認していると、宰相が空気を読まず突進してきた。
「ちょっと可愛くなったからって、それがどうしたっていうのよ!!!」
「イオリさん危ない!!」
今までであれば目で追うことすら難しかった速度の攻撃だが、変身したオレにとっては余裕を持って対処できる程度のものだった。
宰相の攻撃を紙一重でかわし、皆を痛めつけたお返しにカウンターで蹴りを当ててやる。
「ぐぅっ!!」
あまり力を込めていないにも関わらず、宰相は身体を震わせ倒れ込んだ。
それは物理的なダメージと言うよりも、ピコハンで殴った時の反応に近いだろう。
可愛さによる暴力は肉体よりも、精神的なダメージが大きい。前に森の動物さんに可愛がられた時も、体の傷は大したことなかったのに全然起き上がれられなかったもんなぁ。
「魔族であるペガスを圧倒するとは……いや、それよりも何という可愛さだ。獣人はこれほどの可愛さを得ることができるのか……」
ラビ様は初めて見るであろう光景に驚愕し、オレの姿をまじまじと見てくる。
まさか思いつきで試してみたらこんな姿になったとは言えず、オレは倒れた宰相を注視してラビ様の言葉はスルーした。
「バカな、バカなバカなバカな!!! 魔王様のお力を授けられたあたしが獣人ごときに負けるはずないっ!!!」
一撃で戦闘不能になるかと思った宰相は、起き上がると同時にその反動を利用してオレに襲いかかってくる。
だが、宰相の攻撃をオレはことごとくかわし、かすらせもしなかった。
「ニャフフ、お前の動きはすでに見切ったニャ!!」
宰相の動きはたしかに早く、恐ろしい怪力だが身体能力に頼り切っているせいか動きは単純だった。
なにより、人を殺すとか物騒な事を口走っているせいで、せっかくの可愛さを自分から捨てている。
宰相が怒りに任せ拳を振るうほどにオレとの可愛さの差が開き、自分の首を自分で締めることとなるのだ。
「殺す!! 殺してやるっ!!!」
目を血走らせ、拳を振る宰相の姿にオレは大きくため息をついた。
「まったく、どいつもこいつも可愛さをまったく理解しニャイで……これでも食らって頭を冷やすニャ!!」
魔王と言い、ガーデニアや隣国の将軍と言い、可愛いければ可愛いほど強くなる世界でなぜそうポンポン人を殺そうとするんだ。
少し考える頭があれば自分の矛盾に気づくだろうに、この世界の権力者はホント馬鹿ばかりなのか。
湧き上がる怒りとともに、オレは肉球の拳を繰り出した。
「にくきゅうーぱーんち!!!」
「あぁぁっっ! でもっ、こんな攻撃ごときで……」
ぷにぷにの肉球をまともに喰らい、宰相はよろめく。
それでも倒れる事なくこちらを睨みつけてくるのだから、タフさも相当なものだ。
なので、こちらも遠慮なく全力で相手をしてやろう。
「連続にくきゅうぱんちニャァァァッ!!!」
「えっ、そんなの嘘でしょっ!?」
掛け声とともにオレは宰相目掛けて高速猫パンチを無数に繰り出す。
猫パンチの一撃を受けて弱っていた宰相は涙目になったがもう遅い。
「フニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャ……」
「きゃぁぁぁぁっっっ!!!!!」
獣人の身体能力から繰り出されるぷにぷにの肉球スタンプをまともに喰らい、宰相の頬がぷるぷる震える。
見た目は可愛いが、その一撃一撃が常人ならかすっただけでも昏倒させることも可能な衝撃を持つ猫パンチだ。
しこたま猫パンチを食らわせたオレは、止めに肉球アッパーカットを宰相のあごに当てた。
「フニャァァァァッッッ!!!」
白目をむいた宰相は、叫び声を上げることも出来ず宙を舞い床に倒れピクリともしない。
いかに宰相がタフだと言っても、さすがにこれだけの攻撃を受けたら当分意識が戻ることもないだろう。
「ふふん、バカにしてた獣人の力、思い知ったかニャ!!!」
「いや、お主はヒト種じゃろ……」
倒れた宰相を指差して決め台詞を言っていると、トレットから冷静なツッコミが入った。
次回
ケモミミ魔法少女となった主人公の力(物理)により宰相は倒された。
宰相を失った帝国はどのような道を進むのか。
魔族の野望を打ち砕いたイオリに白ウサギが告げる言葉とは――




