第43話 完成、アイドル巫女衣装
衣装作りを始めて、十数日が経過した。
ルリを実験だ……モデルにして何度も試着と改良を繰り返したおかげで、衣装はかなり可愛いものになったと思う。
上は振り袖部分をカットして、セパレートタイプに変更。肩を露出させることで激しい動きでも稼働に制限がかからないようにしながら、二の腕から手首までの振り袖部分を腕の飾りとして使うことで、動くたび袖が揺れてダンスの時可愛さを引き立ててくれるようにした。
下は袴を改造してミニスカにしたうえ、中にフリルを何層も縫い込んでパンチラをガードしながら揺れるスカートからちらりと覗くフリルで可愛さをアップさせている。一応、ルリの協力を得て何度も厳重なチェックを繰り返したので、これだけでもかなりのポロリチラリからのガードが期待できるが、念には念を入れて、下にはアンスコ、上にはビキニアーマーを参考にした胸当てを作り、アンダーウェアとしている。
ノースリーブな衣装になるため、巫女さんたちに胸を隠す下着は無いのかと聞いてみたらほぼサラシ、ルリに至っては当たり前だがノーブラという答えが返ってきたため、ビキニのアンダーウェアの方が可愛いし何も無いよりマシだろう。
ルリはビキニのアンダーウェアブラを見て「これなら何も着けないほうがマシです!!」と赤面して頑なに抵抗していたが、他の巫女さんたちから絶対に着けなければいけない、前から無防備で気になっていたと言われしまい、しぶしぶ受けいれている。
可愛いものが好きなくせにビキニブラに抵抗する心はよくわからないが、子供心は複雑なんだろう。
ともあれ、細かな飾りに関してはもう少し改良の余地があるが、おおよそ衣装はこれで完成と言っていいだろう。
改めて見ると、なんだかコスプレ感が満載な出来になってしまったんだが、本当に良いんだろうか。
一応確認のため出来上がった衣装を社の最高責任者であるハリさんに見せてみる。
「こんな感じで、かなり元の巫女の服装からかけ離れちゃったんですけど、大丈夫ですか?」
事前に許諾をもらっているとは言え、元の巫女装束の原型をほぼとどめていない改造を施した衣装を見てハリさんはどう思うのか。
衣装を手に取り隅々まで確認をしたハリさんは、満足げに頷いた。
「確かに伝統的に巫女の装束は決まっていました。ですが、それはもっとも巫女が可愛くなる衣装だからです。既存の巫女装束よりも可愛くなれるのであれば、問題などありません。それにしても、これは本当に可愛い。わたくしにも一着仕立てていただけないでしょうか?」
「え゛っ、」
まさかハリさんが改造巫女装束に興味を示すとは思わなかった。確かにハリさんも立場上可愛くなったほうが何かと都合が良いから幼女の姿で居るんだし、より可愛さを求めるのは純粋により高性能な衣装が欲しいと言う意味だとはわかっている。
いるのだが、子持ちのおそらくそれなりの年齢のおっさん……下手したらお爺さんに片足突っ込んでいそうな人から、「可愛くなりたいのでフリフリミニスカの衣装が欲しい」と言われると、どうしても戸惑いが先にきてしまう。
オレの表情を見て、ハリさんは困り顔になってしまった
「問題がありましたか? 難しいようでしたら、無理にとは申しませんが」
「い、いや、まったく無いです。問題なし!! すぐに用意しますね」
慌ててオレは手を振り快諾する。巫女装束やその他さまざまな素材、手伝ってくれる巫女さんまで用意してもらっているのだ。ハリさんの分が加わったところで大した負担でもなし、断る理由など無い。
「無理を言って申し訳ありません。しかし、今は少しでも可愛い者を増やし来たるべき日に備えねばならぬのです」
「ええ、わかってます。急いで衣装を仕立てます」
「よろしくお願いいたします」
衣装の形が決まったとは言っても、巫女さん全員分すべて改造するとなるとそれなりに時間がかかる。大蛇の封印がいつまで持つのか定かではないが、急ぐに越したことはないだろう。
◆◆◆
早朝、オレは社の舞台でひとり踊る。オレの歌に合わせて舞台の周りに光の粒子が産まれて、弾むように辺りを舞ってキラキラと瞬いた。
最後に決めポーズを取ると、光は天井へと上り、消えていく。
「終わったかの?」
「お前、見てるなら少しは手伝えよ。けっこう大変なんだぞ、これ」
息を弾ませながらオレの踊りを見物していたトレットに文句を言う。
「無理なのじゃ。かわりに昼間に巫女たちの面倒を見てやっておるではないか。早く朝食を作るのじゃー」
「くっ、痛いところをついてくる……」
大蛇の封印維持のため、毎朝のオレの日課として社の舞台でのダンスが加わっていた。初めはクソ長い階段を登って封印のある本殿に毎日行かなければいけないのかと憂鬱だったのだが、社の舞台からでも本殿に可愛さを送ることが可能だと言うことで、1日1回、こうして歌と踊りを奉納している。
いっそ1日ぶっ通しでする事も考えたが、そんな事をすれば間違いなく男に戻れなくなる。今でもちょっと気を抜くと仕草が可愛くなっていて、慌てて自分に「オレは男だ、しっかりしろ」と暗示をかける時があるのだ。
人の命がかかっていることなので多少の無理はするけれど、できれば男を捨てる事は最後の最後、どうしようも無くなった時まで温存しておかなければならない。オレはあくまで生き残るために美少女の姿になっているだけで、本来はいつでも男の姿でいたいのだ。
そんな訳で、なるべく朝の儀式以外では可愛さを無闇に振りまかないよう注意し、巫女さんたちの踊りや歌の指導は、すでにマスターしているトレットとタトラさんに任せている状態だ。
代わりに「食事だけは絶対にお主の手作りなのじゃ!!」と、わがままのじゃロリエルフが言うので仕方なく料理は3食とも作っている。
巫女さんたちの料理も魔法を教えたことでかなり美味しくなったと思うのだが、トレットを納得させる味には至っていないようだ。
まだまだと言いながら、オレの作った飯を食べた後ちゃっかり巫女さんたちの料理も味見しているので、こいつはただ単により多く美味しいものが食べたいだけな気もする。
巫女さんたちは巫女さんたちで、歌や踊りの先生で料理の味まで批評してくれるトレットを尊敬しているようなので、トラブルになっていないのが救いだ。
「おーい、オレたちはもう行くからなー」
トレットに急かされて調理場へ移動するオレは、舞台の隅に向かって声をかける。
反応はないが、小さな影がチラチラ見え隠れしているから多分聞こえてるだろう。
「まったく、もうバレバレなんだから隠れる必要も無いと思うんだが。何なんだろうな」
「男の意地というやつじゃろ。あやつはまだ若いからのー」
「ふーん? そんなもんか」
別段気になる事でも無くつぶやいた疑問のため、オレはトレットの答えを深く考えず生返事で返して朝食の献立を脳内で組み立てる。
背後では誰かが踊る音がし始めたので、ちゃんと聞こえていたようだ。
次回
来たるべき時に備え、着々と準備を整える主人公。
果たして、彼らの準備は大蛇復活に間に合うのか。
強大な敵との対決の時は迫る――




