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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人帝国と『可愛い』。
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第37話 バルコニーの邂逅

 それはまさに二足歩行のウサギ、としか言いようのない生き物だった。

 全身がもふっとした白い毛に覆われており、肌が見える部分はない。

 やたらキラキラするローブを着ているため、全身のスタイルはよくわからけれど、ローブの下から覗く足はスラリと長くもふもふで可愛らしい。

 くりっとした黒くつぶらな瞳に、愛らしい口元。長いウサ耳はてろんと左右に垂れ下がっており、それがまたウサギの可愛さを増大させている。

 人の言葉を喋っているところを見ると、このウサギも獣人なのだろうが、ここまでケモノの姿に近い獣人は初めて見た。

 見た目はすごく可愛いし、可愛さ至上主義の獣人としては良いことなんだろうがとにかくインパクトがある。

 まるで、ピーターなラビットをそのまま人間サイズにしたようなウサギは先程と同じく、質問をしてきた。


「そなたは一体どこからやってきた?」


 あまりに衝撃的な絵面に硬直していたオレは、自分の置かれている状況を思い出した。

 まさかバカ正直に城からの逃亡経路を偵察中ですというわけにもいかない。

 答えに窮し、オレは明後日の方向を向きながら適当な嘘をついた。


「あー、月が綺麗だったのでちょっと夜の散歩を」


 ……言ったあとでさすがに言い訳にしても苦しすぎると自分でも思ったが、すでに後の祭り。

 なお、月は雲に隠れて全く見えなかったりする。

 ウサギが何者かわからないが、城の関係者であることは間違いない。これは偵察に出て早々に逃げなければいけないか。 

 ピコハンを握りしめ逃げ出すタイミングを図るオレに、意外にもウサギは誰かを呼ぶようなことはせず、手招きをした。


「そうか。そなた暇であろう。少し余に付き合うが良い」

「はあ……」


 下手に兵士でも呼ばれては面倒なので、言われるままオレはウサギの隣に寄る。

 ウサギはじっくりオレの全身を眺めると、ひとりで何かを納得していた。


「ふむ、なかなかの毛並みだ。それに愛らしい顔立ちをしている」

「あ、はい。ありがとうございます」


 ウサギには妙な圧力があり、思わず敬語になってしまう。

 なんというか、ウサギさん……ウサギ様? と言ったほうがしっくり来る。

 ウサギ様は何を考えているのか、初対面であるオレによくわからない質問をしてきた。


「そなた、この国をどう思う?」

「そうですね……豊かな国だと思います」


 これは本心だ。獣人帝国は帝国の名前を冠するだけあって、非常に栄えている。オレの知るガーデニア王国や、獣人王国であるパーズーと比べても、おそらく帝国が一番強大な力を持っているだろう。

 しかし、だからこそおそらく見えないこともあるのではないだろうか。


「ただ、問題も多くあると思っています」

「ほう、申してみよ」

「帝国は可愛さを至上としていますが、反面可愛くないものに対しての扱いが過酷です」

「それはこの世の理だろう。帝国に限ったことではない」


 ウサギ様はせっせと毛づくろいをしながら、反論をする。

 可愛らしい仕草とは対象的に、その言葉は重い。

 確かに、ウサギ様の言うことも間違いではない。人間だってより可愛いスライムには無力だし、森の動物さんにだってじゃれつかれただけで死にそうになる世界だ。


「ええ。ですが、可愛くない者だって可愛くなる可能性を持っているのです」

「どういうことだ?」

「先程あなたは私の毛並みを褒めましたが、この姿は本来の私の姿ではありません。この装飾品で可愛さを高めているのです」


 頭のリボンを撫でながらオレはウサギ様の反応を伺う。


「なんと、そなたはどこからどう見ても愛らしい娘なのだが、本当か?」


 ウサギ様は目を見開きオレをまじまじと見てきた。

 可愛さどころか性別も種族も変わっているわけだが、今ここで元の姿に戻ると色々台無しになりそうなので外したりはしない。

 ウサギ様はオスっぽいし、高感度が高そうなのは可愛さによるところが大きそうだし。


「帝国はこれだけ豊かなのですから、可愛くない者に対しても手を差し伸べられるのではないでしょうか。せめて可愛くなるための手助けぐらいはできるはずですし、それは帝国にとっても利益となります」

「可愛さが足りずとも有能な者は多く居る、そのような者でも可愛くなれるのであれば役職への登用も可能か……」

 

 ウサギ様は顎に手を当て思案し始めてしまった。

 簡単な説明をしただけだと言うのに、ウサギ様の理解度はすごい。

 すべてを言わなくてもその先を自分で見つけてしまうようだ。


「なるほどな。して――」


 続けて何かを尋ねようとした所でウサギ様は部屋へと視線を移し、短くオレに言い放つ。


「む、人が来る。そなたもここで見つかっては面倒なことになるであろう。早く身を隠すが良い」

「えっ!! 」

 

 その言葉にオレは慌ててバルコニーから飛び出した。

 去り際にウサギ様はオレの背中に声をかけてくる。


「そなたの話は中々に面白かった。また来るが良い」


 オレは振り向くこと無く手をふる。

 偵察はあまりできなかったが、ここは客室へ戻ったほうが良いだろう。


「……結局誰だったんだろう。あのウサギ様」


 壁を蹴りながら、オレは白いもふもふウサギ様の事を考えるのだった。

次回

夜のバルコニーで謎のウサギとの邂逅を果たした主人公。

ウサギとの出会いは主人公に何をもたらすのか。


皇帝との謁見が始まる――


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