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かわせか! ~『可愛いが強い』世界転生~  作者: 代々木良口
東方巫女と『可愛い』。
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第37話 アシハラの国の聖少年

「それにしても、イオリさんよく醤油や味噌なんて知ってますね。大陸では作られていない調味料じゃないんですか?」


 和食に使える食材をしこたま買い込んで上機嫌に歩くオレに、ルリが尋ねてくる。

 これだけ初めて見るはずの品々を名前まで正確にわかった上で買い込んでいるのだから、気づかないほうがおかしいか。

 別に秘密にするほどのことでもないのかも知れないが、「オレはこの世界の人間じゃないんだ。向こうの世界に似たような物があって知っていた」なんて信じる人間は居ないし、オレの頭が疑われるので適当にごまかしておくことにする。


「ああ、そうだな。あっちじゃ醤油も味噌もみりんも見たこと無い」

「え、じゃあなんでイオリさんは知ってるんです?」

「オレの故郷は別の場所だからな。理由はわからないが、気づいたら大陸の人間の国に飛ばされていたんだ」

「へー、不思議なこともあるんですね」

「あたしも初めて聞きました。そうだったんですか」 


 ルリと一緒にタトラさんが食いついてきた。

 そういえばタトラさんにも詳しく話した事はなかったか。


「イオリさんの故郷には醤油や味噌があったんですか? それじゃあ、ボクたちと同じ文化を持つ国が他にもあるってこと?」

「いや、文化はだいぶ違うな。似てるところもあるけど、違うところのほうが多い」


 そもそもオレのいた世界では可愛ければ可愛いほど強いなんてふざけた法則はないし、可愛い格好をしたからって美少女になることもない。魔法も無ければ巫女さんが儀式で国を守ってるなんてこともないのだ。

 ルリは見知らぬ土地に自分たちの同胞が居るのではと夢想したようだが、世界が違うからなぁ。


「イオリさんの故郷ならすごく可愛いところなんでしょうね」

「うーん、そんなにすごいところじゃないですよ。可愛い人も可愛いものも探せばあるけどどこにでもあるわけじゃないし」


 タトラさんもなにやら素晴らしい想像をしているようだけれど、ある意味こっちの世界より殺伐としてるし、可愛さなんてオレの周りにはかけらも無かった。いや、あの時の事を深く思い出すのはやめよう。あれは悪夢だったんだ。きっと。


「そうなんですか……。でもイオリさんの故郷って興味あります」

「ボクもです。もっとその故郷のとこ教えて下さい」


 オレの故郷に興味を持ったふたりが矢継ぎ早に質問を続け、足が止まってしまう。

 しまった。適当に答えたのが逆に興味をもたせてしまったか?

 

「ほれ、そんな事いつでも聞けるじゃろ。それより今は早く買い物を済ませるのじゃ。早くしないと日が暮れてしまうじゃろ」


 完全に立合話に熱中しているふたりにどうしたもんかと思っていたら、トレットが珍しく助け舟を出してきた。


「そうですね。イオリさん、後でもっと聞かせてください。タトラさん、次は雑貨を見たいんですよね?」

「はいっ、可愛い小物が仕入れられたらなって思ってるんです」

「それなら櫛やかんざしが良いですね。みなさん、こっちですよ」


 トレットの言葉でふたりはようやく本来の用事を思い出し、歩き始める。

 ふたりの後につきながら、オレはこっそりトレットに礼を言った。

 なんだかんだ言って、この世界でオレが異世界から来たことを知っているのはこいつだけだからな。


「助かった。たまにはお前も気が利くんだな」

「何を言っておるのじゃ? あのままじゃったら夕食が遅れるじゃろ。お主もさっさと買い物を済ませて、今日買った食材でワシに美味しい料理を作るのじゃ」


 ツンデレとかではない。それは100%まじりっけ無しの本心だった。

 のじゃロリ変態エルフに気遣いとかそんなものを期待したオレが馬鹿だったのだ。とは言え結果として助かったのは確かなので、少しだけ夕食には色を付けてやろう。 

 ようやく歩き始めたオレたちだったが、いくらも行かないうちにルリが立ち止まってしまった。

 何か起きたのかと見ていると、ルリはこちらを振り返り一言残して道の片隅に駆けていく。


「ちょっと待っててください……転んだんですか? ほら、もう痛くないですよ。痛くない痛くない……」

 

 ルリの駆けていった先には小さな子どもが転んで泣いていた。ルリは子供に近寄ると、擦りむいた膝に手を当て優しく擦る。

 すると、手のひらから淡い光が湧き出て、子供の膝の傷は消えてしまった。

 痛みが消えキョトンとする子供の元に、子供の母親らしき人がやってきて抱きかかえると、何度もルリに頭を下げている。

 ルリは親子に微笑み、手を振りながら戻ってきた。


「おまたせしました」

「お、おう」

「なんですか、変な顔して」

「いや、なんでも無い。早く店に行こう」

「? 変な人ですね。こっちですよ」


 これまで色々とルリの事をメノさんから聞いたり、都での様子を見たりして、わかってきたつもりなのだが、実際にこういった場面を見るとそれが偽りとか形だけのものでないのだと実感してしまう。

 民衆に慕われ、人々に寄り添う巫女とかまるで聖女……いや男だから聖少年?

 とにかく、ルリが都にとって大事な存在で、ルリにとっても都は大事な存在なんだろう。

 つくづくすごいやつなのだが、未だにオレたちに対する態度とのギャップのせいで、オレは素直にその事実を受け入れることが出来ないでいた。


次回

異国の地で買い物を続ける主人公たち。

帰路へつこうとしたその時、彼らを異変が襲う。


都の異変に伊織はどう対処するのか――

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