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死神の風舞うこの世界で 〜紅紫の瞳〜  作者: 漣 カコイ
1章  平和の片割れ
1/36

プロローグ , 出会い  





《西暦6045年:4月25日》



月光に照らされた高層ビルが立ち並び、店の明かりが人々の視界をクリアにする。


ここは日本列島から少し離れた場所に位置する『童進島ユーシア』。


ユーシアは小国ほどの土地面積を誇り、その内部には国際人形応戦学院(WDS)が設立されている。


WDSは、人の激しい感情エフ欲望エゴから生み出された『人形ドール』を死へと導く『諫死屋かんしや』を育成する機関として機能。


このWDSと『童進島』はセットのようなもので、現在では世界大陸に計7つの童進島が存在している。


また、童進島はドールの脅威に怯える人々の隠れ家のような役割も果たしており、金に余裕のある我が身大事なセレブ達が金を振りまきながら足を揃えて訪れる場所なのだ。


セレブだけでない。至るまでは違えど言ってしまえば『貴族』もだ。


世界政治の柱とされるプライド高き貴族はどこに行っても重宝された扱いを受け、権力を測れば大統領など犬に過ぎない。


そんな絶対的権力を持つ貴族に何かあっては世界問題に発展してしまう。


流石にそれはまずい。そう考えた世界政府は嫌だ嫌だと言い張る貴族たちを全員、各童進島にぶち込んだ。


そのため童進島には貴族達が溢れており、都市にはどこぞの高級店やホテルが立ち並んでいる。


童進島のセレブの中には貴族の子供を誘拐し身代金を要求するアホもいるが、大抵誘拐した子供に返り討ちにされるのがほとんどだ。


貴族の子供といえば世間では有名で、貴族同士の強い血統を持つ者同士での縁組の末で産まれた子供は親よりもより強大な力を持って生まれてくると言われている。


だからといってはなんだが、力が強いということもあり貴族の子供達もWDSで日々訓練を受けているのだ。





 「そこのおにぃさぁん。

  私達の店寄ってってよぉ」


 「えっ! 俺ぇ。

  んまぁー、しょうがないなぁ」


都心部からやや外れた場所にある夜の街にて。


仕事終わりの働人それぞれが帰路につく中、道行く人々の耳に店や宗教などの誘いの声が聴こえる。


ジャラジャラと宝石を全身に飾り、ボディガードをつける婦人にも、平均月給の生活ギリギリのサラリーマン達にもだ。


そして、黒いフードを深くかぶった人物にも。


左右からうるさく鳴る勧誘にも目もくれずフードの人物はワイワイと騒がしい街を歩く。


その人物とすれ違う人々は初めは必ずその人物に対して良い印象を受けない。


それは無理もないこと。


このような賑わった場所に暗い印象を与えてくる存在がいるだけで目障りなのだから。


たがそれも一瞬のことにすぎないのだ。


その人物が歩みを進ませる度に僅かに浮くフードの隙間の奥に見える顔を見た瞬間に人々は皆思うだろう。


綺麗だ、可愛いなどでは言い表せない。


比喩を使えば、「女神だ」と。


見える範囲だけでも顔が整っているだろうことを示す横顔は人々を魅了し、少女の見事なプロポーションは芸術作品の他何でもなかった。


が、少女が人々から目を向けられる理由はそれだけでは無い。


確かに少女の外見は完璧と言う他ない。


だがそれをさらに引き立てる別要素があった。


貴族印だ。


右手首の部分に微かに輝る光の輪のようなものがその少女が高貴である証明だった。


貴族の子供ともなればホストやチンピラ、ナンパ野郎も容易には手が出せない。


もし貴族の子に身分の低い一般人が手を出したともなればただでは済まない。


貴族が決めた憲法に反したとされて無島に島流しだ。

(実際に逆らったものがいない為あくまで噂)


そういうこともあり、少女はかってに空いてゆく道をただただ無言のまま進む。


貴族の定めた憲法に反したものはいない。


ただ、それは表の合法の世界に限る。


裏の世界では凄腕の仕事人を雇って、貴族の子を誘拐、または殺しなどがあったりする。


そうならないために強くなる。


それが貴族が強くなる一つの理由なのかもしれない。





 「暇なの?」


ワイワイと賑わう通りから外れ、裏路地に入った少女は小さなカウンターに寝そべる金髪の女に声をかけた。


 「ん? おぅ! 『美香みか』!

  久々の外はどうだったよ?」 


少女に____美香に気づくなり女は嬉しそうに飛び起きバシバシと美香の肩を叩く。


 「ちょっと……。

  外はこことあんまり大差なかったわ」


 「カッカッカッ、そうかそうか。

  変わんねぇか」


 「もう他のみんなは帰ってきたの?」


 「いーやっ、美香がトップだな」


 「そう」


 「ってか、いい加減そのフード取れよ」


 「そうね」


フードを頭から降ろし団子状にまとめられていたサラサラとなびく白髪が腰のあたりまで降ろされる。 


 「フュー、そのガラでどんだけのオスを虜に

  してきたんだ?」


 「…………あなたそれ毎回言うわね」


 「いいじゃんよ。

  で、好きなオスはいるのか?

