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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
はじめての『可愛い』。
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第14話 トレットちゃんの魔法講座

「いやじゃー!!!! 森には帰らんのじゃー!!!! こんな食べ物食べたら帰られるわけ無いじゃろー!!!!! 責任を取るのじゃー!!!!!!」

「なんだよ責任って……」


 リンゴパンを初めて作り、オレ以外が全員ダメな感じになってしまった翌日。目当ての料理も食べさせてやった事だし、邪魔なのじゃロリ変態エルフジジィを森に帰そうと思ったのだが、こいつが駄々をこねた。のじゃロリことトレットは、今もオレの足にしがみついて離れない。

 こいつ毎度駄々をこねまくるが、本当にすごいエルフなんだろうか。本人はエルフの中でも高貴で偉いんじゃ! と力説していたが、今の姿を見る限りただの迷惑ジジィ以外の何物でもないんだが。


「いいから帰れよ。エルフなんだから森で何かすることがあるんだろ」

「何を言うておる!!! うまいものを食べること以上に重要な事などこの世に存在せんわっ!!!!」


 うわ、言い切ったよこののじゃロリエルフ。それにさっきから引っ剥がそうとしているのに、全然足から離れない。この小さい身体のどこにそんな力があるのか。


「そうは言っても、街にいてもお前仕事なんて出来ないだろ」

「なんじゃと! ワシにできん事などあるわけなかろう!!」

「……接客業」

「なんじゃそれは。ふむ、店で品物を渡す役? 欲しい物があれば一言言って勝手に持っていけばいいだけじゃろ」

「やっぱ無理じゃねぇか!!!!」


 予想通り、こいつはこのまま人の街に放っちゃだめな奴だ。ちなみに、ゼフィーさんとサリィは厄介事に首を突っ込む趣味は無いようで、先程から目線をそらしてお茶をすすっている。気持ちはわかるけど薄情じゃない?

 トレットとの不毛なやり取りもいい加減疲れてきて、無意識のうちに腰のピコハンに手が伸びてしまうのも致し方ない事だった。

 

「まてっ!! 待つのじゃ!! 暴力はいかんっ!!! ……そう、魔法!!! ワシは魔法を使えるんじゃぞ!!!! 人なぞ、いいや、エルフとて相手にならぬ大魔法使いじゃぞ!!!!!」

「ほぉ、魔法か」


 トレットが必死の形相で訴えてきたその言葉に、ピコハンを振りかぶっていたオレの手が止まる。色々突っ込みどころはあるものの、モンスターやエルフなんていうファンタジー世界の住人が居るのだから、その存在があるかもとは前々から考えていた。

 しかし、実際にこの世界の住人、しかもエルフの口から魔法という単語が飛び出すと、俄然興味が湧いてくる。

 手を止めたオレを見て、トレットが畳み掛けるように自分の有用性をアピールしてきた。


「そうじゃ、ワシがおればどんな強力なモンスターが来ようと返り討ちにしてやるぞ!!!」

「お前、魔法を教えることもできるのか?」

「お主は人間じゃからの、エルフほどの使い手にはなれんじゃろうが、その可愛さなら使えんこともないじゃろ」


 普通、魔法なら魔力の資質がどうとか言うんじゃないかと思ったが、よく考えたら可愛くなるだけで美少女になったり、おもちゃのピコハンがめちゃくちゃ強力な武器になる世界なのだ。関係があってもおかしくない……のか?


「そういう事なら、オレに魔法を教えてる間は食事の世話をしてやろう」

「本当か!! やったのじゃー!!! これでくまさんバーガー食べ放題なのじゃ!!!! リンゴパンも食べ放題なのじゃっー!!!!!!!!!」


 そういう事になった。もちろん、食べ放題は無しだ。


◆◆◆


「それでは始めるとするかの」


 トレットと街の滞在に関して魔法の伝授で取引が成立した後、オレは早速魔法を教えてもらおうと草原にやってきた。オレとトレットが一緒にいると何が起こるかわからない、ということでゼフィーさんも監視として付いてきている。

 トレットはともかく、オレは危険なことなどしていないというのに、全く心外だ。


「お前、ほんとに教えられるのか?」


 先生役となったためか、トレットはどこから用意したのかわからない偉そうな帽子をかぶり、やはりどこから用意したのかわからない台に乗ってふんぞり返っている。

 ……ノリで取引してしまったが、よく考えたらこいつが人に何かを教えることってできるのか? 冷静になって考えてみると、このタイプは感覚だけで「そこをボーン」とか「バーンっとするんじゃ」とか言いそうな気がしてきた。

 疑いの眼差しを向けていると、トレットが睨み返してくる。


「おい、イオリ。お主これからものを教わろうと言うのに、いつまでもお前とか失礼じゃろ!」


 非常識の塊に常識を語られた。しかし、言っていることはまともなだけに、反論しづらい。それを肯定と取ったのか、トレットがなんども頷き言葉を続ける。


「そうじゃのう。……本来なら綺麗で可愛いトレット様と呼ばせるところじゃが、お主らは特別にトレットちゃんと呼ぶことを許してやるのじゃ。ほれ、言ってみるのじゃトレットちゃーん、と!!!」


