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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人帝国と『可愛い』。
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第41話 皇帝の力

 予期しない白ウサギ様の同席というイベントがあったものの、皇帝へお子様ランチを振る舞うという予定に変更はない。オレはワゴンからお子様ランチを取り出しテーブルの上にどんどん並べていく。

 試食の予定者は皇帝と宰相、タトラさん、それに飛び入りで参加した白ウサギ様だけなのだが、最終的にテーブルの上に乗ったお子様ランチは10皿を越えた。

 皇帝たちだけでは到底食べきれなさそうな量のお子様ランチだが、これは、皇帝や白ウサギ様が大食らいと言うわけではなく、毒殺を防止の為の宮廷の決まりだという。

 たしかに、皇帝がどの皿に手を付けるのかわからなければ毒を盛ることも難しいし、当然毒見役が先に食べるのですべての皿に毒を盛っても意味がない。

 見た目ほぼウサギの王様のメルヘンな食卓で毒殺を警戒するとかかなりシュールなのだけれど、この世界は見た目が可愛いだけで実際はかなりシビアな弱肉強食世界なので仕方がないだろう。

 テーブルに所狭しと置かれたお子様ランチをガン見して、トレットが無言でよだれを垂れ流しているが、タトラさんの従者という設定のオレたちが一緒に食事をするわけにもいかない。

 皇帝たちが食べた後、余った料理はすべてマオと山分けにしていいと伝えているのだから、食い意地の張ったのじゃロリエルフでもおとなしくお預けをできるはず。

 毒見役を兼ねているのか、白ウサギ様が初めにお子様ランチの皿をひとつ手に取り、口に運んだ。


「うむ、これはうまい。それに、なんと可愛らしい盛り付けだ」 


 エビフライをまるで人参でもかじるようにせわしなく口を動かしながら食べた白ウサギ様は目を見開いてお子様ランチをまじまじと見つめた。


「お褒めに預かり光栄です」

「このような料理は余も初めて見た。これはそなたが考えたものなのか?」


 うやうやしく頭を下げるタトラさんに、白ウサギ様はあれこれとお子様ランチの事を尋ねる。

 その間にもチキンライスやらハンバーグをついばんでいるので、余程気に入ったらしい。

 この世界の料理は可愛く盛り付けるだけでバカみたいに美味しくなるのに、あまりそうした技術は発展してないみたいだからな。

 皇族であっても可愛い料理を食べるのは初めてなのかもしれない。


「いいえ、こちらに控えます私の従者が考案した料理でございます」

「なんと、その娘がこれほど見事な料理を……」


 白ウサギ様の視線がこちらを向くが、オレは心を無にしてただ静かに目を伏せ会釈をするだけに留めておく。ここで下手に目立ってしまい、後にタトラさんが皇帝に話しかけるチャンスを逃してしまえば、何のためにわざわざ料理を作ったのかわからなくなってしまう。

 白ウサギ様の様子を見て、黒ウサギな皇帝も宰相のお姉さんに命じ、自分の皿を取らせた。

 皇帝も白ウサギ様同様にエビフライを取ると、サクサクとかじっていく。 


「ほう、これは……!!」


 気だるげで何にも興味のなさそうだった皇帝が、初めて感情らしい感情を表に出した。

 ふふふ、お子様ランチの美味しさに恐れおののくが良い。

 とは言え、初めて可愛い料理を食べたにしては、ふたりとも反応は普通だな。

 トレリスの街でゼフィーさんやサリィに初めてくまさんバーガーを食べさせた時にはものすごいリアクションが起きたのだが、やはり皇帝になると普段からそれなりに良いものを食べているのか、それとも本人が可愛いので可愛い料理にも耐性があるのだろうか。


「まあ、これは本当に美味しいですね」


 皇帝にお子様ランチを供した宰相のコウモリお姉さんも、自分の皿を取ってチキンライスを口に運ぶと顔をほころばせた。

 タトラさんの言ったとおり、お子様ランチは獣人帝国の上層部に食べさせても十分通用する味なのは間違いなさそうだ。


「ペガスも気に入ったか。……よし、その者を宮廷料理人として召し抱えることとする」

「えっ!」

「なっ!?」


 これなら多少タトラさんの話も聞くだろうと思った矢先、皇帝がとんでもないことを言い出した。

 一口お子様ランチを食べただけで、宮廷料理人とか、この皇帝何を考えているんだ。

 皇帝の発言にタトラさんは固まってしまい、動けそうにない。

 仕方なく、オレは口を開き自分から辞退しようとした。

 

「あの、せっかくの申し出ですが、オレ……私はタトラ様の従者が性に合っているので、宮廷料理人には――」

「貴様、ヒト種の分際で皇帝である我に口を利くか」


 遠慮がちに辞退を申し出たオレを、黒ウサ皇帝の視線が射抜く。

 その時、それまで感じることのなかった強烈なプレッシャーがオレを襲った。

 くっ、この皇帝、伊達に可愛いわけじゃないな。今までまったく覇気も感じなかったのに、まるで巨大スライムに睨まれているような圧を感じる。

 じわりとにじみ出る背中の冷や汗を感じながら、どう対処するべきか悩んでいると白ウサギ様が間に割って入ってきた。


「兄上、嫌がる者を無理やり召し上げたところで、本来の力を発揮させることは出来ないでしょう」

「黙れ。この耳曲がりの出来損ないがっ!」


 皇帝の視線は白ウサギ様へと移り、両者の間に見えない火花が散る。

 なんでただお子様ランチを作っただけでこんな面倒な事が起きるのか。

 一触即発の緊張感の中、オレは心の中で頭を抱えた。

次回

主人公の料理に端を発したウサギ兄弟のにらみ合い。

白と黒、勝つのはどちらのウサギなのか。


ウサギ兄弟の衝突は帝国に何をもたらすのか――

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