  美香も年頃だから、なぁ?」


 「オスって……、まだここに(WDS)に入っ

  て一ヶ月も立ってないんだからいるわけ無

  いでしょ」


 「分かんないぜ?

  恋ってのはいつ始まってもおかしくねぇ」


 「はいはいそうね。

  じゃぁ私はもう行くから」


 「えー!

  久々に会ったんだからもうちょっと話そう

  ぜ」


 「今そうゆう気分じゃないの。

  それじゃ」


美香は軽く手を挙げカウンターを通り過ぎ、後ろからブーブーうるさい金髪女を見てクスリと笑うと陰気が漂う廃棄ビルの中へと入っていった。


この廃棄ビルは外見こそはボロボロだが中は割と綺麗で、男子生徒や一般人が女子寮に侵入するのを防ぐ隠し通路のような役割を果たしている。


そう、普段は割と綺麗なのだ。


が…………、


 「これは……」


美香が外に出るときに使用したときとは一変して目の前にはなんとも言えない殺風景が広がっていた。


電気の源は破壊され、天井は大きく抉られ何層にも渡ってポッカリと空いていた。


幸い女子寮に続く隠し通路は無事ではいたものの、その他の大部分は天井の落石物で埋まっていた。


いつ崩れてもおかしくない落石物に注意を払いながら美香は隠し通路入り口を目指す。


 「エレベーターは………まぁ、止まってるわよ

  ね」


本来であれば階一つの上がる程度軽くジャンプしただけで登れるのだが、なにせこの状況。


強い衝撃を与えて更に崩れたら話にならない。


美香は進む方向をやや変えて上に通じるハシゴに近づく。


ハシゴの表面はだいぶ錆びてはいたが、美香が少し強めに揺らしても微動だにしないほどの丈夫さは残っていた。


目線少し上のハシゴの一本を掴み、グッと体を引き寄せそれを弾むように上へと弾き出し、その勢いを殺さぬまま美香は三階の床へと静かに着地。


隠し通路までの入り口まで残りわずか。


 「うん。完璧」


美香はここまで何のミスもせずにやってきた自分に賞賛を送る。


が、次の瞬間………!


ムニュリ………とした感触が美香の足を捉えた。


突然のことにビクリと肩を上げ、恐る恐る下を見るとそこには…………


 「男の人?」


美香の左足を力なく握り、薄気味悪く、それでいて淀みのない空色の瞳が美香を威嚇するように捉えていた。


 「………っ、何?」


多少たじろぎながらも美香も負けじと睨み返す。


しばらく見つめ合う………、睨み合う時間が過ぎてゆき、それに伴って少しずつ空色の瞳も閉じていった。


意識が完全に落ち、左足が開放されたところで下の階の方で賑やかな声が美香の耳に入った。


美香同様、ユーシア外に出ていた女子生徒が戻ってきたのだ。


 (ちょうどいいわ)


そう思った美香は空いた穴から顔を覗かせ下の階の生徒に声をかけた。


が、下ではボロボロのビル内を見て軽いパニック状態に陥っていた生徒たちがアセアセと教員へと電話のコールを鳴らしていた。


 「………………」


介護の手伝いをしてもらおうと思っていた美香にとって、ここで教員に男を連れ込んだと勘違いされてはたまったものじゃない。


すぐに気を失った少年の腕を取り体を起こさせると歪んだ床に気をつけながらササササッと隠し通路へと入り、寮までの道を直行した。


寮につく前に一度教員に見つかってしまったが、美香の決死の隠しの圧で教員を無理やり退けたことにより難を逃れた。


寮内に入る際にはどうしても入り口の職員に扉を開けてもらわなければならない為、美香は近くに落ちていた手頃な石を掴むと自分が住んでいる1207号室の窓に向けて軽く投球。


パリンッと爽快な音を立て割れた窓に今度は気を失った少年を投球。


今度は何かタンスにでもぶつかったような鈍い音がした。


こうして身軽になった美香は何食わぬ顔で扉を通り、エレベーターで自分の部屋へ。


1207号室の扉の前では美香の投げる力が勢い余ったのか、扉を破壊しうつ伏せで床に転がる少年がいた。


 「はぁ………」


キョロキョロと誰も見ていないことを確認して急ぎ部屋の中に連れ込み、壊してしまった扉の自動修復システムを起動。


ようやく安心できる場に辿り着き、ほっと一安心したところで美香はぐったりする少年を自分のベットに寝かせる。


これでようやく一段落。


はぁ〜と、深くため息をついた後、手でベットを押して立ち上がり、


 「………お風呂入らなきゃ」


明日再び始まる学院生活に向け、身体に張り付いた衣服を洗濯ロボに吸い込ませて洗面所に向かうのだった。





  これが、六条美香と謎の少年との出会い。

  



  今、この瞬間から数年にも及ぶ物語が始ま

  った。





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