第24話 お子様ランチとのじゃロリエルフ
「おいしいのじゃー!! すごいのじゃー!!!」
「とってもおいしいです!!」
トマトが手に入ったので気まぐれでお子様ランチを作ったら、のじゃロリエルフがドハマリしてしまった。
一度食べ始めたトレットは、すごいと美味しい以外の言葉を発すること無く感涙しながらお子様ランチを口に運んでいる。
確かに、作った自分で言うのも何だが、盛り付けもワンプレートのお子様ランチとして中々可愛く盛り付けできていると思うし、幼女姿のトレットなら気に入りそうだと思っていが、あまりにハマりすぎていてちょっと引く。
タトラさんはダメな感じになって倒れることもなく普通に美味しそうに食べているだけなので、可愛すぎて中毒症状があるということでもないと思う。
「おかわりなのじゃ!!」
またたく間に食べ終えたトレットが元気よく皿を突き出してくる。
しかし、オレはその皿を突っ返した。
「いや、もう無いから」
「何故じゃ!?」
この世の終わりでも来たかのような表情で見られても、単純明快な理由があるのだ。
「何故って、お前もう3回もおかわりしたろ、もう材料がない」
無い袖は振れない。と言うか最初に盛り付けしたときからお子様ランチ風ではあるが、トレットに出したサイズは大盛り一人前だったし、それを3回も食べたら余裕を持って作った料理もさすがに底をつく。
空になった鍋を見せてやれば諦めるかと思って鍋をひっくり返して何も残っていないアピールをしてみたのだが、なおもトレットは食い下がってくる。
「くっ、……ならば食材を買い足して……っ!!!」
「量は十分食べたろ、そもそももう店が開いてないぞ」
いかにこの街が都会とは言え、夜もふけて市場は閉まっている。酒場ぐらいは探せばあるだろうが、食材を買うことはもちろんできない。
八方塞がりの中、物欲しそうにトレットはオレのお子様ランチに熱い視線を送ってくるのだが……。
「人の分を狙ったらさすがにピコるぞ」
「わ、わかっておるわ!!!」
ピコハンに手をかけ威嚇したからか、わずかに残っていた理性が押し留めたのか、襲ってくることはなかった。
一体、お子様ランチの何がそこまでトレットの琴線に触れたのか、食事への執着はいつものことだが、今回は特に諦めが悪いようだ。
トマトソースで炒めたナポリタンもどきを食べていると、恨めしそうに見ていたトレットがさらに無茶を言い出す。
「くぅぅ……ならば! おいっイオリ!! ワシは毎日、いや毎食これが食べたいのじゃ!!!」
「ダメだ、めんどいし時間がかかる」
今回は異世界で初めて手に入ったトマトにテンションが上ってつい色々作ってしまったが、毎回複数の料理を一度に作るとかやってられない。
「いーやーなーのじゃー!!!ワシはお子様ランチが食べたいのじゃー、後生じゃから毎日お子様ランチを作るのじゃー!!!」
自分の中では随分譲歩したらしい提案を一蹴され、トレットはついに床に寝転んで駄々をこね始めた。
こいつの中身、本当にいつから生きているのかわからないジジィなんだよな? 目の前のダメ幼女エルフを見てると信じられないのだけれど。
「だいたい、なんでそんなに気に入ってるんだよ。お子様ランチ……とはいかないまでも、料理の盛り合わせなんてなんてそう珍しくないだろ」
「こんなに可愛い盛り付けの料理がそうそうあってたまるか! 初めてこれほど完璧な料理は見たのじゃ!!!」
キレ気味に返され、どうしたもんかとタトラさんを見ると、困惑気味に教えてくれる。
「普通盛り合わせは酒場のおつまみか、そうでなければ余程のお金持ちや貴族でなければ食べないです。そんなに一度にいろいろな種類の料理を食べることなんてまず無いですし、盛り付けを可愛くするなんてなると……」
そういえばこの世界の食文化はあんまり発展していないんだった。
くまさんバーガーですらトレリスの街どころか、王国軍の中でもなんだか革命的な料理だって認識されてたし、可愛さを料理と結びつけると言う考えがそもそもどの国にもないらしい。
その上、複数の料理を一度に食べるなんてめったに、どころか下手したら一般人では一生ないかも知れないと。
そう言われるとトレットの反応が過剰なのもわからくはない……のか?
それにしてはタトラさんはあんまりびっくりしてないし、反応が違いすぎだろ。
「はあ、なら仕方ないな……」
「ようやくお子様ランチを作る気になったのじゃなっ!!!」
「そんな訳あるか! 何かのお祝い事でもあれば作ってやるよ」
オレの言葉に今度こそトレットは力尽き床に倒れ込むのだった。
次回
街での休息で英気を養った主人公たち。
獣人娘の導きで彼らは再び大空へ飛び立つ。
獣人娘が再会した者とは――




