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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人帝国と『可愛い』。
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第25話 イオリの子守唄

「それで、オレたちはどこに向かえば良いんです?」


 獣人帝国の街の宿に一泊し、十分に休息をとったオレたちは翌朝すぐに旅支度を整える。

 いつもなら街をもう少し観光したり、なにかしら商売をするところなのだが、タトラさんには明確な目的地があるようだし、ゆっくりするのは目的地に着いてからになるだろう。


「……」


 オレの質問にタトラさんは答えず、何かを悩んでいる様子だった。

 名前を呼んだところでようやくオレの存在を思い出したのか、顔を上げると慌てて目的地の説明をし始めた。


「タトラさん?」

「あ、はい! 次の場所ですよね。街から南西に向かうと大きな森が見えてくると思うんですけど、その森の中にカナフと言う街があります」

「じゃあ目的地はそこで?」

「はい。お願いします」


 タトラさんは頷くとまたうつむき黙ってしまう。

 昨日の夜もあまり寝てない様子だし、すこしリラックスできる何かがあれば良いのだけれど、そう簡単には思いつかない

 それにしても、帝国の南西の街か。獣人帝国へついてきて欲しいと言ったタトラさんの話っぷりから、オレはてっきり獣人帝国の帝都を目指すものだとばかり思っていたが、どうやら違うようだ。

 カナフという街に何があるのかも気になるが、無理に聞ける様子でもないしなぁ。

 色々と考えつつも、身体はいつものように自然と朝食を作っていた。

 問題もわからないことも多いが、腹が減っては何もできない。

 昨日作り置きしたトマトソースを使って、簡単にオムレツを作る。


「ほれ、トレット朝食だぞ」

「うむ……」


 出来上がったオムレツをトレットに渡すのだが、こっちはこっちで元気がない。

 お子様ランチが当分食べられないと知り、目に見えてテンションが下がっている。

 お子様ランチひとつで意気消沈するエルフってのもどうなんだ。しかもこいつエルフの中でもめちゃくちゃ年寄りだというのに、反応がまんま子供で扱いに困る。

 いつもなら十分文句を言わない水準の料理であるというのに、一度ごちそうを食べてしまうとこうも反応が変わるものだろうか。


「ほら、移動はぴーちゃんに頼ることになるんだから、しっかり食べろよ」

「わかっておるのじゃ……」

「ほら、タトラさんも」

「はぁ……」


 タトラさんにもオムレツをわたすのだが、やはり心ここにあらずと言った様子で食事が非常に重苦しい。


「きゅぴー!」

「マオ、お前だけだな。元気なのは」


 床に置いた皿からオムレツを食べるマオだけは、いつもとかわらない様子で元気が良い。

 気まずい食事をなんとかやり過ごし荷馬車に乗って街を出ると、しばらく適当な場所まで進み、人気がないのを確認してからトレットが召喚魔法で巨大シマエナガのぴーちゃんを呼び出す。

 昨日と同じように、移動中だけでもタトラさんを寝かせようとぴーちゃんの背中で休むことを進めてみたのだが、タトラさんは首を横に振り荷馬車に乗ると言って聞かない。


「でも、昨日もあまり寝てない様子だし、少しは休まないと」

「いえ、大丈夫です。荷台に乗ります」


 頑ななタトラさんに負け仕方なく全員荷台へと乗り込み、トレットに合図する。

 ぴーちゃんがひと鳴きして空へと飛び立ったのだが、やはり荷馬車の中の空気は重い。

 せめてタトラさんをリラックスさせられないかと考えていると、ふと名案が思いついた。

 タトラさんを呼び、オレはポンポンと膝を叩く。


「タトラさん、タトラさん」

「なんですか?」

「ここに頭をおいてください」

「はあ、」


 意図がわからず、首を傾げながらもタトラさんは素直に従って頭をおいた。

 オレはタトラさんの頭を撫でながら、子守唄を歌い始める。


「ねーむれ、ねーむれ、ふーふふふふーん」

「イオリさんなに……お……ふにゃ……」


 少し抵抗されたが、ほどのなくタトラさんは眠りに落ちる。

 よし、うまく効いたようだ。

 魔法を併用した子守唄はバッチリ効果があったらしく、タトラさんは穏やか寝顔で寝息を立て始めた。


「お主、強引じゃのお……」

「寝不足で体調を崩されるより良いだろ」

「まあの」


 オレの子守唄による強制睡眠にトレットが呆れた声を出すが、移動中息が詰まりそうな重苦しい空気の中で過ごすよりもずっと精神衛生上良いだろう。

 トレットも呆れているもののオレの行動自体は否定せず、そのままオレの子守唄を聞きながら移動が続いた。


「む、あれがタトラの言っておった森かの?」

「おお、早いな。一日で着くのか」

「おそらくじゃがな。降りるぞ」

「ああ」


 地上に着陸すると、ぴーちゃんから降り周囲を確認すると、平原の先に大きな森林が広がっていた。森林にはそこそこ大きな道ができており、人の手が入っていることがわかる。

 

「森の入口近くに大きな街があったのじゃ。多分それじゃろ」

「そうか。タトラさん、起きてください。着きましたよ」

「ふにゃ、……あれ! あたしまた!?」

「やっぱり疲れてたんですよ。無理しないでください」

「うぅ、ごめんなさい……」


 魔法をかけたことは覚えてなさそうなので、自然とタトラさんが寝てしまったと言う方向で話をすすめる。

 耳を垂れ、気落ちするタトラさんを励ましつつオレたちは森林の道を行く。

 森の中というとエルフの里へ向かう途中、可愛い動物さんたちに襲われたトラウマがよみがえり見が固くなるが、幸いこの森はそういった危険な動物は見た限りでは存在しない。

 木漏れ日が差し込む穏やかな雰囲気の良い道をのんびり進んでいると、道の脇に居た女性が突然馬車に駆け寄ってきた。

 何事かと身構えていると、女性は手綱を引くタトラさんを見て目を見開きその名前を呼んだ。


「ああ、やっぱり! タトラ様!! タトラ様じゃございませんか!!!」

「コド!」



次回

獣人娘に駆け寄る謎の女性。

彼女が語る獣人娘の過去とは。


獣人娘の秘密が明かされる――

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