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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人帝国と『可愛い』。
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第50話 魔族の力

「あぁん、もっと食べさせてぇ……はっ!!!」


 妖しく身悶えていた宰相だが、しばらくして突然正気に戻ったらしく勢いよく身を起こした。

 皇帝はまだ回復する気配がないというのに、タフなやつだ。

 っていかん。あまりの事につい眺めてしまっていたが、行動不能になっている間にふん縛るなりしておけばよかった。

 紫肌になった宰相は、倒れた皇帝とオレたちの姿を見比べ、2、3度瞬きをした後、全てを悟ったように含み笑いを浮かべた。


「ふ、ふふふ……あなたたち……そう……ラビ様だけでこんな事できるわけ無いと思っていたけど、まさかこのあたしがしてやられるなんてね。ただの人間じゃないとは思っていたけど……」


 ゆらりと立ち上がった宰相は、コウモリの翼をはためかせ自分の黒いドレスに触れた。

 すると、ドレスは一瞬にして露出度の高いへそ出しレオタードのような衣装へと変わる。

 衣装を一瞬でどうやって変えたのか、理屈はわからないが新しいレオタードは、特徴のないドレスよりもはるかに可愛くなっていた。

 オレと同様、皆宰相の真の姿にあっけに取られていたが、いち早く立ち直ったラビ様が宰相の前に一歩踏み出し


「ペガス! そなたが何を企んでいるかわからぬが、正体を暴かれた以上何も出来まい。おとなしく縛に付けっ!」

「あーあ、せっかく時間をかけて面倒な準備をしてたのに、計画が台無しじゃない。だから、責任はとってもらうわよぉ?」


 しかし、宰相はラビ様の言葉を無視し、胸を寄せあげるように腕を組み嘆息した。そして、ちろりと赤い舌を出し妖艶に舌なめずりをすると、その殺気が一気に膨れ上がる。

 宰相は拳を振り上げものすごいスピードでオレに襲いかかかってきた。

 まさかいきなりオレに向かってくるとは想定していなかった。ヤバいと感じた時にはすでに宰相は完全に迫っていて防御も間に合わない。

 もうダメだと思った瞬間、白い軌跡がオレと宰相の間に割って入ると拳を受け止め、オレの代わりに壁に吹っ飛ぶ。


「どこを見ておる! 貴様の相手は余だ!! ……ぐあっ!!!」

「きゃははっ!!! どんなに可愛くなっても、所詮獣人は獣人よぉっ!! 世界一可愛い魔族にかなうわけないじゃない。そんなに死にたいならラビ様、あなたから地獄に送ってあげるわぁ!!」


 オレをかばったのはラビ様だった。

 壁に叩きつけられ、倒れたラビ様にオレは駆け寄る。


「ラビ様っ! 無事ですか!?」

「ああ、そなたにリボンを貰っていなければ危なかったがな……うぅっ!」

「ああもう無茶をして、今治すから動かないでください! トレット!! そっちは頼んだぞ!!!」


 オレはラビ様に回復魔法をかける。しかし、ダメージが大きいのか1回ではあまり効果がなく、オレは宰相の相手をトレットに任せて回復魔法を重ねがけしていく。

 トレットはラビ様を回復するオレを守るように立つと、手招きをして宰相を挑発した。


「しょうがないのぉ。小娘、ワシがしばらく相手をしてやるのじゃ。光栄に思うが良いのじゃぞ」

「エルフごときが……ん、トレット? ……まさか!! 魔王様の封印に加担したクソエルフ!?」


 人の神経を逆なでするトレットの挑発は魔族にも有効なようだ。宰相は怒りの矛先をのじゃロリエルフに向けたのだが、その名前を聞いて目を見開いた。


「なんだお前、魔族にまで名前を知られてるなんて有名人だな」

「ワシを誰だと思っておるのじゃ。当たり前じゃろう。とはいえ、魔族なんぞに知られても嬉しくないのじゃ」

「そう、あのトレット=タルがまさか生きていたなんてね。でも丁度いいわ。魔王様を封印した憎きエンシェントエルフを殺せば、魔王様もさぞお喜びになられるでしょう!!」


 いや、たぶん魔王は今はもうそんな事考えられないと思うけどな。

 オレは周囲を飛んで様子をうかがうマオを見て心の中でツッコミを入れた。

 この様子なら宰相は当分トレットを狙うはず。その間にオレはラビ様の治療に集中する。


「痛いの痛いの飛んでけー飛んでけー、飛んでいけー……もう大丈夫そうですね」 

「あ、ああ。しかしこれほどの傷を一瞬で治すとは……そなた本当にヒト種なのか?」


 回復魔法の連続で、完全とはいかないまでもほとんどダメージの無くなったラビ様は自分の身体を触りながら不思議そうにオレを見てきた。


「ええ、ただの一般人です。オレぐらい可愛い人間……ヒト種なんていくらでも居ますから」

「なんとっ!? にわかには信じられぬが……」


 ラビ様はオレの言葉に驚いているが、実際オレの可愛さはこの世界のものではない知識に寄るところが大きいわけで、同じ知識を得た人間が増えれば突出した可愛さなんて無いと思っている。


「獣人とヒト種の可愛さの違いなんて、そんな絶対的なものじゃないですよ。獣人の中でだってラビ様みたいにリボンひとつで可愛さが変わるんですから」

「確かに、その通りだな。可愛さは絶対ではない……ヒト種との付き合い方も考えねばならぬな」


 オレがあげた耳の赤いリボンを指差すと、ラビ様は納得したように深く頷いた。

 と、ラビ様といい感じに話をしていたら、宰相と戦っていたトレットから怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「イオリ!! 回復が済んだのならこっちを手伝うのじゃ!!! いつまでもワシに任せておくでない!!!」

「死ねぇっ!!!」


 宰相の攻撃はトレットの張った魔法の障壁に阻まれているが、結構な攻撃力があるようでトレットは障壁を張る以外身動きが取れなくなっていた。

 障壁が破られる様子はないが、双方決め手にかける状態では埒が明かない。

 愛らしい子ウサギとなったラビ様も一撃で吹き飛ばしたし、魔族の姿になった宰相の力はそれだけ強力だってことか。


「ラビ様、ラビ様はここで休んでてください」

「しかし、これは我が国の問題。そなたたちだけを戦わせるわけには……」

「大丈夫です。獣人帝国代表はちゃんと居ますから。ね、タトラさん!!」

「は、はい! がんばります!!!」


 オレの言葉に、皇帝を部屋の隅にこっそり避難させていたタトラさんは力強く返事をした。

次回

真の姿を現した宰相の可愛さの前に苦戦する主人公たち。

しかし、宰相はさらなる力を開放し、主人公たちに襲いかかる。


伊織が放つ起死回生の一手とは――


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