第10話 伝説の防具
前回のあらすじ
揉んでたらお世話になってる家の娘さんに目撃された。
「見られた!! 見られたぁぁっっっっ!!!!!」
オレは頭を抱え、その場にしゃがみ込む。
某国民的アニメで、どこにでもいける扉の移動先に指定され、ラッキースケベの被害者になる少女がいるが、常々、なぜあんなに毎回大騒ぎするのかと不思議に思っていた。
だが、自分の身に降り掛かってはじめてわかった。全く予期しないタイミングで裸見られるの、めちゃくちゃ恥ずかしい!!!
しかも、よりにもよって揉みしだいてるところを余すところなく!!!
サリィもなんで平気な顔で扉閉めてるんだよ! もうちょっと反応があっても良いんじゃないのか!! 余計に気になるだろっ!!!
「どうする、どうすればいい?」
それなりに良好な関係を築いてきたというのに、このままでは自分で揉んで興奮する変態のレッテルを貼られてしまう。
どう言い訳する? 美容のマッサージ……は無理があるか。サイズに自信がなくて揉むと大きくなると言う噂があって……ダメだ。戦闘後の傷の確認……って、そんな事で騙される人間なんて居ないか。
いや、……これならサリィぐらいはごまかせるかもしれない。最悪ゼフィーさんなら知られてもダメージは少ない。
少しだけ落ち着いてきたオレは、頭を冷やすためにもリボンを外し、男の姿に戻って浴室へ入る。この世界では原理はわからないけれど、普通に蛇口があり、ひねると水が出てくる。
一度、「井戸から水を汲み上げて運ばないんですか?」と聞いたら鼻で笑われたので、そういうものなんだろう。
欲を言えば温水になると良かったのだが、それは無理らしい。桶に水を溜め、頭からかぶって身体を布で拭く。汚れが落ちたら、甘くいい匂いのする香油を手のひらに少し垂らして耳の裏など要所に塗りつけた。
石鹸は無い。というか高級なので、普通は水で汚れを洗い流して香油を付けるだけとのこと。オレの感覚ではこんないい匂いのする香油のほうが高価だと思うんだが……。
身体を洗うと少しだけ心もさっぱりして、なんだかいける気がしてきた。
大丈夫、もしかしたら気づいてないかもしれないし、言い訳もちゃんと完璧に考えてあるんだ!! 意を決してリボンをせっせと作るサリィへ話しかける。
「サ、サリィ、あがったよ……」
「うん。父上呼んでくるね」
おや、サリィの反応、結構普通だぞ。やっぱりオレが気にしすぎていただけか?
席を立つ時、振り向いたサリィはぽそっと囁く。
「……イオリも男の子だもんね。気にしなくていいよ!」
「ああぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!!」
全然大丈夫じゃなかったぁぁぁぁっっっ!!!!!!!
その日はそのまま自室にこもり、布団をかぶって意識を失うまで悶え続けた。ちくしょー!!! もう絶対水浴びする時に鍵かけ忘れたりしねぇ!!!!
◆◆◆
「うーん、可愛くって言ってもどうしたもんか」
手にとった兜のひとつを前後左右、上から下までじっくり見ながら頭をひねる。
新品で用意した革鎧が初戦で壊れてしまったため、新調することになったのだが、前と同じただの革鎧では、万が一またスライムに襲われた時、ひとたまりもない。
なるべくなら可愛い装備がほしいと、こうしてゼフィーさんに紹介してもらった鍛冶工房で品を見せてもらっているのだが、問題があった。
そもそも防具が可愛くないのだ。可愛いくなればなるほど強くなるにも関わらず、防具が可愛くないのは致命的。それならばすこし手を加えて可愛くできないか? と考えた訳である。
そう結論づけたものの、可愛い防具づくりは難航していた。単純にリボンをくっつけて可愛くしようとしても、闇雲につけ過ぎれば可愛いどころか、ただの悪趣味で不気味な物体になってしまう。せいぜい使うとしてもワンポイントの飾りだ。
こうして防具づくりに専念していると、気まずい家の事を考えずにすむのでありがたいが、いつまでも防具なしでは今度は命が危ない。なるべく早くどうにかしなければ。
防御力がありそうで可愛い鎧、と言って真っ先に思いつくのは、日本でよく見ていたゲームやアニメに出てくる姫騎士の姿。
白銀の鎧に金の彫金が施されていたり、宝石が象嵌されていたりと豪華でかっこ可愛いやつだ。
「……可愛い全身鎧でも作れれば良いんだけど」
「がははっ、馬鹿言っちゃいけねぇよ、そんなもの領主様でも持ってねぇ。せいぜい王族の方々が身につけるぐらいだ。第一、この工房にゃそこまでの素材も技術もねぇぞ」
「ですよねー」
オレの隣で様子を伺っていた工房の親方が豪快に笑って肩をバンバン叩いてくる。ちなみに、親方はツナギが可愛い姉さん風の姿だが、元は髭面、寸胴、出っ腹の三拍子揃った中年おっさんだ。
鍛冶場は危険なため、なるべく可愛い格好で居なければならない。当然、オレもリボンを付けて美少女になっている。
親方の言う通り、この街では鎧の素材となる鉄も、まして細工飾りに使う金銀も気軽に買えるものではなく、加工に至っては細工を専門とする職人が居ないので作ることすらできない。
親方も簡単な彫金はできても、デザインは伝統的な図案をいくつか知っているだけ。それでも街では五本の指に入る鍛冶師というから、姫騎士の鎧なんて夢のまた夢だろう。