 違った。やっぱりこの残念のじゃロリエルフに常識なんて無かった。


「いいから早くしろのじゃロリ」

「トレット殿、先を続けてください」

「お主らワシの扱いがひどすぎるのじゃ!?」


 オレだけでなく、とうとうゼフィーさんにも軽くあしらわれたことにショックを受けつつ、トレットはしぶしぶといった様子で魔法についての説明を始めた。


「まったく、エンシェントエルフであるワシをなんだと思っておるのじゃ……まず、魔法の基礎からじゃ。身体の中にある可愛いを感じとる。それを体内で高め、放出することで魔法となるのじゃ」

「なんだよそのバカみたいな設定……」


 呆れるオレを無視して、トレットは大真面目で話を続ける。しかし、これは本当に基礎教養らしく、ゼフィーさんも当たり前のこととして聞き流している。


「見ておれよ、ワシぐらいのものとなればこの通り……ちちんぷいぷい炎よいでよ!!!」

「おぉ」

「さすがはエルフ。これほどの炎を操れるとは……!!」


 トレットは珍妙なポーズとともに口に出すのも恥ずかしいコッテコテの呪文を唱えた。

 ガンガンとオレのやる気を削いでいく光景だが、呪文とともにトレットの身長程の高さのある炎が現れた。炎はかなりの高温らしく、そばにいるだけでじんわり汗が吹き出してくる。

 オレもゼフィーさんも炎に釘付けとなる。すごい。……すごいことはすごいのだが、オレにはどうしても一点だけ気になってしまうことがあった。


「……その呪文、唱えないといけないのか?」


 どんなに魔法が強力で便利でも、あんな恥ずかしい呪文とポーズはオレには無理だ。


「呪文無しで魔法が発動するわけ無いじゃろ。流派はいくつもあるが、可愛さを高めるためには身振りと呪文は必須じゃ!!」


 ダメらしい。やはり魔法は諦めるしか無いのか……いや、まて。トレットの話からすると、呪文もポーズも可愛ければなんでも良いって事だよな? それならばと、オレは記憶の糸をたぐり、可愛らしいポーズを思い出してみる。


「……キラッ★彡」


 某アイドルを思い出しながら、可愛いポージングでウィンクをしてみると、目から一瞬光線が発射され、視線の先にあった木が爆発した。


「な、何しとるんじゃお主ぃぃぃぃっっっっっ!!!!!!」

「え、あれで魔法出るの……」


 試しにポージングしてみただけで木が跡形もなく引き飛んでしまい、あっけにとられるオレだったが、トレットにとっても予想外の出来事だったらしい。台に乗って身長差が無くなったことを良いことに、オレは襟首を捕まれガシガシ揺すられた。ゼフィーさんに至っては絶句して呆けている。


「どうやったらあんな短い呪文でアホみたいな火力が出せるんじゃ! お主魔法は知らんと言ったではないかっ!!!」

「呪文って長いほうが良いのか?」


 そんな事を言われても冗談でポージングして「やっぱり出ないか。あははー」というオチを狙っていたのだから、こっちだって被害者なのだ。何か責められるような筋合いはない。


「当たり前じゃ! 可愛さを重ねる事によって魔法の威力は高まるんじゃぞ!! あれほどの威力を出そうとしたらどれだけの時間がかかると思って……」

「可愛くて時間がそれなりってなると、魔法少女の必殺技とかかなぁ。えっとたしか……」

「……まて、お主何をしようとしておる!? 必殺技って何じゃ!!!!」


 初めてで魔法が出たのはちょっと驚いたが、大体の仕組みはわかった。これならトレットの恥ずかしい呪文よりは幾分マシに使えるだろう。

 たしかに、さっきの魔法は人に向け使おうとするととんでもない威力だが、対モンスター用の魔法と考えるなら、もう少し強力な魔法があっても良いかもしれない。

 可愛い魔法と言えば魔法少女、という安直な発想で、オレはニチアサに放映されていた魔法少女ものの決め技を再現してみる。


「皆をいじめる悪い子には星のお仕置きだよ! 星々の祈りを込めて、えーい、キューティーシャワー!!!」


 何か言っているトレットの手を振りほどき、記憶の中にある魔法少女の振り付けをできる限り再現しながら、ステッキ代わりにピコハンをくるくると振り回し、ポージングをキメた。


カッ!!!!


 眼前で無数の星が瞬き、何かが膨れ上がると、ゼフィーさんと共にトレリスの街を初めて眺めた思い出の小高い丘が消失していた。


「……あれ?」

「なにしとるんじゃぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!」


 トレットの悲鳴にも似た絶叫があたりに響き渡る。ゼフィーさんも固まったまま動かなく……よく見たら気絶してる!? これはちょっと、いや、だいぶまずいかもしれない。


次回


秘めた力を暴走させ、丘を消し飛ばした主人公。

己の強大すぎる力を知り、彼は何を思うのか。


伊織の両手に手錠が迫る!?――

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― 新着の感想 ―
[良い点] キラッで木が爆発したところ [一言] ここ大笑いさせていただきました やはり超時空シンデレラは強かった
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