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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
獣人帝国と『可愛い』。
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第7話 再会、商人さん

 サリィの活躍で巨大シマエナガ飛来の混乱はひとまず最小限に抑えられた。

 街に危険がないとわかった兵士の人たちは、わらわらと詰め所から出てきてオレたちを囲む。

 久しぶりの再会で積もる話はあるものの、今はトレリス近隣を統べる領主のブラン様にゼフィーさんの事を聞かねばならない。

 挨拶もそこそこに、オレたちは街の中へ入る許可を求めた。と言ってもオレとサリィは元々街の住人だし、トレットも一度街を訪れている上、封印されていた魔王が復活し、街を襲おうとした際にはオレと一緒に魔王を討伐したという実績があるので何の問題もない。

 唯一タトラさんだけ初めて街に入ることになるが、オレたちの知り合いで旅商人だと説明するとすんなり通してくれた。まあ、兵士の人たちは初めて見るらしい獣人に興味津々だったので、オレたちがいなくてもタトラさんならすんなり通してもらえたかも知れないが。

 街の中へ入ると、オレたちはひとまず領主様の屋敷を目指す。

 獣人の街に比べ良く言えば素朴な、悪く言えば田舎臭い木製の家が立ち並ぶ街並みが妙に懐かしい。

 オレの知る街の風景と違う点があるとすれば、至る所にくまさんバーガーの屋台が立ち並んでいることぐらいだろうか。

 くまさんバーガーはオレが考案して普通のハンバーガーを可愛くすることで味を向上させたものだ。街の名物料理になればとレシピを公開したのだが、まさかこれほど広まるとは思っていなかった。たしか、オレが街を出る前は市場ぐらいにしか屋台は出ていなかったはずなんだが。


「……すごい屋台の数だな。こんなにたくさん店があって潰れないのか?」

「うん。町の人たちは皆1日1回は絶対くまさんバーガーを食べるし、多い人になると3食くまさんバーガーを食べる人まで居るからこれでも数が足りないぐらいんなんだって」


 オレたちが旅立った後も街で暮らしていたサリィがそんな解説をしてくれる。

 1日1回絶対って、飽きないかそれ? まあ物流が整備されておらず、限られた食材しか手に入らないトレリスの街で美味しいものを食べようとすると、くまさんバーガーしか今の所食べるものがないのも事実だけれど。

 オレたちと違い、初めてくまさんバーガーを見るタトラさんは物珍しそうに趣向を凝らした屋台を物色している。


「わぁ、美味しそうですね。……あたしひとつ買ってきます!」

「うむ、わしも久しぶりにくまさんバーガーが食べたいのじゃ!!!」

「しょうがないな、少し早いけど昼にしようか。サリィも良いか?」

「うん。あたしも久しぶりに街のくまさんバーガー食べたい!」


 辺りに漂う美味しそうな匂いに我慢できなくなったのか、タトラさんが屋台に向かって突撃していく。トレットが後を追い、オレとサリィもそれに続いた。

 思い思いのくまさんバーガーを手に歩きながらくまさんの耳を齧るオレたち。一匹、ものすごい勢いでバーガーを食べ尽くし、屋台を何件もはしごしているのじゃロリが居るが、無理に止めるとうるさいので放置しておこう。

 

「すごく美味しいです。それにパンもとっても可愛い」

「そうでしょ! でも、イオリが初めて作ってくれたくまさんバーガーはもっと美味しかったんだよ!!!」


 サリィは自分の事のように嬉々としてくまさんバーガーの魅力をタトラさんに伝えている。

 トレリスの街は名産って呼べるようなものずっと無かったし、外から街にやってくる人も殆どいなかったらしいからなぁ。ひとつでも誇れるものが出来て嬉しいんだろう。

 ゼフィーさんの事もあり、表面上は明るく振る舞いながらもあまり元気のなかったサリィの、久しぶりに見る屈託のない笑顔にオレは目を細めた。

 と、道の先から誰かが手を振りながらこちらに駆けてくる。


「イオリ様! イオリ様ではありませんか!!」

「チューリさん!!」


 丸っこい身体を揺らしながらやってくるその姿を見てオレも手を振り応えた。

 チューリさんはトレリスの街屈指の商人で、街にいた時にはオレも色々とお世話になった人だ。

 息を弾ませながら、チューリさんは相変わらずの人懐っこい笑みで手を差し出してくる。

 

