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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人帝国と『可愛い』。
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第29話 親子対面

 館の中へは意外なほどあっさりと入ることが出来た。

 まあ、街の入口でひと悶着起こしているし、コドさんが無理やり街に招き入れたのだから屋敷に連絡が入っていてもおかしくないのか。

 最悪、タトラさんが氏族長であるオヤジと話し合えるよう屋敷の警備をオレたちがひきつけておこうかと身構えていたので、何の障害もなく屋敷の中に通されると肩透かしを食らってしまう。

 タトラさんにも荒事になるかも知れないからわざわざいつもの旅装束から可愛い衣装に着替えてもらい、それを隠すため上からマントまで羽織ってもらったというのに、無駄になってしまった。

 てっきり門前払いをされるものだとばかり思っていたのに、タトラさんのオヤジは何を考えているんだろうか。

 しかも、館の中に入っても案内役がつくわけでもなく、監視されている様子すら無い。

 オレたちは、タトラさんを先頭にしてコドさん、オレとマオ、最後にトレットと並んでだだっ広い廊下を歩く。館で暮らしていたタトラさんたちは迷いなく進み、立ち並ぶ扉の中でもひときわ豪華な扉の前で止まった。

 ノックすること無くコドさんがうやうやしく扉を開け、タトラさんは躊躇なく部屋の中へと入っていく。

 オレたちも後に続くと、中には立派なたてがみを持った壮年男が居た。正確な年はわからないが、たてがみやシッポを見る限り、ライオンの獣人っぽい。ガッチリした体型で、背丈こそタトラさんより頭ひとつ小さいもののにじみ出るオーラは重苦しく、只者ではないことがわかる。

 男は部屋へ入ってきたオレたちを見ても微動だにせず、悠然と椅子に座りまっすぐオレたちを見ていた。

 ライオンとトラで違いはあるものの同じ猫系の獣人だし、タトラさんの反応を見る限りこの男がオヤジで間違いなさそうだ。

 タトラさんはオヤジと同じように部屋に入ってから微動だにせず視線を相手に注ぐのみ。

 久しぶりの父と娘の再会だと言うのに、ふたりの間には冷たい沈黙が続いている。

 事情はタトラさんから聞いているため涙を流して抱き合うなんてことは無いのは百も承知だが、あまりに長い沈黙のため息が詰まりそうだ。

 傍で見ているこっちが先に参ってしまいそうなにらみ合いの末、先に口を開いたのはタトラさんだった。


「お父様……いえ、レオ様、お久しぶりです」

「……何をしに来た。お前はすでに氏族を追放された身。いまさら戻ってきた所で意味などあるまい。早々に立ち去るが良い」

「なっ!!」


 タトラさんの言葉に、オヤジは感情を見せない淡々とした口調で突き放す。

 久しぶりに再会した実の娘に対してあまりな言い草に、思わずオレは声を上げてしまった。

 タトラさんから近くに居てくれるだけで良いと言われていた事も忘れ、オレは一歩前に足を出す。

 文句のひとつも言ってやろうと前のめりになるオレをタトラさんが手で制し、無言で首を振る。


「話が終わればすぐに去ります。帝国が他国をそそのかし、戦争を先導しようとした事はご存知ですか?」

「ほう?」


 タトラさんの言葉にピクリ、とオヤジの眉が跳ね上がった。

 その心中は読み取れないが、ともかく話し合いには乗ってきたらしい。


「そのような事、一体どこで知ったのだ」

「ここに居るイオリさんの住まうガーデニア王国に隣国が攻め込もうと準備をしていました。侵攻自体は阻止しましたが、その時敵の将軍が帝国の名を口にしたんです」


 タトラさんのオヤジは瞑目して話を聞いていたが、話を聞き終わるとタトラさんに尋ねる。それはあまりに信じがたいものだった。


「そうか。……それで、仮にその言葉が事実だったとして何が問題なのだ?」

「なっ、サファラ帝国が戦争を煽っているのですよ! 大陸に争いの火種をわざわざ作るような事をするのは間違っています!!」


 さすがにタトラさんもオヤジのその言葉は理解できないのか拳を握り叫ぶ。

 だが、対するオヤジは今度は眉ひとつ動かさずタトラさんの言葉を受け流した。


「どちらもの国も獣人の国家ではないのだろう? いや、仮に獣人だったとしても可愛さこそが帝国の理。帝国の行いでどの国が戦火に巻き込まれようと、何の問題があろうか。負けた国は可愛さが足りなかっただけのこと」


 あまりに違いすぎる価値観に、思わずオレは絶句した。

 ガーデニアのおっさん幼女将軍も大概脳筋の可愛さ至上主義者だったが、このオヤジはその上を行っている。獣人帝国はこんな考えのものばかりなんだろうか。

 良くタトラさんはこんな中で捻じくれずに育ったものだ。


「そんな、いたずらに争いを生んで何があるのいうのです! 多くの人を苦しめておきながら己のことしか考えない。そのどこに可愛さがあるというのですか!! お父様っ!!!」

「可愛さのために人があるのではない。絶対の可愛さを持つ者に支配されてこそ世は保たれる。帝国はそうして秩序を保っているのだ。お前とてそれはわかっているだろう」


 オヤジの口調からは徐々に呆れがにじみ始めた。これは平行線どころか、水と油レベルで土台が違いすぎるぞ。

 思った以上に深い思考の溝をタトラさんも感じているだろう。それでも彼女は諦めず言葉を尽くす。


「違います!! あたしの、ずっとイオリさんたち見てきた可愛さはそんなものじゃなかった! 可愛いからと言って他者を支配して良い事にはなりません! それは可愛さを自ら投げ捨てる行いです!!」

「戯言を。話はそれだけか? ならば去るが良い。ここはお前の居るべき場ではない。そして二度とこの地に足を踏み入れるな」


 オヤジはそこでタトラさんの話を打ち切った。

次回

獣人親子の話し合いは失敗に終わった。

失意に染まる獣人娘の肩に主人公はそっと手を置く。


獣人娘の嘆きに伊織が動く――

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