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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人帝国と『可愛い』。
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第12話 ゼフィーさんとの語らい

 突然叫びだしたオレをゼフィーさんは怪訝そうに見つめてくる。


「どうしたのだ、急に?」


 通信施設がまったくないこの世界で、外界と接触のない場所に居たのだ。仕方ないこととは言え、全く周りの状況が理解できていないゼフィーさんの姿にオレは頭を抱えた。


「サリィが戦争で大変だっていうから来てみたら、こんな……」

「サリィ? そう言えば聞きそびれていたが、何故イオリはこんな所に居るんだ? お前はトレット殿と共にエルフの里へ行っていたはずだろう。それに、そちらの方は?」


 思わず口から漏れた愚痴に反応して、今度はゼフィーさんが質問を始めた。

 まあ、必要な情報は大体聞けたし、こちらの事情も説明するか。

 脱力しながらオレはなんとかテーブルにあごを乗せ顔だけでゼフィーさんを見つめる。 


「詳しい話は省きますが、オレはトレットとエルフの里から獣人の国へ旅をしてたんですよ。こっちは途中で知り合ったタトラさんです」


 目配せするとタトラさんがゼフィーさんに礼をして自己紹介をした。


「旅商人をしているタトラ=パンタです」


 タトラさんがの表情がやや呆れ気味に見えるのは、オレの気のせいではないだろう。

 ゼフィーさんが悪いわけではないが、ゼフィーさんを助けるため危険も顧みずサリィがオレたちを探した原因がコレでは仕方がない。


「トレリスの騎士、ゼフィー=ラサスだ」


 あいさつは形式的なそっけないものとなってしまったが、ゼフィーさんも悪い人ではないので、落ち着いたらまた交流する機会でも作るとしようか。

 ふたりの自己紹介が終わった所でオレは話を戻す。


「それで、タトラさんと一緒に旅をしていたら、サリィが獣人王国までやってきたんですよ。ひとりで」


 その言葉に、それまで冷静だったゼフィーさんが椅子を蹴りテーブルを叩いてオレに食って掛かる。


「なんだと!? サリィがそんなっ!! サリィ、サリィは無事なのか!?」

「落ち着いてください。大丈夫です。大丈夫ですから!! サリィは傷一つ無く元気にしてます!!!」


 必死になだめ、何度もサリィの無事を伝えると、ゼフィーさんは力なく椅子に身を投げた。

 

「サリィがなぜそんな……」

「国境線に出兵してから一度も便りが届かないってサリィが言ってたんですけど」

「ああ、見ての通り連日陣の騎士や兵士がひっきりなしにやってきて休む暇もなかったのだ。にらみ合いとは言え、いつ戦闘が始まるかわからない。これも国のためと皆を鼓舞し、身を粉にしてくまさんバーガーを作っていたのだが……」


 さすがに自分のいままでの行動を鑑みて周りにどれだけ心配をかけていたのかようやく認識したゼフィーさんは意気消沈し肩を落とした。

 サリィに一向に便りが届かなかったのはそのせいか。将軍直々の指令では張り切るのも無理ないが、もう少し目に見える範囲以外にも気を使ってほしかった。

 最悪ゼフィーさんはすでに戦死したんじゃ、とか、もしそんな事になっていたらサリィになんと言えば良いのかまで考えていたのが、なんだか馬鹿らしくなってしまう。

 ずっと溜め込んでいたもろもろの感情が、口からため息とともにすべて溢れ出てしまった。


「はぁーーーーー」

「なんだ、さっきから急に叫びだしたと思ったら今度はため息をついて」

「オレだって、サリィから話を聞いてからゼフィーさんに何かあったんじゃないかって気が気じゃなかったんですよ。それにオレのせいじゃないかって」


 完全に愚痴になっているが、一度気が抜けるとどうしようもない。

 足をぷらつかせ、口を尖らせるオレを見てゼフィーさんが小さく頷いた。 


「ああ、ビキニアーマーの事か。確かに、ビキニアーマーを生み出したのはお前だが、それを採用したのはブラン様だ。派兵の通達を受け志願したのは私の意思。それに、武具を生み出した者に責任があるなどおかしな話ではないか。鍛冶師がいなければ戦争が起こらないわけでもあるまい?」


 理屈の上ではそうかも知れないが、オレはそこまで冷静に割り切れないしゼフィーさんたちに何かあったら、きっと自分を責めていただろう。

 それでもゼフィーさん本人からオレのせいではないと言われたことで、少しだけ心のつかえが取れたような気がする。

 なんとなく気力の回復したオレは、居住まいを正しゼフィーさんに派兵の期間について尋ねた。


「それで、いつ帰れそうなんです?」


 ゼフィーさんは顎に手を当て、眉を寄せた。

 もしかして派兵期間って結構長いのか?


「そうだな、隣国の兵が引けばすぐにでも戻れるだろうが、奴ら何を考えているのか、まるで何かを待っているかのように微動だにしないのだ。このままではトレリスへいつになるのか検討もつかない」

「え、じゃあ」

「場合によっては1年になるか2年になるか……」

「えぇ……」

 

 さしあたって見の危険がないとは言え、それはさすがに長すぎじゃないだろうか。

 見た所こっちの軍だけでも結構な兵士が居るし、これだけの人数をただ隣国の見張りのためだけに置いておくなんてトレリスの街だけを見ているとそんな余裕のある国には見えないんだが。

 オレの表情から何を言いたいのか察したゼフィーさんは苦笑した。


「だから、場合によってはだ。長期になれば順を追って人員の交代や規模の削減は当然ある。その時、我らの順番がどうなるのかまでは検討もつかないがな」


 それでも予定は未定と変わりない。ひとまずゼフィーさんの無事は確認できたし、一旦オレたちは分かれていたトレットたちと合流して事情を説明したほうが良いかも知れない。

 ゼフィーさんも忙しいとは言え、これでなにも便りをよこさないなんて事はなくなるだろうし、サリィもゼフィーさんが無事だとわかればおとなしくトレリスの街へ戻ってくれるだろう。

 オレにできる事と言えば後はふたりの連絡役ぐらいだ。

 ゼフィーさんに「サリィへ何か言付けがあれば伝えます」そう提案しようとしたその時、天幕に可愛らしい子供の声が響いた。


「頼もう!!! ゼフィーは居るか!!! バーガーだ! くまさんバーガーくれ!!!」


 小さな身体から発せられているとは思えないほどバカでかい声でゼフィーの名を呼ぶのは、豪華で可愛い鎧に身を包んだ元気いっぱいの幼女だった。

次回

騎士との語らいの中に突然やってきた活発幼女。

幼女との出会いは主人公に何をもたらすのか。


謎の幼女が伊織に告げた言葉とは――

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