「急に街を旅立たれたという事で心配していたのですが、おかわり無いようで安心しました」

「その節は挨拶もなしにすみません、急ぎの用事が出来たもので」


 正確に言うのなら用事というか、王都から使者がやってきてオレを招聘したため、面倒に巻き込まれる前に逃げ出した訳だが……。

 

「そうでしたか。街に戻られたという事は用事はお済みに……これは!?」


 握手を交わし、適度な距離感で再会の挨拶を交わしていたチューリさんだったが、その視線がオレの背後へと移ったかと思うと、驚愕の表情へと変わった。


「な、なんですかこれは!? 荷馬車!? 荷馬車をこのように可愛くするなど考えもつきませんでした!!! しかも馬にまで可愛らしいリボンを付けさせるとは……すばらしい!!」


 オレとの挨拶もそっちのけで、チューリさんはオレの背後にいるタトラさん……が引いていた馬のファべと荷馬車に駆け寄ると、目を皿のようにして細部まで念入りに調べている。

 普段冷静で凄腕商人といった風格のチューリさんの豹変ぶりに、オレたちは呆気にとられたしまう。

 思う様荷馬車を観察して落ち着いたのか、オレたちの視線に気づいたチューリさんは気まずそうに咳払いをひとつして頭を下げた。


「申し訳ありません。あまりに素晴らしいものを前につい我を忘れてしまいました」


 謝罪をしながらも荷馬車が気になるのかチラチラ視線をファべに向けるチューリさんがおかしくて、オレは苦笑しながら技術提供を申し出る。


「あー、荷馬車はそこにいるタトラさんの所有物なのでお譲り出来ませんけど、後で改造の方法をお教えしましょうか?」

「本当ですか!!!」


 チューリさんはオレの手を取ると、額がくっつきそうなほど迫ってきた。完全に商人の目になっている。 

 トレリスの街の周辺には可愛いモンスターが大量に生息していて、街の物流を滞らせる一因となっていた。職人が手間ひまかけて作る彫刻などで馬車を飾れば可愛くなるが、費用がバカ高くなって荷馬車などに使えるものではない。

 しかし、塗装で可愛くするだけならそれほど手間もかからず、効果は十分。幸い、トレリスの街では染料は安く手に入るし目端の利くチューリさんが興奮する気持ちもわかった。

 何度もチューリさんからのお礼を受けながら、オレは荷馬車に乗せていたあるものの事を思い出した。

 

「そうだ、チューリさんにお願いしたいことがあるんですけど、知り合いに農家の方は居ませんか?」

「農家ですか? それはもちろんいくらでも居ますが……」


 予想通り、チューリさんは事も無げに頷く。


「実はですね、海の向こうで仕入れた米という植物があるんですけど、それを栽培してくれる人を探していまして」


 そう。オレは船旅から戻った後のゴタゴタでほったらかしになっていた種籾をチューリさんに託すことにしたのだ。ゼフィーさんのこともあるし今すぐには無理だろうが、最終的にオレはトレリスの街でのスローライフを計画している。

 米がトレリスの街で収穫できるようになればこれほどありがたいことはない。欲を言えば味噌も醤油も欲しいところだが、まずは米の安定供給が第一目標だ。


「コメ、ですか。それはいったいどのようなものなのでしょう?」

「……これです。穀物の一種なんですけど、あー、実際に食べてもらったほうが良いかな。チューリさんお時間は……」

「イオリさんの手料理を頂けるのであればいくらでも待ちます!!!」


 オレの言葉を待たず、チューリさんは食い気味に返事する。さすが自他ともに認める食い道楽。

 オレが料理を作ると聞いて耳ざとく戻ってきたトレットとチューリさんの熱い視線を受けながら、オレは種籾とは別に保存していた米を鍋に入れ、魔法で水を生み出す。


「じゃあ、ちょっとそのへんに座って待っててください」


 オレの言葉に従って、皆が行儀よく地面に座る。

 トレットとチューリさんはわかるのだが、なぜサリィとタトラさんまで期待した目でこちらを見てくるのだろうか。ふたりともさっきくまさんバーガー食べたところだよね?

 オレはふたり分米を追加して料理を始めるのだった。

次回

自らの野望のため、主人公は種籾を商人に託す。

果たして米は大陸でも育つのか。


伊織が次に向かうのは――

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