第3話 訓練の必要
〘そんなっ……、正気ですか!?〙
美香の言ったことにシアンは信じられないと顔を強張らせる。
貴族の文化では女が男を自分の家に招き入れることは縁組を意味することである。
つまり、
〘結婚すんですかァァァァ???〙
美香と戦慄。いきなりの幸せのゴールイン………
「なわけ無いでしょ」
ではなく、
「私の家"の庭"に来ない? ってことよ」
美香の家の庭にある訓練道具を使いに来ないかということ。
「このままじゃ駄目なのか?」
自然な疑問を口にした戦慄に、
「自覚ないの?」
と、蔑んだ目を向ける美香。
「全く」
「じゃぁ教えてあげる。
九条神君、あなたのスピードは申し分ないわ」
戦闘においてスピードは一つの武器になる。
が、
「男の子にこんなこと言っていいのか分から
ないのだけど、あなた筋力なさすぎよ」
ブフッと隣でシアンが吹いた。
「パワーがないってことか?」
「そうゆうことね」
いくら速かろうがパワーがなければ敵にダメージを与えることはできない。少しずつダメージを与えるも良いがそれには多大な体力が必要となる。
「九条神君にはまず筋力アップしてもらうわ。
それが終わったら次は………」
言葉が途中で途切れ、美香の姿が消えると、「ビュッ!」と戦慄の目の前に拳が止まる。
〘ヒュゥ〜〜〜〙
シアンは反応すらままならなかった美香のスピードに野次馬のような口笛を鳴らす。
美香はゆっくりと拳をおろしながら言葉を繋いだ。
「敵を混乱、圧倒する技術、これを覚えてもらうわ」
「分かった」
「まぁ、簡単なことじゃないからすぐに出来
るとは思わないことね。
地道な努力が必要よ」
「分かった」
WDS編入試験まではあとわずか10日。戦慄はそれまでに最低限の筋力と技術を身に着け、最高の貢献を示さなければならない。
他の受験者が一年という月日を努力に費やしているのに対し戦慄は10日間。
圧倒的不利な状況で、
「合格したらカッコいいわよ。九条神君」
合格する。それがどんなに難しいことか。
「最善は尽くす」
〘バァカです。
そこは「必ず合格してみせるぜえ!」ですよ〙
そう言いシアンはやれやれとため息をついた。
「九条神君?
最善を尽くすのではなく、最善をつくすま
までもなく合格してちょうだい。
OK?」
「分かった」
〘だからそこは「OKだぜぇ!」ですっつって
んでしょうが!〙
「ふふっ、そうね。
OKだぜぇ、ね」
〘ほら男も言うですよ!
OKだっぜぇ〜〜〙
シアンの妙なテンションに美香がクスクスと笑う中、戦慄は一つの疑問は抱いていた。
自分のために何かをしてくれる。
もちろん戦慄は感謝はしていた。
が、戦慄と美香は昨夜会ったばかりのほぼ顔見知りの関係。
にも関わらずこの数時間でずっと過ごしているかのように距離を縮め、美香に至っては気が引くほどのお人好しときた。
なぜそこまで他人に尽くす?
戦慄では理解できなかった。
襲い、殺してくるとは考えないのだろうか?
警戒心が足りないとしか思えなかった。
そんないろいろな疑問が戦慄の脳を何度も何度もよぎった。
分からない。理解することができない。
それでも、戦慄は確かなことが分かった。
目の前では楽しそうに笑う暴言を吐く一体のロボットとお人好しな16歳の少女。
……………簡単に利用できる……………
脇で騒ぐ彼女らを見る戦慄の瞳は死んだように冷たかった。