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死神の風舞うこの世界で 〜紅紫の瞳〜  作者: 漣 カコイ
1章  平和の片割れ
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第5話 出発



〚AM4:58〛


まだ薄暗い朝。部屋に無音な空気が広がる。


 〘もう行くですか?〙


そんな部屋中央部のリビングで戦慄とシアンが最後の準備を整えていた。


戦慄の持つ手荷物の中には前高の偽装生徒証明書(美香が調達)、試験会場へ飛ぶための移石や、動きやすいようにと美香が用意した戦闘服、そして………


 〘これも持っていくです〙


シアンからもらった小型通信機。


受験者や諫死屋達の中には自分が所有するロボと連携して戦闘を行う者も多いらしく、今回の試験でも外部との通信が許可された。


ので、戦慄も外部と通信を取るという形になったのだが、身体フィジカル技術テクニックも最善と言っていいほど鍛えた戦慄の唯一の不安点といえば、


 〘まっかせ〜なさいです!

  アタシにかかれば他のロボの援助なんて軽

  くあしらえるですよ〜〙


やけに自分を他とは特別なのだと主張するシアンがパートナーということだった。


シアンが何かに勝ち誇って一度でも勝ち星をあげたことがないのを戦慄はよく知っている。


ゆえに不安が募る。


 〘心配すんなです。最高級のサポートしてやるですよ〙


 「期待しておく」


 〘うむ〙


板のようにない胸を自慢げに張るシアン。


 「そろそろか」


時計は午前5時を示している。


出発の時間だ。


戦慄は手荷物を抱え玄関へと向かう。


 〘ソーマン、ソーマン、ちょっと〙


クスクスと笑うシアンが玄関近くの美香の部屋に戦慄を手招きをする。


僅かに空いた扉の奥では当然美香がスヤスヤと眠っていたのだが、


 「凄いな」


驚くのはその寝相の悪さ。


そこには普段のひんがある優雅な美香の姿は欠片も見当たらない。


布団に芋虫のように包まり自分の長髪を赤ん坊のようにムシャムシャと食していた。


 〘どーです?

  あまりの可愛さに死ぬですか?〙


 「いいや」


 〘f*ck〙


時間も消費し、シアンに蹴り飛ばされながら戦慄は外へ。


 〘最後にどうやって行くかもう一回確認するですか?〙


 「いや、大丈夫だ」


大広場に行き、移石を読み取らせる。これだけだ。


 〘じゃぁ寮の外まで送るです〙


シアンは鍵のセキュリティをロックし戦慄の後をテクテクとついていく。


エレベーターでロビィに降りたらシアンの出番。


意識を集中させ一瞬で寮扉のコンピュータシステムをハッキングする。


すると瞬く間に管理室で次々とシステムがダウンしていき、


 〘ハンっ! ちょれぇでぇす〙

 

最後にドォンと大きな音を立て全てのシステムがシアンの手に落ちた。


今度はシアンが指令を出す。



 «««««««««««ロック解除»»»»»»»»»»»»»



カチャン、カチャンと重層な鍵が外されていき、少しずつ薄い朝日がシアンたちを照らした。


 〘アタシがついていけるのはここまでだです〙


そう言ってシアンの手がスッと戦慄に差し出される。


戦慄が握手かと思いその小さな手を握ろうとしたその時、


〘へぁ!!〙と、シアンの拳が戦慄の手をかいくぐってコツンと戦慄の胸へと当たった。


 「何がした………」


途端、シアンの心臓部分が白く光り、その光は腕を通って戦慄の心臓部へと入り込んだ。


入り込んだ白い光は徐々に薄れていき、


 〘これでお前はアタシの一時的なご主人にな

  ったです。

  もちろんお嬢様には許可をもらってるですよ?〙


戦慄はシアンの友人(?)から(一時的な)主人へとランクアップした。


 〘じゃぁソーマン主。頑張ってくれですよ〙


 「シアンもな」 


 〘まっかせろだぜぇ!!〙


シアンは変なポーズを取り、腕を突き上げ戦慄の手に合わせて無邪気に笑う。


 「行ってくる………」


そんなシアンに戦慄は何の反応も示すことなく凜をかえすと、


 「最善を尽くすまでもなく合格するために」


そう言い切って寮扉を抜けて行った。








 〘只今戻ったです〙


戦慄を見送ったあとシアンはハッキングしたものを元に戻し帰宅。


玄関口では美香がパジャマ姿でシアンの帰りを待っていた。


 「おかえり。

  戦慄は無事に行ったかしら?」


 〘え、うー、多分いつも通りでした〙


それは良い意味でも悪い意味でも。


 「いつも通り、ね。

  まぁ、緊張してないってことで良いことよ」


変わらぬいつもの状態。つまり緊張していない表れ。


これが良い側の意味。そして、


 「今日は?

  変化あったの?」


 〘…………はぁ、なかったです〙


変わらぬ感情、表情。いつも通りの無の戦慄。


これが悪い側の意味。


この十日間で美香、共にシアンが戦慄について分かったことは極僅かなことしかない。


その中でも確信を持って言えることが二人にはあった。


 

   『九条神戦慄には感情がない』



始めはそんなわけがないだろうと思っていた美香、シアンも戦慄と共に暮らしていく中で嫌でも感じ取ってしまった。


死んだように光の失せた瞳。


感情の込まれていない声。


傍から見ていても辛いだろう分かる特訓にも苦悩、苦痛を顔に一切出さずロボットのようにその特訓を繰り返す様子。


戦慄に体力がありあの特訓にも楽々耐える事ができるのなら話は変わってくる。


………が、


戦慄は特訓終わりに必ず疲れで即倒していた。


辛いはずなのだ。苦しいはずなのだ。


なのに戦慄はそれを感情として表現しようともしない。


それでは本当に感情がないようだった。


『生きている』その確かな証明のみが戦慄の活動源。


なら戦慄の意志はどこにあるのだろうか?


そもそも意志すら存在しないのだろうか?


どちらにせよ戦慄はただ従う。それに限る。


よって、九条神戦慄は美香やシアンにとって…………



    簡単に利用できる存在だった



善意の元で動く人間など極わずか。一握りにも満たない。


仕方のないことだ。


人間には、ロボットに出さえ、醜い野心が存在するのだから。




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