第50話 巫女アイドル
マオの吐くキラキラブレスが降り注ぐ舞台の上で、オレはひとり踊り続けた。
突然現れ踊りだしたオレの姿に、舞台に集まった都の人々は戸惑いの視線を向けてくる。
当然の反応だが、全く無関心で居られるよりよっぽど良い状態だ。
舞台に集まった人々に向かってウィンクをすると、瞳からいくつもの小さな星が現れ前の方でオレのことを見ていた子供に当たる。
星は当たった子供はびっくりして固まっていたが、すぐに笑顔ではしゃいだ。その姿を見て、少しだけ場の空気が和らいだように感じる。
ウィンクしただけでこんな事が出来るなんて自分でも驚きだが、今は驚いている暇もない。
スカートを翻し、オレは舞台の上を駆けながら踊り歌う。
歌いながら踊るなんて普段ならすぐに息が切れ倒れ込みそうな運動量なのだが、可愛さを込めて歌っていると不思議と力が湧き出てきた。
ポーズを決めるごとに身体から星が乱れ飛び、オレを見る人々に当たっては弾けて光の粒子を撒き散らす。
絶望に染まっていたはずの人たちの顔に少しだけ笑顔が戻ってきたのを確認すると、オレは舞台で呆けている巫女さんたちの手をとって一緒に踊るよう促した。
「ほら、一緒に踊って! 皆が待ってるっ!!」
手を引かれた巫女さんはぼんやりとオレのことを見つめていたが、オレが指し示した先に居る人々の姿を見て頭を振ると、自分の頬を叩いて気合を入れた後オレを見返した。
「はいっ!」
その瞳にはしっかりとした決意の光が宿っていた。踊り始めた巫女さんに触発されるように、他の巫女さんもひとり、またひとりと踊り始める。
巫女さんたちの踊りは先程までのものと異なり、大蛇ではなく人々へと向けられたものだった。
オレと同じように巫女さんたちの踊りでも星が舞い、人々に降り注ぐ。
……何故か星に当たった人の中に可愛い女の姿になる人が居るんだけれど、きっと気のせいだ。
美少女になったおっちゃんとか自分の変化に気づかず夢中になっているし、今の状況下では大きな問題じゃないだろう。
たぶん星に当たった事による一時的な変化で、時間が経てばもとに戻るはず。
「きゅぴ、きゅぴ、きゅぴぴぃぃぃっっ!!!!」
舞台の上ではマオが飛び回りながらキラキラの虹色ブレスや、照明用の輝く球体のブレス、要所要所で花火のように弾けるブレスなど、多種多様なブレスを連発している。
頼んだのはオレなんだが、巨大な舞台の照明や演出を一匹で賄っているのは大丈夫なんだろうか。
本人? はあまり苦しそうではないが、小さな身体のどこにそんな力があるのだろうか。マオに着せたアイドル衣装のせいで可愛さが上がっているとかなのか?
オレの視線に気づいたマオは、オレにキラキラのブレスを吐いた。
虹色の光に包まれたオレは、ブレスが止んだ後も光の粒子が残り動く度に虹色の光を撒き散らすおもしろ物体になってしまった。
そういう意図で見ていたんじゃないと悪目立ちする自分が振りまく虹色の粒子を見ながら嘆息するが、星やら虹色のキラキラを振りまくたびに巫女さんたちから小さなため息が漏れるので、儀式が終わるまではこのままでも良いか。
「これがアイドルの力……」
目の前に広がる光景にメノさんが呆然とつぶやいている。
「そうですよ。ほら、ボーッとしてないでメノさんも踊りますよ。アイドルなんだから」
「わたくしも、アイドル……なんでしょうか?」
答えを求めるように、小首をかしげて来るメノさん。今更何を言っているんだろうか。オレは笑いながらメノさんの背中を押す。
「もちろん! 言ったじゃないですかアイドルは皆を笑顔にするって。今まで都の人たちの笑顔を守ってきたメノさんたちはずっと前からアイドルですよ!」
「そうですね。精一杯勤めさせていただきます!」
オレの言葉で吹っ切れたのか、メノさんは巫女さんたちの踊りの輪に入って行く。
メノさんは周りの巫女さんたちをリードし、ばらつきのあった個々の動きを統一させグループとしての踊りの質を上昇させる。
さすが巫女さんのまとめ役。踊りと歌の技術も頭ひとつ抜きん出ている。
舞台を走り回ったオレは、中央へと戻ってきた。
そこには未だにショックから立ち直れずに居るルリが居た。
「イオリさん……」
「どうした、お前も踊らないと締まらないだろ」
「でも、ボクはもう失敗して……」
オレの言葉にもルリは落ち込み、動けそうにない。
どうしたもんかと思っていたが、ふといい案が思いついた。
オレはいつものルリを真似て、ふんぞり返ってみる。
「なんだ、じゃあオレのほうが可愛いって認めるんだな」
「なぁっ! そんな事言ってないじゃないですか! ボクはいつだって一番可愛いんですっ!!!」
オレの言葉に今まで落ち込んでいたルリがガバっと顔を上げ闘志を剥き出しにしてきた。
やはりこっちのほうがルリには効くな。
「だったらお前の可愛さを見せてみろ! 図体がでかいだけの大蛇なんてお前の可愛さがあればイチコロだろ?」
「ふ、ふふん、良いでしょう。可愛いボクに不可能なんてありませんよっ!」
次回
主人公に導かれアイドルとなった巫女たち。
巫女アイドルの踊りが、人々の声援が奇跡を起こす。
人々の可愛さが国を包み込む――




