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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人帝国と『可愛い』。
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第11話 くまさんバーガーの虜

 顔見知りの警備兵は客引きをしながら手際良く、くまさんバーガーを並んでいるお客の兵士たちに手渡していく。

 兵士は皆可愛い鎧に身を包んでおり、美少女ばかりだから絵面はさながら人気のバーガーショップに並ぶ学生たち、みたいな感じだが、おそらくここに居る殆どが男だ。異世界生活で研ぎ澄まされたオレの本能がそう告げている。

 と言うか、何してるのこの人たち。目の前に敵軍の陣があってにらみ合いをしていると聞いたのに、なんでくまさんバーガーを求めて並んでんの?

 意味のわからない光景に呆然としていると、警備兵の人が先にオレに気付き驚きの声をあげた。


「イオリ殿!? なぜあなたがこんな所に!?」

「あー、なんて言えば良いんだろう。とりあえずゼフィーさん居ます?」

「隊長ですか? それなら今奥でバーガー用のくまさんパンを焼いていますが……」


 まさかと思ったが、ゼフィーさんもこのトンチキな光景に一枚噛んでいるらしい。

 痛む頭を押さえながら、警備兵の人にゼフィーさんを呼んでもらうようお願いする。


「それじゃゼフィーさん呼んでもらえます?」

「はあ、隊長ー! ちょっと来てくださいー!!!」


 警備兵の人が奥に向かって叫ぶと、いつもの可愛い鎧に身を包んだおねーさん姿のゼフィーさんが姿を表した。

 なぜか鎧の上から可愛いクマのアップリケ付きのエプロンをして、白い粉にまみれた姿でだが。

 ゼフィーさんは周囲を確認し、眉を寄せると警備兵の人に文句を言う。


「何だというのだ。今は仕込みの最中だから緊急事態以外の呼び出しはするなと言っているだろう」


 警備兵の人は指でオレを指し、つられて視線を移したゼフィーさんは不思議そうに首をかしげた。


「……む、イオリではないか。どうしてこんな所に?」

「どうしてって……それよりなんなんです、コレ」


 どこから突っ込めば良いのかわからない状況に、オレは脱力しゼフィーさんを眺めた。

 オレがトレリスの街を旅立った時と変わらず真面目そうでカッコ可愛い姿だ。粉まみれになって居ることを除けば元気そうだし、それは大変よろしいことではあるのだが、ほんと何が起こっているのか全然わからん。


「ああ、それはだな……」


 ゼフィーさんが屋台からオレの側へ歩き出そうとした所で、屋台の奥から誰かの悲鳴に近い叫びが聞こえてくる。


「隊長!! もうすぐパンが切れそうです!!! 早く補充をお願いします!!!!」

「なんだと! すぐ戻るっ! 焼き上がった分はすぐ切れ込みを入れて具を挟むんだ!! 絶対に品切れを起こさせるな!!!」


 まるで戦場のような緊迫感を醸し出しながら、ゼフィーさんはオレを手招きした。


「すまんイオリ、手を貸してくれ!!」

「えぇ……」


 なんだかよくわからないまま、オレはゼフィーさんに促されるまま屋台の中に入りくまさんバーガー作成を手伝わされてしまう。

 同じく状況の理解できていないタトラさんがファべの引く荷馬車とともに突っ立っていたが、その事にオレが気づくのは客の波が引き、一服ついた後だった。


◆◆◆


 粉まみれになったら身体を払い、屋台の脇に設営されていたゼフィーさんたちの天幕の中でオレとゼフィーさん、それにタトラさんがテーブルを囲む。

 ゼフィーさんのお供でやってきた他の人達は夜の仕込みのための準備に取り掛かっているそうだ。

 差し出されたお茶をすすりつつ、オレは改めてゼフィーさんに尋ねた。


「それで、なんでゼフィーさんが屋台なんかしてるんですか」

「話せば長くなるのだが、良いか?」

「いいですよ、もう」


 ゼフィーさんとしては同席しているタトラさんが気になるようだが、まずはゼフィーさんの話から聞かないとオレの精神衛生上よろしくない。

 なにをどうすればこんなことになるんだ。


「事の起こりはお前が旅立ったあと王都よりやってきた使者がトレリスの街に出兵の養成を……」

「あ、その辺は知ってるんで良いです。陣に来たところからで」

「む、」


 話し始め早々にオレは待ったをかけ、余計な前置きを省くよう促した。

 話の腰を折られたゼフィーさんは少し眉をひそめるが、すぐに気を取り直し話を再開した。


「……我々は遠征に耐えられるギリギリの人員でやってきた。普通、遠征では戦力となる騎士や兵士だけでなく、生活に関わる人員も一緒に連れてくるものなのだが、我々は国から要求された最低限の戦闘要員しか準備できなかったのだ。当然、人手も足りないので、自ずと自分たちで料理を作ることになる」

「はあ」


 軍隊の事などまったくわからないオレは、なんと反応して良いのかわからず、気の抜けた返事を返す。


「幸い、最低限食料の配布はあったが、街の食事に慣れてしまった我々にはただのパンなどでは物足りない。そこで、故郷を懐かしみながらくまさんバーガーを作っていたら、他領の騎士から「変わった食べ物だ、ぜひひとつ分けてくれ」と言われてな」

「はあ」

「くまさんバーガーを食べた騎士は「天にも登るうまさだ」と喧伝し、他領の騎士だけでなく兵士もくまさんバーガーを求めてやってくるようになった。噂は今回の指揮をとっている将軍にまで届き、将軍までもがくまさんバーガーを所望されたのだ」

「はあ」


 理解しようと努力はしているものの、肝心な情報が耳を素通りして中々頭に入ってこない。いや、言っている意味はわかるんだ。理解できないだけで。


「くまさんバーガーを食べた将軍はいたく味を気に入ってくださってな。士気向上のためと特別にくまさんバーガーの販売を許可してくださったのだ」

「……それで、くまさんバーガーをせっせと売ってると?」

「うむ、出兵にかかる費用がかさみ、どうしたものかと頭を悩ませていたのだが、見ろ、売上もこの通り上々で出費を嘆くどころかかなりの収益を街に持ち帰れるかも知れないのだ」


 ゼフィーさんはとても良い笑顔で出納帳を見せてくれた。


「あほかぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!!」


 限界に達したオレは、思わず力の限り絶叫してしまった。

次回

国境線に陣取る国の兵たちはくまさんバーガーの虜となっていた。

呆れる主人公の前にさらなる衝撃が待ち受ける。


伊織の精神はこの状況に耐えきれるのか――

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