第46話 ラビ様の真っ赤なリボン
「うーん、中々耐性ってつかないもんだな」
ラビ様に可愛さマシマシの特性料理を食べ続けてもらっているのだが、成果は芳しくない。
昨日のくまさんバーガーでは、あまりに回復までの時間が長すぎて途中で監視中のマオに帰ってきてもらったしな。
あまり大げさな反応を取られると、本番で毒見役としてラビ様が料理を食べても皇帝も宰相も警戒して料理に手を付けないだろう。
献立を考えつつ、オレはポツリと呟いた。
「やっぱり、さらにラビ様には可愛さをさらに高めた料理を食べないといけないかなぁ」
「お主、この状況でさらに可愛い料理を食べさせようとするとは、鬼すぎるじゃろ……」
隣でそのつぶやき聞いていたトレットがドン引きしながらオレを見てきた。
なぜちょっと可愛さを詰め込んだ料理を食べさせているだけでそこまで言われないといけないのか。
「鬼って、だた可愛い料理を食べてもらってるだけだろ。そりゃ、食べた後しばらく行動不能になるけども」
「それはお主が可愛すぎる料理を味わったことがないかなのじゃ! 快楽も過ぎれば苦痛になるんじゃぞっ!!」
何度か可愛すぎる料理の被害にあっているトレットの抗議は真に迫っていた。
オレだってガーデニアと隣国との争いを止めるため可愛い料理を利用したのだから、一応可愛すぎる料理が危険なことはわかっている。
わかってはいるのだが、それは理屈としてなのだ。自分で料理を作っているとそんな大げさに騒ぐほどの味なのか、とどうしても思ってしまう。
オレも自分で作る以上、ちゃんと料理として味見もしてる。美味しくなる魔法をかけた料理はたしかにものすごく美味しいけれど、なぜ他の皆が料理を食べただけであれほどダメな感じになるのか、イマイチ理解できていない。
「そうは言ってもな、オレの作るものなんて素人料理なわけだし、元の世界の料理に比べたら可愛くないしなぁ」
「お主の料理で可愛くないとか、本当にどんな世界だったのじゃ……。これ以上可愛い料理があったら、食べただけで死人が出かねんのじゃ」
実際、たまにネットで見かけるおしゃれな流行りのスイーツとかよく覚えていないが、それはもう可愛さの塊のようなものだった。それに比べればくまさんバーガーも、そこまで可愛いわけではないのだが。
少し日本の事を思い出し、なんとなく天井をぼんやりと見つめてしまう。
日本にいる頃は「マスコミの情報に踊らされて、食べ物ひとつのために並ぶなんて馬鹿らしい」とか思っていたが、今となっては一度ぐらい食べておけばよかったな……。
っと、いかんいかん、脱線してしまった。今はラビ様の問題を解決に意識を向けなければ。
といっても、可愛すぎる料理で人が死ぬとかはマズいので、別の方法を考えなければならない。
「料理を可愛くしないってんなら、どうしろっていうんだよ」
「まずは外見の可愛さを高めてやればよいじゃろ。元々その予定じゃったろう」
「まあそうなんだが……」
トレットの指摘にオレは言葉を濁す。
宰相との対決のためのもうひとつの準備、ラビ様の外見改造計画はあまり進んでいない。というかぶっちゃけ何も良い案が思いつかなかった。
例えば、タトラさんは身体が大きな美少女なわけで、可愛い服を着た姿はいくらでも思いつく。
対して、ラビ様は二足歩行できて、言葉が喋れることと大きさを除けば完全にウサギと区別がつかない。
そのままでほぼ完璧に可愛いラビ様に似合う服装がどうしてもわからないのだ。
計画の当初、真っ先に考えたのは服も着ない自然な姿なのだが、皇帝もラビ様もきちんと服を着ているのだから、超えちゃいけない一線というものがあるのだろう。
「うーん、とりあえずリボンをつけてもらうか」
「いい加減なやつじゃのぉ」
「仕方ないだろ。外見がほぼウサギって、それ以上どう可愛くすれば良いんだよ」
「ワシが知るわけ無いじゃろ」
トレットとそんな事を話し合った結果、オレは用意した料理と共に赤いリボンの頭飾りをマオに運んでもらう事にした。
いつものように召喚したマオに料理とリボンの入ったカゴを渡す。ちなみに今日はオムライス。仕上げにトマトソースを煮詰めた簡易ケチャップでハートマークを描いた特性のものだ。
「マオ、頼んだぞ」
「きゅぴー!」
マオはカゴを咥えると、ラビ様の待つバルコニーへ飛んでいく。
バルコニーに降り立つと、マオはカゴを置きリボンを咥えてラビ様の元へ向かった。
『よく来た。む、なんだそれは?』
『きゅぴっ!』
ラビ様の元へ駆け寄ったマオは、リボンを差し出し頭につけるようジェスチャーで伝える。
マオが、と言うか実際には召喚したマオを通してオレが伝えているわけだが、ラビ様にはマオが自分で動いているようにしか見えないだろうな。
『そうか。これを余に身に着けろというのか。まさか、余がヒト種の真似事をするとはな……。いや、そうではないな。これは新しい獣人の姿なのだ。ならば余がその第一歩を踏み出してみせようっ!!』
獣人にとって己の可愛さはとても重要なもの。それは獣人にとって誇りであり、地位が高くなればなるほどその傾向は強くなる。それでもラビ様は獣人としての古い誇りを捨て、新しい道を見出そうとしたのだ。
真っ赤なリボンを耳に付けたラビ様は光りに包まれ、徐々に背が縮んでいく。
ふかふかの毛並みの中にあった力強さが消え、代わりにふっくらとした丸みが現れる。
光が消えた後には子供の、おそらく女の子になったラビ様の姿があった。
ただでさえ可愛かったというのに、可憐な子ウサギとなったラビ様の可愛さは見るものすべての心を虜にする可愛さに溢れていた。
……あれ、獣人って可愛い格好しても性別変わらないんじゃなかったのか?
次回
主人公の渡したリボンによって可愛い子ウサギへと変身した白ウサギ。
愛らしいその姿に、主人公の胸は高鳴る。
白ウサギの変化は獣人帝国になにをもたらすのか――