「鎧。可愛い鎧ねぇ。鉄もあんまり使わず、少ない面積で防御力がある。そんなものあるわけ…………ん?」
ふと頭に浮かんだのは、ファンタジーものではお約束ながら、実用性が皆無とよく言われる一品。素材は少なくて済むし、加工も兜が作れるならアレくらい、いけるんじゃないか。
「ボウズ、どうした? 急に黙って」
「ちょっと作って欲しいものがあるんですけど、素材は硬いほうが良いですけど、難しかったら革でもいいんで」
「ほう、聞かせてみろ。……ああ、それならできると思うが、お前面白いこと考えるな!!」
どうやら技術的にはいけるらしい。あとは飾りを考えれば防具の問題は解決するかもしれない。
◆◆◆
翌日、オレはゼフィーさんとともに工房に出向いた。
親方から注文したものができたと知らせが入ったのだ。昨日の今日でこんなに早くできるとは思っていなかったが、興が乗って徹夜で仕上げたらしい。
出迎えた親方は髪の毛がボサボサであくびを何度も噛み殺してる。
「よう、旦那、ボウズ、来たな」
「親方、ありがとうございます。まさかこんなすぐに作ってもらえるなんて」
「良いってことよ、加工自体は簡単だったしな」
「イオリ、それで一体どんな防具を作ってもらったんだ?」
「親方、」
「はいよ! ……どうだ!!!」
親方は工房の奥から鎧立てに着けられた防具を持ってきた。
オレの注文通り上下のセパレートタイプで、飾り気のない無骨なものだが、その分しっかりとした作りで、鉄むき出しの鉛色に鈍く光る。
「おー、ちゃんとできてる!!!」
「ワシが作ったんだから当たり前よ!!」
「……イオリ、それはなんだ? 見たところ下着のようだが……。鎧の下にでも着込むのか?」
「ふっふっふっ、まあ見ててください。飾り付けをするんで」
訝しげに鎧を見るゼフィーさんを置いておいて、オレは鎧に市場で仕入れた塗料を塗り、リボンを飾り付ける。金銀の細工は高くて手が出せないが、塗料は結構種類が豊富で、価格もお手頃。使っているうちに塗料が剥がれてしまうかもしれないが、手入れの度に塗り直せば、そう問題にはならないはずだ。
「うーむ、たしかに可愛くはなったが、下着ひとつにそこまでの労力をかけるのならば、鎧に可愛い飾りでも着けたほうが良いのではないか。親方、どうなんだ?」
「それが旦那、ワシも注文されたのはここまでで、どう使うのかまではさっぱりなんでさぁ。まさかそのまま身に着けるんじゃく、飾り付けをするなんて思っても見なかった」
「さて、こんなもんかな」
色々言っている外野を無視して、オレは出来上がった鎧を装備するため、リボンを外して男の姿に戻る。
「おい、何をしている、少しでも可愛くなる必要があるというのに、なぜリボンを外す!」
「まあ着てみればわかりますって。……はぁ。こんな装備をまさか自分が着れるようになるとはなぁ」
慌てるゼフィーさんを制して、オレは服を脱ぐと鎧の上部、胸当てを手にとった。
男の姿のままコレを付けるのは、少し……いや、かなり勇気がいるが、これも命を守るため、やってやるさ!!!
胸当てを着けると、案の定背が縮み、女になったのがわかる。そして、脱ぎ捨てた上着をささっと腰に巻いて、下もすぐに履き替えてしまう。躊躇したら負けだ。
「あー、やっぱこれ着けただけでも女になるんだ。いや、ならないと困るんだけど」
「……イオリ、なんだそれは!!!!」
「ボウズ、お前ぇ……えらいもん作りやがったな!!!」
ゼフィーさんと親方が驚愕の表情でオレの鎧を見つめる。鉄で覆われているのは胸と股間が最小限。紐などその他の部分は革でできている。正直、こんな痴女みたいな格好で戦うやつなんて現実には居ないだろうとオレも思っていた。
そう、これぞファンタジー世界のお約束ながら、実用性皆無と散々バカにされていた、伝説のビキニアーマー!!!!
「これは……なんという可愛さだ!!! ……しかも、これはただ可愛いだけではないっ!!! 一見、扇状的なだけの姿だと言うのに、胸当ての中央にリボンをあしらうことで可愛さを引き立てている!!!」
「それだけじゃねぜ旦那。鎧自体も染料で可愛らしいピンク色に染めてやがる!!! しかも単体ではケバく見えちまうその色も、胸と腰の左右に付けられたリボンのおかげで、鎧をより可愛くしてやがるんだ!!!」
「この可愛さは国宝級、いや、神話に語られる神器にも匹敵する!!」
「まさしくっ!!! まさかこんな鎧があるとは思いもしなかったぜ!!!!」
女になったうえ、一人だけ痴女レベルで肌を晒している気恥ずかしさで悶えるオレを尻目に、お姉さん姿のおっさん二人はとてもヒートアップしている。
オレが「そんなにすごいなら、量産すれば良いんじゃないですか」と言うと、しばらく固まったあと、二人はものすごい顔で何かを打ち合わせし始めた。
きっと街の兵士たちも時間を置かず、ビキニアーマーが正装になるんだろう。どうせなら道連れは多いほうが良い。ぜひとも広まって欲しい。
後日、性能テストでゼフィーさんの剣で軽く打ち込んでもらったが、不思議なことに鎧部分以外に攻撃を受けても全然痛くなかった。
この世界ではビキニアーマーはかなり強いようだ。
次回
強力な防具を手に入れ、生活も安定した主人公。
訪れた平穏な日常を満喫する彼に訪れた、予期せぬ出会い。
伊織の前に、ついに幼女がやってくる――