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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
東方巫女と『可愛い』。
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第52話 金色の草原

 トレットとタトラさんが加わった踊りは一層熱を帯び、人々を熱狂させる。

 マオの放つキラキラブレスで巫女さんたちが次々に虹色の粒子をまとい、踊るたび小さな星が煌めいて可愛さを振りまいた。

 魔法と同じように可愛さの込められた歌は聞く者を元気付け、さらに自分たちを可愛くしていく。

 それは魔法少女の変身と同じく、可愛さを身にまとい自然と力を強めているのかも知れない。

 しかし、オレひとりで変身した魔法少女と異なり、巫女さんたちの歌と踊りは相互に影響を与え合う。

 舞台を見守る人たちだけでなく巫女さんたちも歌と踊りの力で可愛さを増し、可愛くなった姿でまた踊りと歌を重ねていく。

 人の生み出す可愛さの限界を超えた巨大な力は大きなうねりとなって本殿へと向かった。

 とめどなく注がれる力を受けて、本殿は太陽のように金色に輝き、あまねく大地に光が降り注ぐ。

 本殿から降り注いだ金色の光が地面へと染み込み、大地が光りに包まれていった。光は都を包み込み、さらに国中へと広がり辺り一面を光の草原へと変えてゆく。

 天を衝く大蛇の頭も光に当たると徐々にその力を落として、最後には大蛇は大きなあくびをすると、一匹、また一匹と地面にもぐるように身を沈める。

 身を沈めた大蛇の表面を金色の光が覆い、光が消えると元の山の形へと戻っていた。

 どういう理屈で大蛇が山になるんだと気にはなるが、魔王が封印されて手乗りミニドラゴンになる世界なのだから、今更か。

 大蛇の姿が完全に消え、山と緑に囲まれた風景が復活すると、人々の中から歓声が湧き出る。


「おい、あれを見ろ!」

「大蛇が消えてるぞ!! ルリさまたちが大蛇を封印したんだ!!」

「やったー!! 国が救われたぞっ!!」

「巫女様ばんざい!! アシハラの国ばんざい!!!」


 人々は口々に喜びの声を上げ、大蛇を封印した巫女さんたちを称える。

 巫女さんたちも肩の荷が降りたのか、肩を寄せ合い喜び中には涙を流す娘さんもいる。

 幼い巫女さんたちには国を守る重責は随分重かっただろう。年上のお姉さん巫女が涙を拭ってやったりして、微笑ましい。


「イオリ殿」


 皆が大蛇封印を喜んでいると、本殿からハリさんが降りてきた。

 舞台と本殿の間で力の流れを制御していたためか疲労の色は濃いが、表情は晴れやかだった。


「ハリさん、封印は?」

「完全では無いでしょうが、大蛇の気配は収まっています。わたくしが生きている間に再び復活することは無いでしょう。なにより、一度封印できたのです。もし仮に今一度大蛇が復活するときが来ようと、人の力で必ずや封印できるでしょう」


 ハリさんの言葉にオレは安心し、脱力した。

 あれほど巨大な相手だ。封印したと思ったらすぐ復活!! なんて事もあるんじゃないかと身構えていたが、その可能性もないのならオレに出来ることはここまでだろう。

 ようやく厄介事が片付き、大手を振って米を持ち帰れると考えていると、ハリさんがかしこまり頭を下げてくる。


「この度の大蛇封印、イオリ殿のお力が無ければ叶いませんでした。いくら言葉を重ねても伝えきれませんが、心よりお礼申し上げます。あなたは我らの救世主です」

「やめてください、オレひとりの力じゃ何も出来なかったですよ。ルリやメノさん、それに他の巫女さんたちが頑張ったおかげです」


 このままだと変に祭り上げられそうなので、慌ててオレはハリさんの頭を上げさせ、巫女さんたちを見た。

 実際、オレひとりではどうしようもない相手だったし、巫女さんたちの活躍がなければ大蛇は完全に復活して今頃都も大蛇の下敷きになっていただろう。

 オレはアイドルの歌と踊りを教えただけ、そういう事で納得して欲しい。

 しかし、オレの思いとは裏腹に、ハリさんは頑なだった。


「それでも、イオリ殿が居なければ我らは今こうして喜び合うことも出来てはいません。これほどの恩に我らはどう報いれば良いのか……」

「まいったな……」


 このまま押し問答を続けてもきりがない。

 どうしたもんかと頭を捻るが、目的だった米は手に入れてしまったし、この国は日本を思い出させてくれるが、ずっと暮らしたい場所かというとそうでもない。たまに旅行で来たいとは思うが、あまり大げさな事になるとトレリスの二の舞で気軽に寄り付けなくなってしまう。

 オレが望むのはこぢんまりとした平穏な日常なのだ。救世主とかそんな大層な肩書を持ってしまうと逆に困ってしまう。

 金銭をもらって……など色々と考えてみたが、ハリさんの様子では普通になんでも用意したうえで讃えてきそうな勢いなので、意味がなさそうだ。

 うんうんとあれこれ悩んでいたが、ふと名案が思いついた。


「そうだ。それじゃあアイドルを国中に広めてもらえますか?」

「あいどるを、ですか?」

「ええ、巫女だけでなく、アイドルの歌も踊りも望む人全てに教えてあげてください。そうすれば常に国中でコンサート……儀式を開いて大蛇復活を抑止出来ると思うんですよ」


 そもそも可愛いからというだけで巫女さんだけに負担を強いるのはどうかと思っていたのだ。この世界なら可愛い格好をすれば誰でも可愛くなれるし、大蛇の封印が魔法の力によるものなら、可愛い格好になった人が訓練すれば巫女さんほどではないにしろそれなりの力になるはずだ。

 国全体でアイドルを育成すればもう大蛇の復活を恐れることも無いだろうし、何よりアイドルを浸透させ一般的にしてしまえばオレの事も目立たなくなるはず。


「なるほど、たしかにあいどるの歌と踊りを広く国民に伝えれば封印の力はより強力になります。いや、しかしそのようなことではイオリ殿に恩を返すどころか、さらに国を助けて頂くことに……」


 ハリさんは何やら悩んでいるが、オレとしてはこれ以上無い提案だと確信しているので、とてもいい笑顔でハリさんの背中を押した。


「良いんですよ、オレにとっては米が食える場所がずっと残ってくれることが一番なんで。それ以上なにも望みません」

「イオリ殿……必ずや、あいどるを国中に広めてみせます」


 ちょっと本音が漏れ出てしまったが、ハリさんは納得しオレの要求を受け入れてくれた。


次回

人々の力を合わせ大蛇の封印に成功した主人公。

アイドルを伝えた彼らは再び大海原へと旅立つ。


伊織を見送る者とは――

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